第四話
最近、アメさんの食事量が少ない。
元々運動量の割に少食で不健康なぐらいだった。
俺と一緒に暮らすようになってからは少しずつ改善してきていたのだが……またあまり食べなくなってきていた。
「アメさん、さっきの夕飯もあまり食べてなかったけど……体調悪いのか?」
「ん、んぅ……そういうわけでは」
アメさんは少しバツが悪そうに、珍しく俺の方を見ないようにしながら返事をする。
「……ストレスか? 引っ越して環境が変わったせいで居心地が悪いとか」
「えっ、そういうわけでも……。その、気にしないで大丈夫です」
「気にしないわけないだろ。大切な人がそんな様子なら。……味が苦手とか?」
「いえ、その……とても美味しいです」
「……アメさん。俺はアメさんのことがとても大切で、愛している。……アメさんが苦しんでいるのを、見過ごすことは出来ない」
ソファに座るアメさんを見つめながらそう言うと、アメさんは顔を赤くしておろおろとしてから観念したように指をもじもじもさせながら口を開いた。
「え、えっと、その……最近、ちょっと食べすぎていて。問題が発生したというか……」
「食べすぎてはないだろ。すごい少食だぞ?」
「いえ、でも、前よりもその……」
アメさんは俺の目をチラチラと気にしたように見て、恥ずかしそうに言う。
「一部、太ってしまったと言いますか」
「……いや、太ってないと思うぞ? 本当に、全く、むしろかなり細い」
アメさんのお腹を見ながら言うとアメさんは首を横に張って答える。
「う……うー。その……胸が、その、少し……」
と、アメさんは恥じらいながら口にして俺は思わずそちらに目を向けてしまう。
……子供っぽいシャツのその内側。そもそもが身体が華奢だからか、それほど……歳の割にはむしろ小さいと言えるだろうほどの大きさではあるが、少し目立って見える。
「よ、ヨルさん?」
「…………あのな、いや、うん。……あー、まず、俺が悪かったと思う。そりゃ、まぁ……女の子だし、恋人からの目線は気になるよな」
「ん、んぅ? はい」
「俺が悪いのは大前提として……。俺は、アメさんが好きなんだ。そりゃ、もう、めちゃくちゃ好きだ。……だからな、これから十年二十年五十年と経っても、ちゃんと好きだよ。おばあちゃんになっても、何も変わらず。だから……そういうのはやめて、健康に気を使って暮らそうな」
アメさんは俺をジッと見つめる。俺もアメさんを見つめ返すと、アメさんは呆気なく簡単にコクリと頷いた。
「えへへ、そうですね。ごめんなさい。こんなに体型が変わることなんてなかったので、びっくりして」
あー、そういえばアメさんの家にあったアルバムでもずっと見た目が変わってなかったしな。
ちょっとした変化でも本人からしたら驚きなのだろう。
「……それより、その、下着とか大丈夫なのか? 俺が聞くべきことじゃないかもしれないけど、引っ越してからあまり買い物にも行ってないけど」
「そ、その、それは、平気です」
あまり聞かれたくなさそうなので別の話を振ろうと考えてアメさんの方を見る。
一度意識してしまったからかどうしてもそちらの方に目がいってしまい……。
サッとアメさんに手で隠されてしまう。
「……あー、何かちょっとしたもの用意するな」
「あっ、はい。……あの、ツナちゃんはどうしたんですか?」
「疲れて寝てる。昨日「一番にお祝いするんです」と張り切っていたからな。結局途中で寝たけど、起きるのも早かったし、寝足りなかったんだろうな」
「ふふ」
アメさんはツナを慈しむように笑い、それから俺の方を見る。
「……あの、一応、大したものじゃないんですけど、誕生日プレゼント、僕のも受け取ってもらえますか?」
「ああ、わざわざ用意してくれたのか。ありがとう」
アメさんは近くに置いてあった袋からスッと小包を取り出して恥じらいながら俺に渡す。
「開けてもいいか?」
「も、もちろんです」
アメさんの表情は喜んでもらえるか不安というよりかは、喜ぶだろうと思ってワクワクしているように見える。
辻斬りではあるものの自信がなく小動物的なところのアメさんがこれほどの自信を持って渡すもの……一体どれほどのものなんだ……?
随分と小さい包みを開けると、金色の塗装が見える。
中身を取り出す。
黄金の剣に黄金の龍が巻きついた……なんか観光地のお土産屋さんで売ってる剣のキーホルダーである。
「……お、おお!」
と、とりあえず反応したが……これは、本気なのか、本気のやつなのか……?
「えへへへ、よかったです。喜んでもらえて」「い……ああ! 超かっこいいぜ!」
「ですよねっ! 僕、小学校の修学旅行のときに見つけたんですけど、当時は高くて買えなかったんです」
ああ……そういや、俺も小学校のときちょっと欲しかったな……。
アメさんはぴょこぴょこと跳ねるように喜ぶ。
「……これ、いつのまに買ったんだ?」
「この前、そのお土産屋さんまで走って買ってきたんです。丁度近かったので」
ああ、ここら辺だったのか。
……いや、ここから近場の観光地までかなりあるような……人の少ない田舎に越してきたし……。
……走って?
あまり深くは考えないようにしてから頷く。これどうしようか……キーホルダーだし、鍵にでも付けるか。
ニコニコとしているアメさんを見ていると、アメさんはまたサッと胸を隠す。
「……その、もしかして……大きい方が好きなんですか?」
「えっ、いや、あ……」
アメさんのその言葉に俺は硬直する。そしてそれから、ゆっくりと首を横に振る。
「アメさん、アメさんはふたつ、勘違いしている」
「えっ、でも、その、すごく見て……」
「いや、うん。それはついつい見てしまっているのだけど。……まず、俺は別に大きい方が好きとかそういうのはない。けど、まぁ……女の子の胸にはどうしても関心がいく」
「は、はい。えっちですもんね」
「えっちではない。……次に、アメさんの胸は……別に全然……大きくない……!」
俺の言葉にアメさんの目が見開く。
「えっ!? で、でも、僕、三人の中だと一番ですよ。そ、その、巨乳というやつだと思いますっ!」
「それはツナとヒルコの胸がないだけだ……!」
「っ……!?」
「アメさんの胸は、客観的に見て小学生高学年の平均値程度かそれ以下……巨乳では、ない」
「!?」
「貧乳……。貧乳というやつなんだ……。三人とも……」
「そ、そんな……」
と、アメさんと話しているとヒルコがソファからむくりと起き上がって、じとりと俺を見る。
「貧乳で悪かったね」
「いや、悪いとはひとことも」
「…………お風呂のとき、おっきくしてたくせに」
やめろ……。アメさんの前でそれはやめろ……。
ヒルコはむすーっとした表情のまま、ポケットから何かを取り出して俺に渡す。
「……あげる」
「ああ、誕生日プレゼントか。ありがとう……」
と、握らされたそれを見る。
「ど、ドラゴンに巻きつかれた剣のキーホルダー……!」
誕生日プレゼントがドラゴンと剣のキーホルダーで被ることなんてこの世に存在するんだ……。
「かっこいいでしょ」
「……うん、そうだな」
ヒルコは自慢げに笑う。
……ヒルコもアメさんも女子高生の年齢だし、もしかしたらドラゴンソードみたいなのが女子高生の間で流行しているのかもしれない。
原宿が踊り子衣装の女の子と全身甲冑の男たちで溢れかえってる異常な世界なので十分にあり得る。
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