第二十五話
インタビューを終えたし帰ろうか……疲れた。と考えていると、解説をしていた少女……確かよく踊っているから踊り子ちゃんとかいう愛称で呼ばれている……名前は白木キロだったか。
「先程はありがとうございました」
「ああ、いや……こちらも何か急かしたみたいで悪いな」
パジャマを見ながらそう言うとアメさんにジト目で見られるが、これは単なる驚きの視線なので安心してほしい。
「それでその……お疲れのところ申し訳ないのですが、お時間をいただくことは可能でしょうか……?」
「時間? 何か話か?」
「は、ひゃい」
「……なんかビビられてない?」
「ヨルさんが脅かすからです。怖い戦い方をして」
いや……戦い方の凄惨さはアメさんの方が圧倒的に上なような……。
「あー、話か。どれぐらいの時間がかかるかによるな」
「えっと、それは私の方からでは……分からないというか……」
「もー、ヨルさん、困らせたらダメですよ」
いや……そこぐらいは聞いておいた方がいいだろう。とは思うも、アメさんには惚れた弱みがあって逆らいにくいので仕方なく頷く。
「まぁいいけど、ここみたいなあんまり目立つ場所だとな」
「は、はい。じゃあ、えっと、案内しますね」
罠……ということはまぁないだろうし、と考えながらブーイングと歓声の中で闘技場を去り、ダンジョンの奥にある「関係者入り口」と書かれた扉に入る。
……関係者が知らない関係者入り口があるのおかしくない?
少し廊下を歩いてから応接室のような部屋に通される。
……なんで自分家の知らない応接室に通されているんだ……? 何か、何かおかしくないか……?
「あ、えっとお茶淹れてきますね」
「ああ、いいよ。それよりも服とか着替えてきた方がいいんじゃないか?」
「……家まで帰れと」
「着替えおいてないんだ……。あー、後で車で送ろうか? その格好で出歩くのはアレだろ」
「普段から踊り子の格好で出歩いてるんで平気だよ」
「普段から踊り子の格好で出歩いてるの!?」
「原宿だとみんなそうだよ」
「そんなわけあるかい」
その言い訳、流行ってるのか……?
俺の中の原宿のイメージ図がアーマーゴーレムを着たおっさんと踊り子の服をきた少女が大量にいるという街になるんだが……。
まぁ服装は本人がいいならいいんだけど……。
「白木キロさん……だったよな」
「は、はい。どうかしました?」
「いや、一応世話になってるわけだし、よく分からないけどアメさんとも仲良くしてるみたいだしな。名前ぐらいはちゃんとしておこうと」
「あー、なんでもいいですよ、呼び方なんて。踊り子ちゃんでも、キロたんでも」
「白木さんで。……白木か」
踊り子ちゃんこと、白木は年齢は20歳いかないぐらいだろうか。
探索者は新しく発生した職業だけあって年齢層は若く、未成年もそこまで珍しくはないが、未成年かつ女性で、しかも度々嫌がらせ目的で俺のいるところまで踊りを披露しにくる気合いの入ったカスは少ないので印象には残っている。
「私の名前がどうかしましたか?」
「ああ、いや、黒木って名前の知り合いがちょっと前にいて」
彼女は少し考えてから頷いて口を開く。
「……黒木は私の兄です」
「ええっ!?」
「アメさん、騙されるな。名前が似てるなら兄妹の可能性があるけど、苗字が似てるやつはただの他人だ」
「うわっ、びっくりしましたぁ。な、なんでそんな嘘を……」
「なんとなく……?」
なんとなくなら仕方ないか……。そういう唐突によく分からない嘘を吐くやつって多いしな。
体感、人口の六割ぐらいがそんな感じである。
「それで、誰と何の話をしたいんだ?」
「えっと……闘技場の顔役……というか、おそらく勝手に運営してる人がいて、流石に挨拶しとかないとまずいかなぁって話があって」
「あー、いや、気にしなくていいのに。というか、そもそも法律上俺達が不当に占拠しているわけだから、俺じゃなくて本来の持ち主……あー、ダンジョンが出たらその土地は国有化するんだっけか、まぁ何にせよ、法律的にも道義的にも俺たちには正当性はないんだから挨拶なんか不要だろ」
俺がそういうと白木は困ったように頬を掻く。
「まぁそれはそうなんでしょうけど……。でも、神様に選ばれたって聞きました。……それがそうであるならば、国が決めたものよりもよほど正しいんじゃないですか?」
「……信心深いことで」
「でも、ダンジョンを作ったんですよ?」
人智を超えているのは確かだろうけど、少なくとも全知全能ではないし、創世もたぶんしていない。
虫にとって人は凄かろうと、全知全能でもなければ創世の神でもないだろう。
それと同じことで、ダンジョンという箱を用意して餌を置くことが出来る程度の存在で……。
神様は女の子かも、なんて言葉が頭を過ぎる。
「……あんまり、責任を負わせたら可哀想だし、普通に俺達が不法占拠してるだけでいいだろ」
白木は一瞬だけ呆気に取られて、それからクスリと笑う。
「まるで身内を庇うみたいな言い方です」
そんな話をしていると、トントンとノックされ、男が入ってくる。
「どうも結城ヨルさん。練武の闘技場内コロシアム運営委員会副代表補佐代理補佐です」
「役職名に補佐が二回入ってるんだけど。サポート手厚すぎるだろ」
男……というか、水瀬だった。
いや、うん。……いいよ、もう、こいつはそういうやつだよ。
「はぁー、もう帰りたい。帰っていい?」
「おいおい、どうしたよブラザー」
「あれ、おふたりはお知り合いなんですか?」
「知り合いも何も、親友以上恋人未満の存在だよ」
「恋人未満という文言のせいで殺意が五割増しになったな……」
「一番楽しい時期じゃないですか!」
「これで一番楽しい時期なんだったら後にも先にも殺し合いしか残らないぞ?」
……まぁ、水瀬が一噛みしているのは想像出来ていたことである。そもそもツナもそうさせたかったようだし、別にいいんだが。
「アホの二人目もきたことだし、本題に入ろうか」
「ああ、まだくるぞ」
「あー、代表のやつか? 水瀬はなんか補佐の補佐の補佐だし」
水瀬が「いや……」と言ったとき、また扉から男がふたり入ってくる。
「どうもどうも、お待たせしました。エクストリームプロジェクトエメラルドマネージャーの鈴木です」
「クソ……初対面の相手だとボケなのか大真面目なのか分からない……。意味の分かる役職にしろと言いたいけどツッコミにくい」
もう一人の男もソファに腰掛けながら名を名乗る。
「タクヤです」
「役職を名乗れ。せめて苗字だけでも名乗れ」
何でうちのダンジョンに来る奴はみんなこうなんだ……!
せめてボケた雰囲気で言ってくれよ……! 何でスーツ姿の男が真顔で「タクヤです」と言うんだ……!
そんな言葉を飲み込みながら、アメさんの方を見て落ち着く。
……アメさん、ちょっと辻斬り入ってるけどマトモでいいよなぁ。安心感がある。
「それで、アレだろ。使用許可みたいな話だろ? 俺にはそれを良しとも悪しとも言えない。先に不法占拠してるだけの存在だからな。許可がほしいなら国にでも相談したらいい」
「いやー、ほら、そういうのもアレだけどさ、分かりません?」
鈴木と名乗った男は周りを見てから小声で話す。
「権利、なんて「それっぽさ」があれば本当に正当かは問わないんですよ。なんとなくで誰もが触れないならそれが問題になることはない。ダンジョンでのが商いなんてその最たるもので」
「つまり……他の集団が同じことを始めて、乗っ取られる可能性があるから潰したいみたいな話だろ? 別にこっちからしたら鈴木さんとか水瀬がやってることを、他のよく分からないやつがやってもどっちでも関係ないんだよな」
「……下世話な話、バックは渡せますが」
「…………鈴木さん、センスないな。俺のことはある程度知ってるんだろ? 金が必要な立場に見えるか?」
勝手にすればいい、と、立ち上がろうとしたとき、水瀬が「まぁまぁ」と間に入る。
「いじめてやるなよ、ヨル。近所に住む人が挨拶しにきたぐらいに考えてさ」
「……まぁ、話ぐらいは聞くけど」
ソファに座り直すと、改めて水瀬が口を開く。
コイツはもはやどういう立場なのか分からなくなってるな……。面白いと思ったことに首を突っ込みすぎである。
ヤマタノオロチぐらいたくさん首がありそう。
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