第15話 初の社交界
そして、社交パーティー当日。
私は本邸でドレスを着て化粧をし、準備万端だった。
私の準備をする姿を、レベッカがずっと見ていた。
「ソフィーア様、お綺麗です!」
「ありがとう、レベッカ。暇じゃなかった?」
「いえ、見ていてとても楽しかったです!」
「そう? それならよかったわ」
やっぱりレベッカも女の子だから、ドレスや宝飾品、化粧とかが気になるのね。
今日は黒を基調に金色の刺繍が入っているドレスで、宝飾品なども豪華で煌びやかな物が多い。
ベルンハルド公爵夫人として、初めての社交界デビューだ。
社交界には何回も出てきたけど、今までで一番緊張するかもしれない。
今までは貧乏な伯爵家令嬢だったからあまり注目を浴びることはなかったけど、今は公爵夫人。注目度が圧倒的に違うだろう。
アランが一緒にいるから多分大丈夫と思うけど、それでも緊張するし不安だ。
「じゃあ行ってくるわね、レベッカ」
「はい、いってらっしゃいませ」
レベッカが可愛らしく見送りをしてくれる。
はぁ、これだけでも癒しね、少し緊張がほぐれるわ。
私はレベッカの頭を撫でてから、本邸を出て門の前に停まっている馬車へと向かう。
すでに準備を終えていたアランが馬車の前で待っていた。
「お待たせしました、アラン……いえ、アラン様」
そうだ、これからは公の場だから、敬称を付けないといけないわね。
最近はずっとアラン呼びだったから、気を付けないと。
アランはいつも外着でピシッとした服装が多かったが、今日はいつもよりも綺麗で厳かな服を着ている。
私と同じく黒色のジャケットで金色の刺繍が入っていて、髪も後ろにかきあげていて、いつもと雰囲気が違う。
端的に言って、とても素敵でカッコいい。
こんな姿で社交界に出ていたら、公爵家当主じゃなくても人気者になるでしょうね。
「ソフィーア。待っていた、準備はできたか?」
「はい、できました」
「よし、行くか。ソフィーア、手を」
「はい」
アランに手を差し出されたので、私はそっと手を置いた。
そういえば、初めて彼と触れ合った気がする。
少しドキドキしてきた、社交界への緊張とは違う胸の高鳴りだ。
お、落ち着くのよ、私。まだ手を繋いだだけなんだから。
馬車に乗り込み、対面に座って社交界の会場へと出発する。
「ソフィーア、大丈夫か。緊張しているようだが」
「はい、確かに少し緊張していますが、大丈夫です」
「何に緊張しているのだ? 社交界は初めてではないだろう」
「もちろん初めでじゃありませんが、公爵夫人としては初めてです。公爵夫人として恥じない振舞いができるか心配で……」
「今日は特に王族もいないし、ベルンハルド家以外の公爵家もいない。私達が緊張するような相手はいないぞ」
そこで王族や他の公爵家の名前を出すあたり、本当にすごい立場なのね、公爵夫人って。
今までは同じ爵位の伯爵家、下の爵位の子爵家にすら貧乏伯爵家として馬鹿にされてきた。
それがいきなり変わると思うから、どんな振舞いをすればいいかよくわからないわね。
「気を付けることと言えば、私の許可なしに事業の約束などをしないことだ。特に大きな金が動く事業などだな」
「かしこまりました」
私が公爵夫人で大きなお金を動かせるようになったから、そこを狙って事業の話をしてくる相手がいるらしい。
もともと貧乏伯爵家の令嬢だったから、お金で釣れると思っている人は多そうだ。
そこは絶対に気を付けないといけないわね。
「あとは比較的自由にやっていい。ベルンハルド公爵家の名に恥じない程度にな」
「……はい」
いや、そこが一番難しいと思うけど……。
だけどアランなりに緊張を解こうとしてくれたのだろう。
「ありがとうございます、アラン様。頑張ります」
「だから頑張らなくてもいいのだがな」
そんなことを話していると、会場に着いて馬車が停まった。
よし、まだ少しだけ緊張しているけど、頑張らないとね。
先にアランが降りて、また手を差し出してエスコートをしてくれる。
「ありがとうございます」
「ああ……ソフィーア、もう一つだけ言っておく」
「なんでしょう?」
会場まで手を繋いだまま、アランは私と視線を合わせる。
「今日の会場で、ソフィーアよりも着飾っていて美しい女性は一人もいない。だから自信を持っていい」
「……はい?」
「ん? 聞こえなかったか?」
「い、いや、聞こえましたが……!」
この至近距離で聞こえないわけがない、だけどまさかそんな口説き文句のようなことを言われるとは……!
こ、これも客観的に見てってことよね?
「公爵夫人として相応しいドレスと宝飾品で着飾っているのだ、それよりも着飾れるほどの貴族は今日の会場にはいない」
「な、なるほど、服や宝飾品の話ですね!」
「ああ」
か、勘違いするところだったわ。
確かに公爵家の財力を使ったドレスと宝飾品だ、これらを超えるのは難しいだろう。
「だがまあ、それらを除いてもソフィーアを上回る女性はいないと思うが」
「えっ……?」
アランの呟いた言葉に、私はまた驚いてしまった。
「そ、それも客観的に見て、ですか?」
「ああ、客観的に見ても、だな」
えっ、その言い方ってつまり……。
「よし、緊張はほぐれたか? 行くぞ、ソフィーア」
「あ、は、はい……」
アランにそう言われて、私は彼の手に引かれて会場へと向かう。
緊張は、まだしている。
だけどさっきとはまた違う緊張で、顔に熱が集まってくる。
これから初めての社交界で、集中して頑張らないといけないのに。
私は会場の中に入るまで、落ち着くために深呼吸をしていた。
その間、できるだけアランの存在を忘れようとしていた。
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