14_生存遊戯_ナガト

 セレネが戦いを始める少し前に戻る。


 ナガトはセレネが最後の戦いに向う背中を見て別れることになった。


 


 


(本当にこれで良かったのかな)


 


 ナガトの心は決まらない。


 


(僕に力があればセレネを助けられたのかな……)


 


 取り留めのない思いが流れ落ちる。


 


 


 ガサガサと音が聞こえる。


 


 ナガトは体勢を低くして物陰に隠れる。廃墟が並ぶ新宿に何人かの足音が響き渡る。


 


「早くしろ、あの女捕まえて痛めつけてから殺すぞ!」


「おう!」


「わかってるっての!」


 


 そんな声が聞こえた。幸いにもわかりやすい英語だったためナガトにも何となく何を言っているのかわかった。


 


 


(まずいな、こっちからのルートだと罠が少ない!)


 


 ナガトは男達が去って行くのを見てから何か使える物が無いか探すが、すぐに見つかるわけもない。


 


(何か、何かを使えるものは……)


 


 


 


 ナガトはあることを思いだしてピタリと体を止める。


 


 数十秒悩んだ末に、ナガトは決断する。


 


「トッケイ出てこい! トッケイ!」


「なんだ?」


「セレネが大変なんだ。力を貸して欲しい」


「……それは構わねえけど、俺に力を借りるとどうなるわかっているのか?」


 


「それは――」


 


 


 ナガトの脳裏に見覚えのない記憶がフラッシュバックする。ショックで頭が割れてしまいそうだった。


 


「もう、薄々わかってんだろ?」


「それは……」


 


 ナガトは口をつぐむ。


 


 


(最初からわかっていたかもしれない。だけどこれを認めたら僕は――)


 


 


 ナガトは決意する。


 


 


「トッケイ、君にこの体を返すよ」


 


 


 


「いいんだな?」


 


「うん、セレネをよろしくね」


 


 


 


 


 ナガトの意識は徐々に消えて走馬灯が走る。


 


 


 


 


 今から6年前、ナガトの一家は東京都中心とした全国各地で発生した大規模地震、そして未知のウイルスの猛威に晒されていた。


 


 それでもナガトと家族は必死に生きていた。


 


 あの日までは。


 


「ただいま」


 


 そう言って反応したのは家族の顔をしたバケモノだった。


 


 ナガトは迫り来るバケモノを次々と殺した。


 


 


 つまり、ナガトは家族を手にかけたのだ。出かけていなくなっていた姉以外の全員を。


 


 そのショックに耐えられず、ナガトは記憶と人格を切り離し、今のナガトの原型となる臆病でひ弱な感じに振る舞う人格を形成した。


 


 それが今までのナガトだった。そしてトッケイと呼んでいたバケモノこそ、ナガト本来の人格になる。


 


 


「はぁ……」


 


 ナガトは全ての記憶を思い出す。


 


「僕は……俺は……僕は……俺は……僕、俺は僕は俺は俺は俺は!」


 


 ナガトは靴を脱ぐ。


 


「思い出してきたな。マジで何やってんだか」


 


 記憶の歯車がかみ合い始める。


 


「俺は特殊感染者irREgularで――」


 


 息を吸い込んで吐き出す。


 


 春はまだ芽吹かない。ほんのり温かい空気を感じる。


 


 手足は鋭い爪と青白い鱗に所々オレンジ色の斑点が生まれる。指は大きく発達してひだのような吸盤が両手両足に形成する。


 顔は頬や目元の一部に青白い鱗が不規則に生えている。ナガトであることはわかる。


 


 ナガトはバックパックの一番底にある防水性の袋を取り出す。


 中にはポンチョタイプの黒のレインコート、刃渡りの大きいナイフ、パラコードをスネークノットという編み方にしたブレスレットを装備する。


 


「ん? ああ、そういやそうだったな」


 


 腰の辺りからすらっと伸びた長い尻尾は久々の外の世界に楽しげだった。この尻尾は他の体色とは異なる絨毯のような美しさのある柄が特徴的だった。


 


 


(行こうか)


 


 


 ナガトは地面を蹴り上げる。


 廃ビルの外壁に足を吸い付けるとそのまま走り出す。


 


 普通ではあり得ない光景だ。人間がビルの壁を走っている。


 


 


 


 


 


(早く合流しないとまずい!!)

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