第13話 魔法の学び


 数日後、私とレベッカのお揃いのドレスが届いた。


 青とピンク色が主に使われていて、とても可愛らしくできている。


 正直、私には可愛すぎるドレスかもしれないけど……レベッカの好きな色で作られたドレスなので、レベッカはとても嬉しそうだ。


「こ、これ、本当に私が着てもいいのですか?」

「もちろん、レベッカ。私とお揃いよ」


 レベッカのドレスはピンクを基調に青色が入っていて、私は青色を基調にピンクが少し入っている感じだ。

 デザインや刺繍などは完全に一致しているので、誰が見てもお揃いとわかるだろう。


「お、お揃いもすごく嬉しいです! ありがとうございます、ソフィーア様!」

「ふふっ、喜んでもらえてよかったわ。これは普段着用で作ってもらったから、今日はこれを着ましょうか」

「は、はい!」


 私達は別々の部屋に行って、届いたお揃いのドレスを着た。

 メイドに着替えを手伝ってもらい、レベッカと再び会うと……。


「ど、どうですか……?」

「可愛すぎるわ……!」


 そこには天使がいた。


 ピンク色が基調のドレスだから着る人を選ぶと思うんだけど、レベッカはもう完璧に選ばれた側ね。

 むしろレベッカがこのドレスを選んだ側だわ、うん、自分で何を言っているのかよくわからないわね。


 それくらい似合っていて愛らしい。


「レベッカ、とても似合っているわ」

「あ、ありがとうございます。ソフィーア様も、とてもお似合いでお綺麗です!」

「ふふっ、ありがとう」


 今着ているのはまだ社交界用ではなく普段着用だから、比較的動きやすい。


 社交界ではこれよりも動きにくいドレスを着て、ダンスをしないといけないのがとても大変だけど……。


「じゃあ今日はこの服のまま授業をしていきましょうか」

「はい!」


 うん、いい返事で可愛らしい笑みね。

 だけど今日の授業は私がやるのではなく、私は見ているだけとなるだろう。


 なぜなら……。


「本日は、魔法を学びましょう」

「はい、お願いします、ネオさん」


 今日は本邸の庭で、執事長のネオに魔法を学ぶからだだ。

 私も魔法学は学んでいるので、理論とかはだいたいはわかっている。


 だけど実技となると、全く話は別だ。


「ソフィーア様は魔法がほとんどできないとのことなので、私が教えますね」

「ええ、お願いするわ、ネオ」


 そう、私は魔法が使えないのだ。


 魔法は貴族だったらほとんどの人が使えて、爵位が高い人ほど強い傾向にある。

 だけど私は魔法が使えないから、レベッカに魔法を教えるなら他の者に頼るしかない。


 幸い、執事長のネオは子爵家の子息なので、すぐに教える人は見つかった。


 もちろんアランも魔法を使えるし、公爵家当主なのでめちゃくちゃ魔法は上手いだろう。

 だけど忙しいから教えることはできない。


「初めて魔法を使うのですよね?」

「は、はい」

「ではまず水を発現するところから始めましょうか。一番簡単で、火の魔法とかよりも失敗しても安全ですから」

「わ、わかりました!」


 魔法は結構難しく、十歳の子供ができるようなものではない。


 魔力を持っている者なら十二歳くらいから魔法学園にはいらないといけない。


 ほとんどの貴族が魔力を持っているので、大抵はそこに入る。

 そこで最低限の魔法の扱いなどを学んで、学園を卒業するか、残ってさらに魔法を学ぶかを選ぶ。


 だから十歳で魔法なんて普通は使えなくてもいいし、使えないものなんだけど……。


「こ、これで大丈夫ですか?」

「はい、とても素晴らしいですね、レベッカ様」

「あ、ありがとうございます。ですが形が安定していなくて……すみません」

「いえいえ、とてもすごいですよ。いや本当に、全くお世辞じゃなく、ありえないくらいに」


 うん、やっぱりレベッカは天才ね。

 見本でネオがやってみせた水の球体を作るのを、一発でほぼ完璧にやってみせた。


 しかも魔力量が多いのか、どう見てもネオの魔法よりも大きい。


 形が崩れているかもしれないけど、それは大きいから形を維持するのが難しいだけだと思う。


「やはりレベッカ様はベルンハルド公爵家の令嬢ですね、さすがです」

「本当にすごいわね、レベッカ」

「あ、ありがとうございます……」


 頬を染めて照れているレベッカ、可愛らしいけど隣に大きな水の球体があるのは違和感がすごいわね。

 その後も魔法の練習を続けていくので、私は少し離れたところから見守っていた。


 すると、後ろから声をかけられた。


「ソフィーア」

「あ、アラン、ご機嫌よう」


 仕事が終わって帰ってきたのか、外着姿のアランが立っていた。

 相変わらず佇まいや容姿が美しいわね、無表情だけど。


「魔法の練習か」

「はい、そうです。私は魔法を使えないので、ネオに任せています」

「なるほど……レベッカの素質は悪くないようだな」

「……あれで悪くない、程度ですか?」

「む、違うのか?」

「十歳であれは才能がめちゃくちゃあると思うのですが……」

「そうなのか、私は七歳くらいであの程度はできたから、わからないが」


 やっぱりレベッカもいろんな才能があるけど、アランほどじゃなさそうね。


 というかアランが本当に才能がありすぎて……できないことなんて、この世に一つもなさそうね。


「確かソフィーアは魔力があるのに魔法が使えないのだな」

「はい、そうですね。魔力があったので魔法学園には通いましたが、魔法が使えなかったので一年で卒業しました」


 魔力があっても魔法を使えない者は稀にいる。

 私も学園に入学する時は魔力量が高くて注目されていたけど、魔法が全く使えなかった。


 周りにはなぜこんなに魔力があるのに、と不思議がられたけど、私にはギフテッドがあるからだろう。

 ギフテッドも魔力を使うので、私の魔力はおそらく予知夢に全て使われている。


 だから魔法が一切使えない、と推測している。


 私が予知夢のギフテッドを持っていることは誰にも話してないので、私はただ魔力量が高いだけで魔法が使えない者、として判断されて卒業をした。


「そうか、そういう人もいるのだな」


 アランは特に変わった様子もなく、普通の相槌をした。

 魔法学園に入学して魔法も使えずに卒業する人なんてほぼいないし、馬鹿にする人が多いのだが……。


 アランはやはりそういう人ではないわよね。


 わかっていたけど、少し安心した。


 まあ私に興味がないだけかもしれないけど……。


「ん……ソフィーア、その服はレベッカとお揃いなのか?」

「あ、はい、そうです」


 アランも気づいてくれた。まあ見ればすぐにわかるくらいにはお揃いだから、気づいて当然ではあるけど。

 でもしっかり言ってくれるとは。


「私とレベッカが家族になった証として、お揃いのものが欲しいと思いまして。前に商人の方々が来た時に、お揃いのものを作ってもらいました」

「なるほど」

「あっ、私の品格維持費で買ってしまいましたが、大丈夫でしたか?」


 一応あのお金はその名の通り、私の品格を維持するためのお金。

 レベッカの物を買うものではないのだが……。


「ああ、全く問題ない。あれはあなたへの小遣い、だと思ってくれていい」

「わかりました、ありがとうございます」


 よし、やっぱり問題ないみたいね。

 ふふっ、これからいっぱいレベッカのために買うわよ……!


「私のはないのか?」

「はい?」

「私のお揃いの服などはないのか?」


 えっ、き、聞き間違いかしら?

 いや、この距離で聞き間違えることはないと思うけど……アランも、私達とお揃いの服が欲しいの?


「す、すみません、用意してません」

「……そうか」


 あ、表情はほとんど変わってないのに、落ち込んでいるわね。


 なぜわかったのかしら?

 アランともここ一カ月ほど一緒に夕食を食べたりしてきたから、彼の表情の変化とかに慣れてきたというのもあるわね。


 だけどまさか私達と一緒の服が欲しいなんて思わなかった。


 確かに私から「家族になりましょう」と言っておきながら、仲間外れは可哀想ね。


「すみません、次は用意しておきますね」

「……ああ、任せた」

「はい」


 ん、少し機嫌が直ったかしら?

 意外と可愛らしいところがあるわね、アランも。


 最初に会った時とかはこんな人だとは思わなかったけど。


「わかっていると思うが、明後日は社交界だ。準備はできているな?」

「はい、もちろんです」


 そのためにドレスや宝飾品を揃えたのだ。

 だけど公爵夫人になってからは初めての社交界で、少し緊張するわね。


「そうか、では明後日は頼む」

「はい、よろしくお願いします」

「では、私はこれで」

「お仕事頑張ってください」

「ああ」


 外でやる仕事が終わってからこちらに来てくれて、屋敷に戻るようだ。


 屋敷に戻るところを見送ろうと、レベッカ達の方に背を向けた瞬間――。


「――奥様、危ない!!」

「えっ」


 ネオの焦った声が聞こえて振り向くと、目の前に土の塊のようなものが迫っていた。

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