四 蒙塵

 二つの黒い影が、寝殿を出ず。三つの影が、太極殿たいきょくでんを抜けた先で加わる。二つ、また御史台ぎょしだいで合わさり、わずかに開いた閶闔しょうこう門の門扉の隙間へ体を通し王城を出ずれば、門のほとりに侍りし四つの影が集まる。

「無事か」

 帝と宦官と、人士たちである。

「気取られてはいまいな」

 人士が問うた。応ずるように、火の手が上がった。王城の南の大門、宣陽せんよう門の方である。

「見よ」

 驚き恐れ、人士のまた一人が指す。帝らのおる閶闔しょうこう門からひとつ大路を隔てた先の西明門も燃え、夜空を焼いている。胡兵らの気配が近い。戦道具の触れあう音、漢語とは似ても似つかぬ言葉で交わされる、慎みのない雄叫びのような音声おんじょうが、わずかに聞こえくる。

「馬鹿な」

 息を呑んだ人士らは一斉に宦官を見た。疑心の目であった。

「やめよ」

 帝がひそめた声で一喝する。

「ここにあるは皆義士ぞ」

 宦官は身命を捧げる覚悟を新たにした。

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