第二十四話
飛び入り自由としたのに、案外行儀よく一人から数人でかかってくる。
普段相手している奴よりも動きが鈍い気がするが、それはなんだかんだと言っても俺がいるところまで来れるような探索者は上澄みだからだろう。
「もう少し筋力をつけた方がいい」
と言いながら斬り捨て、続けてやってきたやつに「筋がいい」と言って喉を突く。
少し偉そうだろうかとも思うが、たぶんこういう振る舞いの方が求められているのだろう。
続けてやってきたやつの肩を掴んで、遠くからの射撃の盾にしつつ、痛みが続かないように首を刎ね、次にやってきたやつの短剣を奪って心臓を一突きにしてから射撃の方向に投げて銃使いを屠る。
「せめて舞台の上に上がってから撃てよ……!」
と、突っ込みながら近くに寄ってきた順に斬っていく。
「おおお……これはすごいというか、なんというか。こう……なんで一方的に斬られているのかよく分かりませんね。ナイフを投げたとき以外はそこまで速い動きでもないのに」
「意図的にスピードを落としていますね。何故速くないのに斬れるかというと、まず大前提として無駄な動きがないこと。そして、相手の攻撃位置を操作しているからです」
「……? というと」
「例えば僕が今、手を振り上げたら踊り子ちゃんさんは防いだり躱したりしようとするわけですが、小さく振り上げたならさっと避けれますが、大きく上げてリーチが長そうなら座っている状態だと避けるのは難しくなるので防ぐ方に身体が動くと思います。それの凄く複雑版です」
大魔法が来るな。と判断して近くにいたやつを掴んでぶん投げて魔法使いにぶつけて中断させる。
……一部のやつが二周目入ってきたな。痛みがないようにしているとは言えど、それなりにショックなはずなのにすぐにリトライしてくるのはなかなか精神が強い。
全員が俺よりも弱いが、けれどもひとりひとりに個性があり、長所があるのが分かる。
「それで……まるで自分から刀に突っ込んでいっているように見えるんですね」
「はい。純粋に運動神経や筋力があるのもそうですが、それ以上にヨルさんはそこのところが優れているのです」
こうして色々なやつの相手をしているとそれぞれの強みや良さも分かってくる。……だからこそ、それを踏み躙る俺が好きになれない。
槍を手で掴んで受け止めて、奪い取りながら魔法剣士のような男を突き刺す。
クルクルと槍を回して構える。
「あ、武器を持ち替えましたね。使えるんですか?」
「ヨルさんは器用なのでよほど変なものでなければ問題ないはずです。……」
「どうしました?」
「いえ……ちょっと僕も参加したいな。と」
「彼氏を守りたいんですか、ラブラブですねー」
「いえ、ヨルさんを斬る方です」
「……あー、えー、ラブラブです……ね?」
そうか……?
「えへへー」
アメさん的にはそうなんだ……。
と、解説の方に意識が行きかけながらももう片方の手に斧を掴み取って上に投げ、刀を引っこ抜いて構える。
刀で斬った後にそのまま上に投げて降ってきた斧で重装備の男を上から叩き潰し、そのまま斧からは手を離して後続の似たような装備の男の鎧の隙間に槍を突き刺す。
飛んできた矢を指先で押して受け流して、その矢を他の奴にぶつける。
……強いのだろう。この激しい混戦の中、素早く動く俺を的確に狙い撃つのは極めて難しいだろうことは分かる。
誰も彼も、手に取るように分かる。研鑽を積んできたのだと。弛まぬ努力の末のものだと。
真似が出来る。覚えられるし、その先の目指すべき場所まで再現出来てしまう、様々な技能を混ぜた技まで生み出せる。
多くの技や理を知り、深め、混ぜ。
極み……とでも、呼べる何かを掴みかける。
「……ヨルさん?」
解説席にいたアメさんが俺を見て立ち上がる。
あらゆる技能を砕いて混ぜ合わせて不要なものを取り除きこねくり回して……それが出来──。
あらゆる武術の極みとも呼べるそれを呆気なく掴みかけたその瞬間。
掴んだそれが黒塗りになる。
「……あれ」
それからいつも通りに刀を振るうが、頭は混乱しっぱなしだった。
ブレイクスルーとでも言うか、ゾーンとでも言うか、確かにそれを会得しかけて……不意に、それが黒塗りになった。
似たような感覚に覚えがあった。それは朝霧簪を思い出そうとしたときと同じような、理不尽な記憶の剥奪で……。
と、考えている間に、俺に挑もうとするやつはいなくなっていた。
「えーっと、もう挑戦者はいないようなので……勝者は結城ヨルさんです! いやー、強い、強すぎる!」
「皆さんお疲れ様です。とてもいい戦いでした」
「何人ぐらい参加したんでしょうか?」
「うーん、途中で帰ったり話を聞きつけてやってきたり、何回も挑戦してる人もいたので分からないですね。それにしても、本当に平均レベルが高いですね」
そんな話をしている中、またダンジョンコアを使って地形を変えて草を地面の下に埋め立てる。
アメさんと踊り子ちゃんさんの話を聞きながら、自分の刀を見る。……見た目は問題ないがこれはもうダメそうだな。
二人がパタパタと降りてきて、インタビューなのかマイクを俺の方に向ける。
「では、勝者でありダンジョンの代表である結城ヨルさんにも聞いてみましょう」
「ダンジョンのラスボスは俺じゃないんだが……。ああ、まぁ、思ったよりもだいぶ強かった。ひやっとする場面もいくつかあったし、面白い技術も多くてこちらも学ばせてもらったという印象が強いな」
「なるほどー。天下の中ボ……結城さんとしてもレベルが高いと。それで、今回はどうして闘技場の方へ?」
アメさんの上着を羽織っているけどマジでパジャマだこの子……。と思っているとアメさんに不満そうな目で見られるが、見惚れていたのではなくびっくりしただけなので怒らないでほしい。
「あー、まぁ、ほら。一応、その……ぼかすけど、立場的に様子は知っておきたいというか」
「これからも時々来られる感じですか?」
「…………あー、どうかな。需要があれば。あんまり入り浸ってもつまらないだろうし」
「……なんか思ったよりも真面目な感じなんですね」
「えっ、ごめんなさい」
そう言われてもインタビューなんてされ慣れてないしなぁ。
適当に受け答えをしながら、先ほどの「武術の極み(仮称)」について考える。
確かに俺はそれを掴みかけたが……妙な黒塗りにされる感覚により阻まれた。
明らかに神による記憶の阻害を受けているせいで掴めなかった。……昔の俺はそれを掴んでいたのか?
それで神によって忘れさせられて……。
いや、流石にそれはないか。俺がここまでこれたのは大量の手本があってそこから昇華させたからであり、以前の俺にはそんな下積みがないのだからそれに至ることは出来ないはずだ。
そもそも、技能の封印なんてものが本当にあったなら不公平すぎる。
俺の技量が届いていなかったせいで黒く塗りつぶされているように勘違いしてしまっただけだろう。
まぁ、神が不公平がどうこう気にするかは分からないが。
……神の目的すら不明なのが現状だし考察しても仕方ない気はするが。
「──なんですよねー。結城さんには何か欲しいものとかありませんか? 結城さんほど強ければなんでも手に入る気はしますけど」
ああ、あまり聞いてなかったが……欲しいものか。今は満たされてるしなぁ。
……俺の代わりに最強をやってくれるやつとか……いや、そうじゃなくともいいか。
「ラスボス、かなぁ」
なんてことを適当に口走った。
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