第七話
「移動で疲れてないか?」
「んー、平気だよ。ありがとね」
「遊びにきたって言っても、大したことは出来ないぞ? 顔が売れてしまってるからあまり外出もしたくないし」
改めて朝霧先輩を見ると……当然だけど、ツナにそっくりだ。
整った顔立ちと理知的な瞳は、まるで人の上位の生き物かのような高い知性を感じさせるが、けれども俺と視線が会うだけで嬉しそうに笑みを作るところや、嬉しそうな手振りを隠せないところは子供っぽく……ああ、やっぱり似ていた。
「……段差、気をつけろよ?」
浮かれた様子の朝霧先輩にそう言い、そう言った自分に少し驚く。
子供扱いだ。
ああ、いや、まぁ……元々、ひとりでいたのを心配して話しかけたことが知り合うキッカケなんだから、ずっと子供扱いはしていたか。
……俺は、そういう奴だ。
弱かったり、はぐれものだったり、幼かったり、そういう人を見かけたら手を差し伸べたくて仕方なくなる。
「ツナのこと、嫌いか?」
「……好きにはなれないかな」
「だよなぁ」
「でも、好きになる努力はするよ。そうしないと嫌われそうだし」
それは助かる……けど、無理矢理言うことを聞かせているみたいで気が引けるところもあるな。
……この話題はお互いに楽しくないか。と考えて別の話を振る。
「そういや、さっき元々ウチでゴブリンをやってたゴブ蔵ってやつと再会してさ」
「突然ちょっと受け入れ難い導入がきたね……。えっ、モンスターなのに友達感覚なの?」
「いや、アイツバリバリ話すし」
「ゴブリンが……? えええ……?」
朝霧先輩に「何言ってんだコイツ」という目で見られるが本当なんだから仕方ない。
どうにも信じてもらえそうにないかと思っていると、朝霧先輩は「うーん」と真剣な表情で悩み始める。
「……ゴブリンが話すというのは信じ難いことではあるんだけどね。「ぐぎゃー」とか「ぐおー」とかしか言わないし」
「それはオークがネットで流布してるプロパガンダらしい」
「違うよ? ……それはともかく、そもそもの前提として、魔物ってオリジナリティが低いよね。ゴブリンとか、オークとか、ゴーレムとか」
「あー、まぁそうだな。逆にそこら辺の伝承とか創作とかが迷宮からきてる可能性もあるんじゃないか? 昔にもダンジョンはあったわけだし」
俺の言葉に先輩は首を横に振る。
「いや、言葉って結構あっさり変わるもので、特に発音とかが数百年で変化しないはずがないし、元ネタがハッキリしてるものも多いからそれはないかな。じゃあどこからゴブリンとかの発想がきてるかというと、現代人の思考から「魔物ってこういう感じだよね」みたいなところを読み取って神様がそれを再現してるんだと思う。DPで最近の味付けのポテトチップスが買えるようにね」
ああ……なるほど、まぁ市販品が購入出来るのと同じようなノリで俺達が「こういうのがあるとのだからダンジョンにもあるだろう」ぐらいの考えがダンジョンにも反映されているということか。
……だとしても、それがゴブ蔵と関係あるのか?
「まぁつまり魔物は「人間の伝承や創作を元に作られてる」と言えるわけだけど。……そのゴブリンって、ネットでも話題になってためちゃくちゃ強いゴブリンだよね?」
「あー、ちょっと話題になってたような。あまりネット見ないから分からないけど」
「一部地域でそういう伝承があって混じったのかもしれない。例えば「小さいけど非常に強い化け物が出る」みたいな話があって、その伝承……都市伝説みたいなのが混じったことで、ゴブリンの一部に影響が出た。みたいな」
「あー、なるほど……。そういう可能性もあるのか」
「聞き齧った主な特徴は「人語を解す」「めちゃくちゃ強い」「人間の成体よりも小柄」というところで……練武の闘技場の近くで、そういう都市伝説があったのだとしたら、そこで発生することはおかしくない」
朝霧先輩の言葉を聞いて首を傾げる。あそこには結構長いこと住んでいたがそういう話は聞いたことがないな……と、考えていると、朝霧先輩はジッと俺を見る。
「どうしたんだ」
「……たぶん、小さいころのヨルくんが元になった都市伝説を媒体に発生したんじゃないかな」
「えっ」
「ヨルくん関連の都市伝説とか七不思議とかたくさんあったし、たぶんそこら辺の認識が混じったせいでご当地のモンスターとしてゴブリンの亜種みたいな感じで発生したんだと思う」
…………え、ええ。
「な、七不思議とかになってたの? 俺」
「知らなかったの? 七不思議常連だよ」
「常連とかのシステムあるんだ……」
「マッハクソガキとか、ターボクソガキとか」
「走って登下校することはあったけど、音速は超えてなかったと思う。というかクソガキって呼ばれてたんだ……。信号とかは守ってたのに……」
「毎日決まった時刻に飛び降り自殺をする男子生徒の幽霊」
「見たいテレビがあって急いでて……」
「動く二宮金次郎像とか」
「先生に頼まれて撤去してたときのことかな」
「そんな感じで六割ぐらいはヨルくんだったよ」
母校の七不思議、六割ぐらい俺だったんだ……。
「あ、そういえばお土産も買ってきたよ」
「あー、ありがとう。けど、そこまで気を使わなくても」
「いや、ヨルくん以外の全員から歓迎されてないんだからこれぐらいはね」
「自覚あったんだ……。メンタルつええ……」
「そりゃ、常識で考えて自分の好きな人を狙ってる女に近づいてほしくないでしょ……?」
「先輩に常識ってあったんだ……」
お土産を受け取り、少し紙袋を覗くとツナが好きそうなものがたくさん入っていた。
たぶん朝霧先輩と好みが同じだからだろうな。
「……俺と会わなくなってから、いろんな人と会って回ってたんだろ」
「うん。それがどうしたの?」
「もっといいやついただろ。いくらでも」
俺の言葉に、朝霧先輩は少し目を伏せる。
それから取り繕ったような寂しげな笑みを俺に見せた。
「……例えばさ、ヨルくんよりも優しくて強くてかっこよくて頭を良くて、ロリコン拗らせてなくて爽やかで素敵な人がいたとして。私は、その人のことを好きにはならないよ」
「……悪い。でも、そんなに俺の記憶残ってないだろ」
「昔のはね。ダンジョンが出来てからのはしっかり覚えてるよ」
「そりゃ最近だしな……。というか、最近の俺の発言的にメモ帳のページ数がまた増えてそう」
朝霧先輩は少し笑う。
冗談のつもりではなかったんだが。
そうしている間に目的地である俺たちのダンジョンに着いて、中に入る。
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