第二十八話

「ヨルくん。だいたい友達が変な人……? だよね」

「……いいか、ヒルコ。類友とでも言ってみろ。俺は泣くぞ。いい歳してめちゃくちゃ泣くぞ?」

「事前に釘を刺すぐらい嫌なんだ……」


 地面から生えているスフィンクスの顔を見て、微妙に目が合わない気持ち悪さを感じながらため息を吐く。


「それで我が問いに答えよ──」

「ああ、ヒルコ……こっちの子は、新しい仲間だ。そういう仲じゃない」


 スフィンクスは満面の笑みを浮かべる。


「よかったぁ! 死ぬほどタイプだったからこれで付き合ってたら発狂してた」

「……いや、たぶんトカゲは好みから外れてると思う」

「…………さべつ?」

「違う」


 というか、もしヒルコがいけたとしても俺がなんかやだよ……。普通のいい人を見つけてほしい。


 そう言いながらもチラリとヒルコの方を見ると無表情で俺の方を見ていた。

 ……やめて、怖いから。


「というかさ、本体トカゲなのに人間の女の子が好きなのか?」

「逆に聞くけどさ……。大人の癖に子供の女の子が好きなのはどうなんだ?」

「いや、種族は一緒だし……。あー、分かった。ちょっと知り合いにトカゲがいけるタイプの女の子がいないか聞いてみるよ」


 スフィンクスはにっこりと笑う。……スフィンクスの顔でにっこり笑われたらちょっと怖いな。


 知り合いの女の子か……。ダンジョンが出来る以前の知り合いはダメだから……ソラさんは覗くとして……みなもん、踊り子ちゃんさん、朝霧先輩ぐらいだろうか。


 ……癖強っ。

 もはやモンスターを紹介しても全然罪悪感が湧かない。


「とりあえず、踊り子ちゃんに声かけてみるか……。断られても文句言うなよ」

「どんな子どんな子? 可愛い?」

「断られる可能性の方が高いんだから期待するなよ? 白木なぁ……まぁ、美人だと思うよ。ああ、検索したら出るかも」

「あ、ここWi-Fiあるから見せてよ」

「Wi-Fiあるんだ。ダンジョンに。……なんで?」

「そりゃ、ないと不便だし」

「それはそうだな」


 もう突っ込むのはやめよう。ここはおかしいんだ。


 スマホから「練武闘技場」「踊り子ちゃん」で検索すると真っ先に動画サイトが出てきて、彼女が映ったサムネが見える。


「あっ、動画結構あげてるな」


 スフィンクスに見せようとすると、遠くからトカゲがダバダバダバダバァ!と走ってきて俺のスマホを覗き込む。


 そういや視界は本体にしかないんだったな……。


「これがその子か……むほほほ」


 ……むほほほって笑うやつ本当にいるんだ。


「よっくんが可愛いというから子供かと思ったけど、ちゃんと大人じゃんかぁ」

「よっくんと呼ぶな」

「むほほほ、うぇへへへへ」


 ……流石にこのトカゲを紹介するのは申し訳ない気がしてきたな。

 俺がそう考えていると、ヒルコがアメさんとヒソヒソと話す。


「これだから男の人たちって……」

「ま、まぁ……ちょっとぐらいは仕方ないんじゃないですか?」


 えっ、俺まで踊り子ちゃんの動画でむほってるって思われてる……?


「……もうそろそろ行きたいから消すぞ」


 そう言いながら動画を閉じると、その動画を投稿しているアカウント名が「練武の闘技場公式ch」であることに気がつく。


 ……か、勝手に公式を名乗られてる……!

 なんなら俺達もアメさん動画を挙げていたアカウントがあるのに、それを差し置いて公式を名乗られてる……!


 しかし、まさか「俺が本物の練武の闘技場だ!」なんて名乗り出て、権利者削除要求などが出来るはずもない。


 くっ……明らかにそれが分かってやってるなこの投稿者。

 いや、まぁ別にいいんだけども……。


 とりあえず、水瀬なら連絡取れるだろうし声かけるだけかけてみるか……。

 もしかしたらトカゲ好きの可能性もあるし。


 そう思って連絡すると、すぐに返事がきた。


「興味ないってさ。……というか返信早いな」


 もしかして一緒にいるのか……? ……まぁ変なビデオレター撮っていたし、仲がいいのだろう。


 トカゲはダバダバと走って帰っていく。涙が出るはずもないトカゲの瞳から、雫が溢れたように見えるのは俺の勘違いだろう。


「汝、我が問いに答えよ────」

「いや、今からそのノリに戻るのは無理だって。通っていいか?」

「……いや、でも俺って知の門番だし仕事はしないと」


 スフィンクスは困った様子で俺に言うが……基本しょうもない質問をしてキレてくるだけの存在なので知の要素も門番の要素も感じられない。


「なんだその目は……?」

「いや、うん。……まぁ、あんまり賢くはなさそうだなって」

「……よっくん、俺のことを舐めているな?」

「いや……まぁ、一方的に異性についての話を振ってくるだけで知性を感じられないし……」


 スフィンクスは「はー、やれやれ」みたいな表情を浮かべてから生首を砂から出す。


「分かった。じゃあよっくんの方から俺に何か問題を出してみろ」

「急に言われてもなぁ。……朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。この生き物はなに?」

「…………?」

「分からないんかいっ! お前の出す問題の代表だろ!」

「わ、分かるよ。ほら、あれだろ……妖怪」

「違う。答えは人間で、人間の人生を一日に例えて、生まれたばかりの頃は赤ん坊で四つん這いで、二本足で歩くようになって、最後は杖をつくから三本足ってやつ」

「……? いや、人間の人生を朝昼夜に例えるのがちょっとよく分からない」

「それは…………俺もちょっとよく分からないけど、お前の出した問題だろ……!」

「いや、よっくんが出した問題だろ……!」

「っ……! それはそう」


 いや、まぁ、だとしてもスフィンクスならスフィンクスの問題ぐらいサッと解いてほしい。


 もうそろそろ行きたいんだけどな……と、考えてから、ツナ達の方を見る。


「ほら、なんでも聞くがいい」

「…………あー、じゃあ、そうだな。……モンスターやダンジョンを作った神ってどこにいるんだ?」


 スフィンクスは少し考えたような表情を浮かべてから、ニコリと笑う。


「神様、それはいつもよっくんの側にいるよ」

「よし、スフィンクスが役立たずのアホと分かったことだしそろそろ行くか。ソラさん待たせても悪いし」


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