第13話 疑念

 雨は降り続き、傘を貸してもらったとはいえずぶ濡れになりながら、一日の疲れを癒すために家にたどり着いた。乾いた服に着替え、ベッドに腰を下ろして一日を振り返った。不快さと心地よさ、ぎこちなさと気楽さが混在する不思議な一日だった。


 佐藤、知佳、小林先生のことを考えずにはいられなかった。そして、それぞれがどれだけ違う存在であるのかを。同じ学校で、同じ教育現場で働いていながら、これほどまでに個性や考え方が違うというのは不思議なことだ。


 雨は窓を打ち続け、音と動きの一定のリズムを刻んでいた。俺は目を閉じて耳を傾け、一日の出来事の重さが肩から抜けていくのを感じた。この平和で孤独な時間の中で、俺は、雨や不快感の中でも、同僚たちと共有した小さなつながりと理解の瞬間に感謝する気持ちになった。


 明日は新しい一日で、可能性とチャレンジに満ちている。しかし今は、雨の音に耳を傾けながら、ベッドの暖かさと眠りの誘惑を感じ、満足している。


 眠りにつくまで、俺の頭の中は、今日の出来事が何度も何度も繰り返された。佐藤、知佳、小林先生、それぞれの性格や行動が、この日の出来事にどのような影響を与えたのか、考えずにはいられなかった。


 佐藤は、ちょっと不思議な存在だった。かわいくて、おどおどしていて、いたずらっぽくて、目がキラキラしている。彼女は数学の授業以外にも、いつも生徒を助けてくれるようだ。しかし、最近何かを隠しているような気がしていた。


 知佳は俺とは幼馴染で、それは二人の接し方にも表れていた。温厚でユーモアがあり、生徒を安心させる天性の教師であった。カウンセラーという職業柄ということで仕方ないのかもしれないが、他人の幸せばかりに気を取られ、自分を犠牲にしているのではないかと思うこともあった。


 そして、小林先生。彼女は冷静沈着で、自信と落ち着きがあり、うらやましい限りだ。留学経験もあり、俺とは違う世界観を持っていることが伝わってきた。でも時々飄々としすぎているのではないか、距離を置きすぎているのではないか、と思うことがあった。それは生徒からではなく同じ先生からなのだが。俺ら以外の先生と話しているのをあまり見たことがない。


 眠りについてからも、俺の頭の中は疑問と可能性でいっぱいだった。明日は新しい日であり、それが何をもたらすかは誰にもわからない。しかし今は、雨のリズムとベッドの温もりに身を任せることにした。



 橋本は親切で優しく、いつも手を差し伸べ、耳を傾けてくれた。いい先生なのだが、時々、自分の能力に自信がないように感じられた。生徒や同僚からどれだけ尊敬され、慕われているのか、本人はわかっているのだろうか。

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