第22話 デート?


 国王陛下と王妃陛下との食事会が終わり、翌日。


 私は久しぶりの休暇で、商店街に来ていた。

 買い物をしに来たのだが、前は屋敷に商人を呼んでドレスや宝飾品を買っていた。


 公爵夫人だからそれもできるのだが、気分転換をするために外に来たのだ。


 最近はお茶会で令嬢や夫人と座ってしゃべり続けたり、会場の中で歩いてたりしたから、ずっと室内だった。


 移動する時も馬車で、外に出ることが少なかった。

 だから買い物に来たのだが……。


「その、いいんですか? 付き合ってもらっても……」

「ああ、問題ない」


 まさか、アランと一緒に商店街に来るなんて。

 彼も今日は休暇のようで、私が商店街に行くと伝えると、一緒に行くと言ってくれたのだ。


 今は二人で並んで商店街を歩いている最中だ。


 ベルンハルド公爵家当主のアランは有名人で、顔も良いから目立つと思ったんだけど。


「その眼鏡は魔道具ですか?」

「ああ、顔があまり認識できなくなる効果を持つ。私は目立つからな、重宝している」


 何の変哲もない黒縁の眼鏡のように見えるが、しっかりとした魔道具のようだ。

 周りに人が多いのに、アランのことをほとんど見ていない。


 アランが社交の場にいたら、いろんな令嬢に見惚れられることが多いのに。


「私には普通に見えますが?」

「隣にいたら、さすがに効果は薄れる」


 そうなのね、私には本当に普通にアランの顔が見える。

 眼鏡をかけても似合っていて、カッコいいわね。


「そんなに私の顔を見てどうした?」

「あ、いえ、眼鏡姿も素敵だと思いまして」

「そうか、ありがとう。この姿も、ってことは、いつも思っているってことか?」

「……その、客観的に見て、アランは素敵ですから」

「ふっ、なるほど」


 アランは少し揶揄うように笑った。

 またその笑顔にドキッとしてしまったが、アランはずるいわね……。


「ほ、ほら、早く行きましょう。今日は買いたい物があるんです」

「ああ、わかった。ソフィーア、手を」

「はい」


 アランに手を差し出されたから繋いでしまったけど、ここは社交の場ではないからエスコートは必要ない。


 反射的に繋いでしまったけど、まさかエスコートをしてくれるとは。

 なんだかデートみたいだけど……いいのかしら?


 少しドキドキしながら、私とアランは商店街を歩き出した。


 今日買おうと思っているのは、全部レベッカのためのものだ。


 最近はレベッカと長く一緒にいる機会が少なかった。

 時々彼女と話したりすると、勉強などをしっかり頑張っているみたいだ。


 だからその頑張りを褒めるために、彼女の好きそうなものを買ってあげるつもりだ。


 レベッカはウサギが好きで、甘いお菓子も好きだ。

 それと私と一緒に料理するのも好きと言ってくれていて、とても可愛くて嬉しい。


 さすがにウサギを飼うことは……できないよね? あれ、できるのかしら?


 アランに頼めば飼えそうだけど、まだいいだろう。


 とりあえず今日は、また甘いお菓子を作る道具を買う予定だ。


「ここです、アラン」

「そうか」


 調理器具が売っている店に入って、並んでいる商品を見ていく。

 次にレベッカと作りたいと思っているのはクッキーで、クッキーをウサギの形にするための型抜きが欲しい。


「あ、ありました」

「ふむ、これを探していたのか?」

「はい、結構種類が多いですね」


 ウサギの形もあれば、犬や猫などの動物、他にも星やハート形のものもある。

 レベッカはウサギが好きなのは知っているけど、他はどれが好きなのかしら?


 こんなに種類があると思っていなかったから、迷うわね。


「アランはどれがいいと思いますか?」

「全部でいいんじゃないか?」

「……確かに全部買っても問題はないですが」


 私の品位維持費だけで、ここのお店に並んでいる商品を全部買えるけど。

 買い物の醍醐味というのはそういうことじゃない。


 商品を見て悩む、というのも楽しいのだ。

 しかも今回は自分のためじゃなく、レベッカのための買い物。


 彼女のために買い物をするというだけで楽しい。


 だけど型抜きに関しては、全部買ってもいいかもしれない。値段もそこまで高くないしね。


「じゃあこれを全部買ってきます」

「いや、私が買おう」

「えっ、ですがこれは私の買い物ですよ?」

「妻のソフィーアの買い物は、夫の私の買い物でもある。問題ないだろう」

「あ、ありがとうございます」


 妻とか夫とか言ってくれるのが少しドキッとする。

 ここは素直に甘えて、アランに払ってもらう。


 私の品格維持費で払うと言っても、元を辿れば公爵家の、彼のお金だから財布は同じだ。

 いろんな型抜きを買って店を出る。商品は彼が全部持ってくれている。


 だけどこれからもっと買おうと思っているのだけど、大丈夫かしら?


 そう思っていたら、どこからか執事長のネオが現れた。


「アラン様、荷物をお持ちします」

「ああ、頼んだ」

「はい、ではごゆっくり」


 ネオは一礼してすぐに去っていった。


 えっ、ネオがずっとついてきていたの? 全く気付かなかったけど。


「アラン、ネオがついてきていたのですか?」

「ああ、他にも公爵家抱えの騎士が何人か周りにいるぞ」

「えっ、そうなのですか!?」


 私は周りを見渡すが、それらしい姿は見えない。


「私達の邪魔をしないように騎士の格好はしていないから、ソフィーアはわからないと思うぞ」

「そうなのですね……アランはどこにいるかわかるのですか?」

「ああ、例えばあそこの店前にいる二人。あれは騎士だ」

「……なぜわかるのですか?」


 確かに店前に二人の男性がいるが、武器も持っていないし普通に街に馴染んでいる人にしか見えないが。


「騎士の顔を覚えているのですか?」

「それもあるが、ずっとついてきている気配があるからな。私も剣や魔法を学んでいるから、その程度はわかる」

「なるほど……」


 アランはとても優秀で剣と魔法もすごいから、騎士の人の気配が読めるのね。

 彼がチラッと店前にいる男性二人を見ると、少しビクッとしてそそくさと離れていった。


 今の反応を見ると、確かにあの二人は騎士みたい。


 公爵家だから街に出るのにも護衛は必要ということね。


 だけどこれでどれだけ多くの物を買っても、ネオや他の騎士達に持たせられるということね。


「では次に行きましょう、アラン」

「ああ。ソフィーア、手を」

「……あの、ここは社交の場ではないので、エスコートをしなくてもいいのですよ?」


 さっきは咄嗟に手を繋いでしまったが、とりあえず確認してみる。

 彼も私と同じように、いつもの社交の場の感覚でエスコートをしているだけかもしれないから。


「ん? エスコートをしてほしくないのか?」

「いや、そうではありませんが。アランに無理をさせるわけにはいかないと思いまして」

「無理などしていない。私がやりたいだけなのだから」


 アランはそう言って、私に差し出した手を下ろそうとはしない。


「そう、ですか。ではお言葉に甘えて」

「ああ、それでいい」


 彼と手を繋いで、また次の店へと歩き出す。


 私はアランと「家族になりたい」とは言ったけど、ここまで妻として優しく接してくれるとは思っていなかった。


 だけど勘違いしないようにしないと、私達はただの家族なんだから。


 ……そう思いながら、高鳴る胸と熱くなる頬を落ち着かせようと深呼吸をした。


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