第十二話
「あー、なーかしたーなーかしたー! ヨルが女の子を泣かしたー!」
「わーるいんだ、悪いんだ! せーんせーに言ってやろ!」
「この邪悪な二人組、ここぞとばかりに。誰だよ、先生って。……朝霧先輩は全然泣いてないし、むしろ俺は庇った側なんだよ」
とは言えど先輩の様子を見ると、彼女は誤魔化すように笑ってお酒をくぴくぴと飲む。
「……結構ハイペースだけど平気か? まぁ、度数低い奴だから大丈夫か」
「んー、平気だぜ? 全然酔ってないぜよ」
「先輩の口調が迷子になってる。思ったよりも酔ってんな……。飲み慣れてないのか?」
「酔ってないでげす。んー、お酒飲むのは初めてだけど、ジュースと全然変わらないでげす」
「おいおい嬢ちゃん、その語尾はヨルの専売特許だぞ。どっちが話してるか分かんなくなるだろ」
「あ、そっかぁ。ごめんねえ」
「水瀬のアホな言葉はまだしもそれで先輩が納得するのはおかしいだろ。俺が語尾にげすをつけたことがあるか? 一度でも」
アホな二人は放っておいて、先輩からひょいっとチューハイを取り上げる。
「あー、ヨルくん意地悪だー」
「飲み慣れてないならそろそろやめとけ。酔ってるから。酒に弱い体質なんだろう」
俺よりも歳上なら飲み慣れていてもおかしくないと思ったが……この様子だと本当にこの場が初めてなのかもしれない。
まぁ、性格的にあまり酒を嗜むようにも見えないし、仕事的な付き合いではない親しい友人と酒を飲むようなタイプの人でもないしな。
飲んだ事がなくともおかしくはないだろう。
それに対して白木は二十歳ぐらいなのにだいぶもう飲み慣れているように見える。
「……ダンジョンの仲間と、仲良くやってるか?」
「んー? それなりにかな。割と振り回しちゃってるけどついてきてくれるし」
「ならよかった」
「一発ギャグやりまーす」
「水瀬、こっちがしんみり話してるところで雑にふざけるのやめろ」
俺がそう言うと何かのギャグをしようと割り箸を両手に握ったまま俺に顔を向ける。
「いや、飲み会でふたりでしんみりしてる方がおかしいのでは?」
「……それは、まぁ……いや、うん。ごめんなさい」
「いいんだぜ、俺とヨルの仲だしな」
水瀬のこのノリはマジでなんなんだろうな。
ちびちびと酒を飲んでいると、白木は既に飲んできたこともあってか、ぐったりと机にもたれかかってうとうととし始める。
「おーい、平気か? ……仕方ないし、このままおきなければベッドとか用意するか……」
「わー、ヨルやらしー」
「はっ倒すぞ。来て早々寝やがって……というか、元々男と二人で飲んでたのにすぐに限界が来るの、流石に警戒心が薄すぎるだろ、この子」
机に頭を乗っけて寝始めた白木を見ながらそう口にすると、水瀬はへらへら笑う。
まぁ……別に酔って寝たところで水瀬が妙なことをすることはないだろうが、だとしてもな。
「とりあえずソファに寝かせるか。別の部屋とかに置いといたら吐いて窒息とかになりかねないし。俺は毛布とか持ってくるから、水瀬、頼めるか?」
「えー、ヨルの方が力持ちじゃん、俺も結構酔ってるし」
「いや……俺、妻帯者だぞ。あんまり他の女性に触るのは避けたい」
まぁ……アメさんは別としてもヒルコともなんだかんだスキンシップをとってしまっているが、それはそれとして避けれるところは避けた方がいいだろう。
「えっ、奥さんいるの? ヨルに?」
「あれ……知らなかったか。…………今のは忘れてくれ」
「えっ、なんで?」
いや、なんでって……。そりゃ……ツナを連れてきて「妻です」とは言えないだろう。
ツナはおそらく数千歳以上なのでロリではないが、それはそれとして容姿は幼く仕草は子供っぽい。
小学生……その中でも小さい方の女の子を連れてきて「俺の嫁」と紹介するだけの気合いは俺にはなかった。
「夕長の嬢ちゃんと結婚したのか? 式はもう挙げたか? 友人代表スピーチなら任せてくれ」
「いや、アメさんとは別で……」
「えー、違うのか。…………あのさ、まさかだとは思うんだけど。……あのビデオ通話での面接のときの子供さ、何か言ってたよな」
「…………水瀬、白木を運んでくれ。俺は毛布を持ってくるから」
「ヨル? おーい、ヨルー」
俺が立ち去ろうとするも水瀬は俺に声をかけ続ける。
「っ……! 水瀬……っ! 水瀬の方が年齢差あるだろ……! このロリコン野郎がよ!!」
「こ、コイツ、勢いで自分の罪を誤魔化そうとしてやがる……。年齢差ではなく相手の年齢が問題だし、そもそも俺の方は別に付き合ってすらないのに……」
「このロリコン野郎がよぉ!」
「この男、自分がロリコンで責められるのが嫌で人に濡れ衣を着せようとしてきてる。最悪だ」
「許せねえよなぁ!」
「今日、俺よりもヨルの方がボケてない?」
立ち上がっていると、くいくいとヒルコに袖を摘まれる。
どうしたのかと思っていると、すごく哀れんだような表情で首を横に振る。
「……ヨルくんがロリコンなのは、もうどうしようもない事実だよ。……事実を受け入れて、ゆっくり一緒に治していこ? キヅナちゃんが大人になるまでにさ」
「やめて、そういうのが一番効くから、やめて」
とぼとぼと歩き、毛布を持ってきてソファで寝てる白木にかける。
それからくぴくぴと何かを飲んでいるヒルコに言う。
「実際さ、ロリコンってあれだろ? ランドセルとかスク水とか好きなタイプの人。俺、別にどっちもそんなに好きじゃないし、違うと思う」
「純粋に小さい女の子が好きってこと……?」
「いや、そうではなく……! というか、小さい子ってみんな「かわいい」って言ってるじゃんか。なんで俺が言ったらロリコンになるんだ……!」
ヒルコと水瀬に同情したような目を向けられ、俺はムキになって叫ぶ。
「みんな……みんな小さい子が好きなのに、なんで俺だけ責められるんだ……! だってめちゃくちゃ可愛いだろ……! ツナもアメさんも……!」
「……いや、ヨルの可愛いと世間の人の可愛いだと意味合いが違うというか」
「好きな人がロリの良さを力説してるところを聞かされてる朝霧さんがすごく可哀想。目が死んでる」
朝霧先輩の方を見ると、無言でハイライトのない目でちびちびとお酒を飲んでいた。
「……やっぱり、若返りの薬探そう」
「いや、だから、先輩、それは年齢の話じゃなくて……」
「……でも、見た目は同じで、手を出しても法律的にも倫理的にも問題ないんだよ? なんなら、ずっと黙っていてもいいよ」
「いや、そういうのでもなくて……。というか、それ、先輩が不幸なだけだろ」
「私は、幸せになりたいんじゃなくて、君と結ばれたいんだよ」
反論を許さない朝霧先輩の言葉。
俺が思わず口を閉じると、先輩は水瀬の方に目を向ける。
「……水瀬さんは、聞いたことない? 若返りの薬」
「あったら俺も使いたいな、最近揚げ物とか食えなくて。……あー、けど、なんかあるとは噂で聞いたことはあるな。でも、ダンジョンの噂なんて信用出来ないしなぁ」
「水瀬、協力しなくていいからな」
そう言ってから、酔って赤らんだ先輩の方を見て俺が説得しようとすると、俺の隣にいたヒルコが口を開いた。
「……ヨルくんはすごくエッチな人だけど、色仕掛けで落ちたりはしないよ。……私より、ずっと、知ってる……かもしれないけど」
朝霧先輩はヒルコをジッと見て、ヒルコも朝霧先輩を見返す。
無言の、けれども険悪には見えない視線のやりとり。
「……朝霧さんの、ヨルくんとの思い出、聞きたいな」
ヒルコの声色は少し優しいもので……先輩に気を遣ったというか、上手くコミュニケーションを取れていない子への助け舟のようなもののように感じた。
……まぁ、思い返すと、朝霧先輩とは再会してからずっとコミュニケーションというよりかは論争みたいな話しかしてないし、思い出話に花を咲かせるのもいいか。
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