第10話 休日①
俺はソファに座り、漫画と小説に囲まれながら、次にどれを読もうか迷っていた。その日は休日で、仕事に縛られることなく趣味に没頭できるのが嬉しい。しかし、そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴り響き、俺の思考は中断された。
俺はため息をついて立ち上がり、誰だろうと思った。来客が多いわけでもない。例外もあるが。ドアを開けると、佐藤先生がいた。
「おはようございます、先輩」
と、甘く、しかしためらいのある声で言った。柔らかな顔立ちと思わせぶりな態度をしたりする。髪をきれいにまとめ、シンプルなワンピースを着て、華奢な体型を際立たせている。
「お邪魔でなければいいんですけど......」
「邪魔だ。帰れ」
「ちょっと先輩? それは酷くないですか?」
「俺は俺で忙しいんだ」
「先輩に聞いてほしいことがあって。それでもダメ......ですか?」
佐藤は上目遣いで頼みごとをしてくる。高校時代からそのように男を使ってきてるのか。怖い女だな。
俺は仕方なく首を横に振り、彼女がなぜここにいるのか気になり、中に招き入れた。俺たちは挨拶を交わし、彼女にソファに座るように勧めた。俺は彼女の向かいの肘掛け椅子に座り、彼女が話すのを待つことになった。
「先輩が暇でよかったです」
「やっぱお前帰れ」
「すみません先輩。今日ここに来たのは、先輩に相談したいことがあったからです」
と、彼女は自分の膝に目を向けたまま、話し始めた。
「私のクラスの生徒のことなんです。私のクラスの生徒のことなんですが、彼らとうまくいかないことがあるので、アドバイスがほしいんです」
俺は彼女が抱えている問題を説明するのを、共感してうなずきながら聞いていた。俺も同じ教師であるため、手に負えない生徒を扱うことがいかに難しいか知っていた。
漫画や小説で埋められた本棚やそれに関するコレクションに囲まれた雑然としたリビングルームには、彼女は場違いな存在に見えた。狭いアパートで一人、趣味に没頭している俺のことを、彼女はどう思っているのだろう。
緊張したときに髪をくるくる回す仕草や、教え方が上手だと褒めたときに顔を赤らめる仕草など、話しながら彼女のことをよく観察している自分がいた。
これまで恋愛対象として意識したことはなかったが、不思議な魅力を感じた。そうした背景にはあの人が絡んでいるからなのだが。彼女も同じように感じているのだろうか、それとも単なる専門的なアドバイス以上のものを求めてここに来たのだろうかと思った。
俺たちは何時間も話し続け、好きな本の話から教育哲学の話まで、あらゆることを語り合った。日が経つにつれて、俺は彼女とますます親しくなり、長い間他の誰とも接したことのないような楽しさを感じていた。
しかし、夕方になり、日が暮れ始めると、俺は自分のやることをおろそかにしていたことに気づいた。テストの採点や来週の授業計画の準備もあり、これ以上彼女と一緒にいる時間はない。
俺は気まずくなり、どうやって会話を終わらせたらいいのかわからなくなった。その時、佐藤は立ち上がった。
「今日はありがとうございました」
「生徒のことで役に立てたならいい」
彼女はがっかりした様子でうなずいた。
「はい、ありがとうございます。本当に感謝しています」
「なんか不満そうだな」
「今日も襲ってくれないんですね」
「当たり前だ」
「全く、早く心の整理してくださいよね」
「分かってる」
ここの会話はきっと俺のことをよく知る、佐藤と知佳ぐらいしか意味は通じないだろう
俺は彼女をドアまで送り届け、彼女が去っていくときに喪失感を覚えた。あの時と比べたら全然大したことはないが。やはり似ているからだろうか。
彼女の背後でドアを閉めたとき、俺は後悔の念を禁じ得なかった。一日中、彼女と一緒にいたのに、機会を逸したような気がした。それが何なのかはわからないが、何かを見逃してしまったような気がした。あの時もそうだった。
佐藤が来てからどっと疲れた。そのせいかかなり眠い。少し寝てからテストの採点に取り掛かろう。そう決めて俺は意識を手放した。
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