三 碧血

 玉体にも、干戈かんかが迫っている。胡軍号して二万七千が洛陽を包囲している。

 対して洛陽に、防ぎ守るほどの兵はない。

 逃れさせねばと、王城に残った数少ない人士は額を付き合わせ思案し、決意した。天子蒙塵てんしもうじんの荒路に命果てるまで供すると、覚悟した。

「うぬもか」

 鳩首凝議きゅうしゅぎょうぎしていた人士らは、部屋の一隅に控え、無言ながら気焔万丈きえんばんじょうたる宦官に気付いて言った。

碧血へきけつなり」

 人士らは口々に賞賛した。

「とても宦官とは思われぬ」

 宦官は感激に打ち震えた。

 蒙塵もうじんの日は、今日である。夜陰にまぎれ洛陽の南、洛水らくすいへ浮かべた船に乗る。洛水の流れに沿って西のかたへ下り、古都たる長安ちょうあんへ入る。

 都落ちはすでに幾度も企図きとされてはいた。が、ことごとく潰えた。

万障ばんしょう、排されんことを」

 計画を聞き、帝はそうした十人余りの人士へかく綸言りんげんを賜った。もはや勅命ちょくめいではなく、祈願の言葉であった。事実、乾坤一擲けんこんいってきの賭けであった。天佑神助てんゆうしんじょのほか帝を守り給う術はないと、誰も彼も分かっていった。

 残日も、遂に沈んだ。決行の時である。

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