第11話 休日②

 翌日、学校では、佐藤の訪問を受けた後の後悔の念が拭い去れなかった。佐藤の姿が見えないかと、事あるごとに教室に目をやっていた。

 そんな中、俺は普段の生活から遠ざかっていることに気がついた。その集中力の欠如に気づいた生徒たちが、それを利用しているのがわかった。


 生徒の一人、タカシはいつも問題児だった。彼は聡明な生徒だが、クラスを混乱させ、境界線を押し広げる傾向があった。今日もそうで、紙玉を部屋中に投げて、友達と笑い合っていた。


 いつもなら叱りつけ、職員室送りにするところだが、、佐藤が自身のしつけの苦労を話してくれたことを思い出し、罰に頼らずにタカシを助ける方法はないだろうかと考えていた。


 そこで、俺は別の方法をとることにした。叱るのではなく、休み時間に呼び出すことにした。


「お前最近おかしいぞ?どうしたんだ?」


 するとタカシは、家庭でのトラブルや、それがクラスでの行動にどのように影響しているかを話してくれた。


 俺は彼の話を注意深く聞き、アドバイスや安心感を与えた。その結果、彼は落ち着きを取り戻し、より集中できるようになった。簡単な会話で、こんなにも効果があるのかと驚いた。


 その日、俺は佐藤のことをもっと考えるようになった。自分の生徒にも同じような経験があるのだろうか、俺に何かアドバイスはないだろうかと。


 放課後、俺は思い切って彼女の教室を訪ねてみることにした。緊張と自信のなさを感じながら、ドアをノックした。彼女がドアを開けた時、教室の柔らかい光に照らされた彼女がとても美しく見えたのが印象的であった。


「先輩、何しに来たんですか?」


 俺は頬が熱くなるのを感じながら


「相談したいことがある」


 と答えた。


「俺の生徒のことだ。今日、もっと積極的に生徒を助けなければいけないと思い、佐藤にアドバイスをもらおうと思った。」


 彼女は目を輝かせながら頷いた。


「もちろん、喜んでお手伝いします。どうぞ、入ってください」


 俺は彼女の後に続いて教室に入り、周囲を見渡すと親近感を覚えた。自分の教室とは違うが、温かさと創造性を感じ、感心した。


 机の前に座り、俺はタカシのこと、そして俺自身のしつけに関する葛藤を話した。彼女は熱心に耳を傾けてくれ、俺がこれまで考えもしなかったような洞察や提案をしてくれた。


 話をするうちに、俺はこれまでにないほど彼女に心を開いていることに気づいた。教師としての不安や、自分がいかに失敗していると感じているかを話した。


 驚いたことに、彼女は完全に理解してくれた。彼女は自分自身の疑問や恐れを持ち、それを率直に俺に話してくれたのです。俺たちは何時間も話をし、体験談や経験を共有することで、より親密な関係になった。


 教室を出るころには、外はすっかり暗くなっていた。俺は元気をもらい、インスピレーションを受け、教えることへの情熱を再発見したような気がした。


 それから数週間、俺は佐藤との距離が縮まっていくのを感じた。俺たちは定期的に話をし、教育や人生全般についての考えやアイデアを共有した。俺は彼女に魅力を感じずにはいられなかったし、彼女も同じように感じているのだろうかと思った。


 ある日、職員会議を終えてそれぞれの教室に戻る途中、佐藤が俺のほうを向いて「橋本先生」と言った。


「橋本先生、ちょっと聞いていいですか?」


 俺は、自分の中で期待感が高まるのを感じながら頷いた。


 ”今週末、私の家に来ませんか?"彼女はそう言って、俺の目を見つめた。


「先輩に見せたいものがあるんです」


 俺は心臓がドキドキするのを感じた。これはデートなのだろうか?それとも、ただ親しげに誘われただけなのだろうか。


 "もちろん "と俺は言った、自分の声を安定させるように努めた。"ぜひ "と。


 週が明けてからも、俺は佐藤のこと、そして週末のことが頭から離れなかった。佐藤のこと、そして週末のことが頭から離れなかった。


 いよいよ土曜日が来て、俺は緊張と興奮を感じながら、佐藤のアパートに現れた。彼女は笑顔で俺を出迎え、中に案内してくれた。


 ソファに座ると、彼女は一冊の本を取り出して俺に手渡した。「これを見せたかったのよ」と彼女は言った。


 その本を見ると、俺の好きな作家の短編集だった。俺の文学への愛情を覚えていてくれたなんて、信じられない思いであった。


 読み始めると、俺は畏敬の念と驚きに包まれた。物語は美しく、心を揺さぶり、複雑なキャラクターと鮮やかな描写で満たされていた。


 一冊読み終えるごとに、佐藤と一緒にその物語について詳しく話し合い、登場人物やテーマについて分析した。それは今まで経験したことのないようなもので、俺は佐藤をますます深く愛していることに気づいた。


 夜が更けるにつれて、俺はこのまま終わってほしくないと思うようになった。このままずっと一緒にいて、話したり笑ったりして、お互いの思いを分かち合いたいと思った。


 しかし、結局、この夜は終わらせなければならなかった。俺が帰ろうと立ち上がると、佐藤は俺の手を取り、上目遣いに俺を見た。


「先輩、伝えたいことがあるんです」


 彼女は柔らかく、ためらいがちな声でそう言った。


 俺は心臓がバクバクするのを感じた。彼女は何を言おうとしているのだろう?


「先輩は優しくて、思慮深くて、知的で、今まで先輩のような人に会ったことがありません」


 と彼女は続けた。


 俺は喉にしこりができるのを感じた。彼女は俺への愛を告白しようとしているのだろうか?


 "突然かもしれないですけど、先輩と一緒にいたい "彼女はそう言って、俺の目を探った。"友達以上の存在になりたい"


 俺は感情の波が押し寄せてくるのを感じた。これだ。これこそ、俺が望んでいたものだった。


「俺もそうしたい 」


 と、俺は声を震わせた。


「おまえに会ったときから、ずっとそれを望んでいた」


 彼女は微笑み、俺たちはキスのために身を乗り出した。最初はソフトで優しいキスだったが、やがてそれは深まり、より情熱的で激しくなった。


 離れてみて、これはほんの始まりに過ぎないのだと思った。この先、困難や障害が待ち受けているだろうが、佐藤がそばにいる限り、俺はそのすべてに立ち向かうことができる。



 いやできない。なぜならこれが夢だから。ところどころおかしな部分はあった。俺が俺らしからぬ行動や、言動をとっていたことから違和感はあった。俺は眠りから覚めたのはほんの少し前だった。俺と佐藤の関係に大きな変化があることが何よりおかしかった。前の襲う襲わないの下りを完全無視して何を思ってそんな夢を見ていたんだ。


 夢は脳内の過去やごく最近の記憶を処理した映像だと聞いたことがある。それと眠り浅いため夢を見るともいう。俺は良い睡眠をとれなかったがために、今日あった佐藤の夢を見たというわけか。


 その後は、テストの採点を本気でして何とか全て終わらせることができた。はぁとため息がでた。明日から佐藤とどんな顔して会えばいいんだ。


 翌日、気まずい表情をした橋本先生が学校で目撃された。

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