02_聖銀福音_ナガト
夜に目を覚ます。
眠りについてからおおよそ4時間ほどだ。
アイリは火の側で横になっている。酷く怯えた顔でまるで今すぐにでも殺されてしまいそうな。そんな表情だった。
(きっと辛い思いをしてきたんだろうな)
ナガトしみじみと月並みなことを思った。
「トッケイ!」
(またアイツか……)
耳元にこびり付く独特の声。
ナガトは立ち上がってボロ小屋の傍を離れる。アイリに何かあっては問題だったからだ。
(できるだけ遠くに――)
「トッケイ! よぉナガト」
闇夜にトッケイと鳴く声が響く。姿は一度も見たことが無い。ナガトはその独特な鳴き声からトッケイと呼んでいる。
「なだよお前」
「シルバーベルに向うんだってな。まぁ行くのは勝手だけどお前が行くのはやめた方がいいんじゃねえか?」
「そうやって僕をここに縛り付けるのかい?」
「ああそうとも。お前はここから離れちゃいけない」
「トッケイお前はいつもいつも――」
「まぁ、好きにしろ。おっと時間だ」
トッケイの気配が消える。
「あの、その、どうかしました? 騒がしいようですが?」
アイリが心配そうにナガトに声をかける。
「トッケイが出ました。もう去って行ったようですが」
「トッケイ……ナガトさんが言っていたバケモノですか」
「はい……でも姿は見せないし襲ってもこないんですよね。時々わけのわからないことを話しかけてくるだけで」
「そうなのですね」
「ええ、さっきも話しかけて来て……」
「私は何も聞こえませんでしたが?」
「え?」
「寝ぼけていただけかもしれませんね」
「そうかもしれませんね」
ナガトはボロ小屋に戻ると焚き火に薪をくべる。
「トッケイでしたっけ?」
「ええ、ここのところほぼ毎日のように夜になると出てきます」
「厄介ですね」
「まぁ、でも明日にはここを離れるのでもうおさらばですけど」
「たしかに、それもそうですね」
「じゃあ、僕は出立の準備をしておきます。アイリさんはもう少し休んでいて下さい」
ナガトはへたったバックパックにサバイバルに使う道具と食糧をよく確認しながら詰め込む。
お湯に松の葉を入れ香り付けをしてから飲む。これで若干泥臭い水がいくらかマシな味になるからだ。
夜明けと共にナガトとアイリの二人は旅を始めた。
「ここから1週間もあればたどり着けるはずです」
「えっと、場所はどの当りに?」
「すみません。秘密の場所なので私の口から他言できないのです」
「そうなんだ」
ナガトは何も疑いもせずに頷く。
「行きましょう」
アイリが指差す方角へ足を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます