第16話 社交界で初めまして?


 社交界の会場に入り、まずビックリしたのは会場の大きさ。


 何回も社交界やお茶会に出てきたが、こんなに大きな会場は初めてだ。

 貧乏伯爵令嬢だったので、大きな会場でやる社交界には呼ばれなかった。


 本当にすごいわね、これだけで圧倒されそうだわ。


 これからレベッカもこんな会場で社交界をやっていくのね……大丈夫かしら?


 最初の社交界デビューはもう少し小さい方が……いや、最初から大きい会場になれた方がいいのかしら?


 レベッカの社交界デビューは絶対に可愛くて綺麗に仕上げたいわね、この世の誰よりも可愛くなることは間違いないんだから。


 ……ふぅ、レベッカのことを思い出したら、さっきのアランに言われた言葉での緊張が少し抜けてきた。


 アランも私の緊張をほぐすために言っただけだろう、うん、深い意味はない。

 彼の腕に手を添えながら会場を回っていると、いろんな人に挨拶される。


 やはりベルンハルド公爵家だから、彼と話したい人が多いのだろう。


 貧乏伯爵だった私は誰からも挨拶されないし、挨拶しに行くのが当たり前だったから、少し違和感があるわね。

 これからはこれが当たり前になるんだから、慣れないといけない。


 今はアランと別行動をしているのだが、それでも私に挨拶しに来る人が多い。


「ベルンハルド公爵夫人、初めまして。チルタリス侯爵です、以後お見知りおきを」

「初めまして、チルタリス侯爵。ソフィーア・ベルンハルドです」


 チルタリス侯爵家、侯爵家の中でもかなり上位の家柄。

 当主のチルタリス侯爵は髭を生やした初老の方、といった風貌だ。


 伯爵家にいた頃じゃ挨拶もできなかったような貴族。


 それが今では当主の方から笑みを浮かべて挨拶しに来るなんて、すごいわね。


「初めまして、ベルンハルド公爵夫人。私はアナエニフ伯爵です。こちらは娘のナタシャです」

「ナタシャです。初めまして、ベルンハルド公爵夫人」


 次に来たのはアナエニフ伯爵家の当主の方と、その令嬢のナタシャ。

 私も相手と同じように笑みを浮かべながら挨拶をするが、一つ言いたいことが。


「初めまして、アナエニフ伯爵。ですがナタシャ嬢とは、会ったことがありますよ」

「えっ?」

「っ……」


 アナエニフ伯爵は本当に知らなかったようだが、ナタシャは笑みが崩れた。


「私とナタシャ嬢は魔法学院で同じ教室で授業を受けていたのです」

「そ、そうだったのですか」


 気まずそうにしているアナエニフ伯爵は、娘のナタシャを睨んでいる。

 なんで言わなかったんだ、と怒っているような視線だ。


「忘れてしまったのでしょうか? 寂しいですね」


 私は笑みを浮かべながらナタシャに話しかける。


 忘れていたわけじゃないだろう。

 言いたくなかったんでしょうね。


 ナタシャは、私を一番見下していた令嬢の中の一人だ。


 同じ伯爵家だけど、貧乏な家系の私と、裕福なナタシャの家系。

 魔法学園に入学する前から見下されていたけど、入学する時は私の方が魔力量があったので、最初は憎たらしそうに睨まれていた。


 だけど私が魔法ができないとわかってから、さらにまた見下されるようになった。

 それから魔法学園でも社交界でもずっと陰で笑われてきた。


 だから私はナタシャを覚えているし、彼女も私を覚えているだろう。


「あ、あの、えっと……」


 とても困っている様子のナタシャ。

 彼女の父親のアナエニフ伯爵も気まずそうにしているわね。


 うーん、この空気は周りにも伝わりそうだし、適当に誤魔化そうかしら。


「私は魔法学園を一年で卒業したので、記憶に残ってなくても仕方ないかと思います」

「そ、そうでしたか! 娘のナタシャは三年ほど通っていて、記憶力もある方ではないんですよ。申し訳ありません、ベルンハルド公爵夫人」


 アナエニフ伯爵が余裕のない愛想笑いをして、焦りながらもそう話した。

 自分の娘を下げるような言い方をしているが、親心がないわね。


 まあ娘が娘なら、親も親よね。


「今後、覚えていただけると嬉しいです」

「か、寛大なお心に感謝いたします、ベルンハルド公爵夫人」


 私も愛想笑いをしながらナタシャに話しかけると、ナタシャも崩れた笑みでお礼を言ってくる。


 ふふっ、なんだか胸がすくような気分ね。

 もう少し何か言いたいような気もするけど、この場では相応しくないだろう。


「で、では私達はこれで。失礼します、ベルンハルド公爵夫人」

「失礼します」

「ええ、お互いにパーティーを楽しみましょう」


 気まずい雰囲気になったから、早々にアナエニフ伯爵がナタシャを連れて私の下から去っていった。


 去る時に一瞬、ナタシャが強く私のことを睨んできた気がする。


 そういえばナタシャは、誰かは忘れたけど公爵家の殿方が好きと言っていた。

 もしかしたら、それがアランだったのかしら?


 彼女のことは少し気になるけど、今は大事な時間で集中しないといけない。


 まだいろんな人と挨拶をしないといけないのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る