15_生存遊戯_セレネ

 


 セレネはサバイバルゲームを生き残るために決戦の舞台を整えた。


 


 


 コンクリートを積み上げカモフラージュを施し銃口とスコープだけが覗けるように障害物を配置する。


 


 間もなく日没。本来であれば一番狙撃に適している時間が今だが、相手もそれは知っている、したがって完全に暗くなった夜にセレネを狙う。


 


(昼間はティータイムにできるくらい穏やかだったということは夜用の装備が十分にあるということね。まぁ、あれだけあからさまに狙撃の腕を見せつけたのだから視界の悪い夜を狙うのも当然ね)


 


 セレネは常に冷静さを保とうとする。


 どう考えても3対1、相手は大の男が三人、それも最新鋭の装備に全身身を包んでいる。


 


(負けても……ふっ、負けを考える時点で負け組ね)


 


 セレネはアハトノインを握り直す。


 


(私は、サバイバルゲームに買って、両親の遺産を取り戻して、会社を大きくして大金を稼いで良い男を見つけて、子供に恵まれて、静かな余生を送りながら旦那を看取って静かに孫に囲まれて死ぬのよ。そのために何人殺そうが知ったことですか)


 


 宣言にも似たそれを胸に、セレネは男達がやって来るのをひたすら待った。


 


 敵に居場所を悟られていない。


 セレネを見つける手段を男達は持っていない。


 男達を見つけて確実に撃ち抜ける。


 


 この要素が全て揃わないとセレネが勝つのは難しい。


 


(危険な賭よね。ほんとに)


 


 


 徐々に太陽が落ち闇の時間が支配する。


 


 


 セレネが狙撃位置に着いてからおおよそ2時間で男達は姿を現した。


 


(はぁ!? 強化外骨格って聞いてないわよ)


 


 全身の筋力を大幅に向上させ、防弾防刃防光性能を有している。


 またAIアシストや暗視に熱感知、音響感知などの機能も有しているものが一般的。


 


(この銃弾じゃまず勝ち目がないじゃない。首関節をピンポイント射撃して頸椎を粉砕させるくらいしかないじゃない! ああでもそれで殺せるわね。よしいけるわ)


 


 謎の自信でセレネは自分を鼓舞する。


 


 深呼吸、少し息を吐いて狙いを定める。


 


 


 このトリガーを引いたとき、セレネの命運は決まる。


 


(死にたくない。今日は死なない。セレネ・シュミットトリガには夢があるもの!)


 


 祈りと宣言を込めた弾丸を解き放つ。


 


 


 ストック越しの衝撃、距離は700m――


 


 


 高い音が鳴る。


 


 命運、尽きる。


 


 セレネの放った銃弾は男の一人の頭部を撃ち抜いたが、強化外骨格の前では豆鉄砲に過ぎない。


 


(しくじった!)


 


 セレネはボルトをスライドさせながら廃ビルの中を駆け、下の階へと進む。


 


 


 だがしかし、強化外骨格に身を包んだ男達の移動は凄まじくあと一歩もところで廃ビルを飛び出せたがそこで鉢合わせする。


 


 足を緩めることなく走り続けるが、男達の銃口が光る度に祈る。


 


 レーザーで焼き切れた壁の焦げ臭い香りに死を感じながらセレネはライフルを構える。


 


 構える。狙う。撃つ。


 


 この間、実に0.5秒。


 


 


 男達の三つ並ぶ銃口の一つを潰す。


 


 


「クソッ」


 


 セレネは廃ビルの柱に隠れながら移動を続ける。


 


 銃を破壊された男は、警棒のようなものを構える。


 


(スタンロッドじゃない)


 


 生身のセレネと追いかけっこになるが、どうなるかはわかりやすいだろう。


 


 全力で駆け出すがここで更に不幸が訪れる。


 


「ガァア!」


 


 感染者が身を潜めていた。セレネに抱きつく形で押さえ込まれる。


 


 


「Scheisse!」


 


 噛まれながらもセレネは感染者を振り解きながら脳天にライフル弾をお見舞いする。


 


 


 


 それが災いして、あっという間にセレネは長い亜麻色の髪を掴まれる。


 


(ここまで――ね)


 


 


 


「女を捕まえた!」


 


 


 セレネは髪の毛を掴んだ男の方に視線を送る。


 


 


 


 男の顔は背中の方に向いていた。


 


「Ach……」


 


 天井に立っている人がいた。


 


 黒いレインコートを纏い。奇怪の両手両足、しかもその手はスタンロッドを持った男の首を捻って1回転させている。


 


 フードで顔はよく見えない。人間なのかさえも怪しい。


 


 奇妙な怪物は天井に張り付くのを止めると空中で体を反転させて地面に降り立つ。




 レインコートの裾から尻尾のようなものが見えている。


 


「##############?」


 


(この声――)


 


 セレネは手を伸ばそうとするが、彼はそれ以上に早く残りの男を始末するために駆けだした。


 


 


 この怪物こそ、後のセレネの人生に最も影響を与えることになる人物である。


 たった今、セレネはようやく理解した。

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