第二十三話
「──というわけで! 前回に引き続き! 最近闘技場の解説として定着しつつある踊り子ちゃんと!」
「えっと、わざマシン先輩こと夕長アマネの」
「ふたりで実況と解説をしていきますっ!」
アメさんパパのときと同じ組み合わせの実況解説で、俺は目の前の二人を見る。
……観客席はどこから集まったのかほぼ満員で立ち見のやつすらいる。
思っていた数十倍の観客が入っていて、俺たちに絡んできた二人がガチガチに緊張しているのが見てとれた。
既にもう申し訳なさがある。
「いやー、お久しぶりです。先輩」
「あ、いえ、こちらこそ突然すみません」
「いやいやー、中ボ……ではなく、あの結城さんの試合ですからね。もう話を聞いて飛び起きてそのまま来ちゃいましたよ」
「ああ、それでパジャマなんですね」
えっ、踊り子の人、自宅からここまでパジャマできたの? マジで? 着替える時間なんて数分もないだろ……? なんで……?
「まぁ私のことは放っておきまして、先輩はどう見ます、この試合」
「う、うーん……まぁ、その……。えっと、ヨルさん……あっ、中ボスさんの伝言としては「飛び入り自由」とのことなので、観客席から何人飛び出すかによりますね」
「あ、中ボスって言っちゃダメですよ」
「あっ、す、すみません。そちらの方が伝わるかと。えっと、今のなしで」
会場からほっこりとした笑い声が上がる。そういうノリでいいんだ。
「実際何人ぐらいでかかれば勝てるんですかね」
「うーん、ヨルさんも体力に限界はあるので、倒されてダンジョンの外に出た探索者が戻ってきて倒されてと繰り返せば、丸一日あれば百人がかりぐらいで倒せるかと思います。あ、その人達が休む時間を考えたら五倍はほしいかもです」
「あ、ゾンビアタックで無限リトライじゃないと無理なんですね」
「本来ならヨルさんも一旦退却して休んでって出来ますけど、今回は闘技場から離れられないので可能ですね。出入り口からも近いですし。あとは炎系の魔法を同士討ちや避けられるの前提で撃ちまくって室温を上げたらバテると思います」
ガチの攻略法を伝授するな。流石にそのレベルになったら俺も逃げるからな。
「それで、あの二人組とはどうして戦うことになったんですか?」
「えっと、闘技場の受付で声をかけられたからという感じです」
「なるほどー。あ、そういえば中ボ……結城さんとは仲良くしているんですか? あ、試合開始で」
「あ、えへへー、そうですね。その、お恥ずかしいですけど」
「ちなみに告白はどちらから?」
「えっと、僕からです。その、ヨルさんは奥手なので……。でも、よく頭を撫でながら好きって言ってくれます」
やめて、俺のロリコン恋愛事情を暴露しないで。
観客席の方から「中ボス死ねー!」「ロリコン野郎がよー!」「みんなの先輩を返せー!」と罵声が浴びせられる。
……っ! みんなアメさんを先輩呼びしてるけど平均してアメさんよりも一回り以上年上だろうがよ……!
あと、しれっと試合開始されなかった?
いいのだろうか。始めていいのか? と、相手の方を見ると目が合ってお互いに会釈する。
ほら、変な空気になったじゃん。開始していいのかよく分からないせいで。
……まぁ、始めてもいいのだろうと手を前に伸ばす。
「あっ、始まりましたね。どう見ますか、先輩」
なんで試合開始の宣言をしたやつがちょっと他人事なんだよ。
「今回のヨルさんは新しいことに挑戦するつもりなのでそこに注目してもらえると」
「新しいこと?」
「はい。すぐに分かるはずです」
ヒモと留め具により固定したダンジョンコアをたらりと垂らす。
「──
地面から大量の草が生え、辺りの気温が一気に下がる。
「──植物魔法!? かなり珍しい魔法……というか、中ボ……中ボスさんが魔法を使うなんて」
「ヨルさんは元々ダンジョンの職業としては魔法使いです。剣技などのスキルが必要ないので」
「ほー、なるほど」
「今の魔法は、他の人にオーダーメイドしてもらったものです。領域外技能により、本来の魔法の域を遥かに超えてダンジョンの機能の一部を引き出す」
ツナが俺用に作った、不正魔導の領域外技能を簡易的に再現した技能だ。
基本的にほとんどの魔法は俺の戦闘の速さについて来られないが、こういった環境を操作するものなら話は別だ。
「あ、これから寒くなるはずなので……」
アメさんがパジャマ姿の実況の女性に上着をかける。
「熱を吸う草原の再現。それ自体に攻撃能力や防御能力はありませんが、激しい運動でどうしても熱くなる身体を冷やす効果があります」
「なるほど……自分の有利な環境に変えるという魔法ですか。……すごいんですけど、あの二人を相手にそこまでする必要あります?」
「……ないですけど、ほら、見た目が派手なのでみんなが喜ぶかなって、ヨルさんが」
言うな。アメさん。それを言うんじゃない。
まぁそれはともかくとして、異常に冷える環境の方が運動量の多い俺にとっては動きやすく、他の人にとっては寒すぎて動きにくくなる。
「さあ、かかってこい、ロリコンがよ」
「くっ……ちょっとした冗談で本気になりすぎだろこのロリコンめ……!」
「ど、どうしやすアニキィ!」
「勝つのは絶対に無理だ。せめて一矢報いるために悪口を言ってやれ!」
「やーいやーい、おたんこなす! あんぽんたん!」
いや闘技場なんだから戦えよ……!
早々に諦めてちょっとでも俺を傷つけるという絶妙な判断をするんじゃあない。
「ロリロリ野郎っ! スマホの検索履歴が酷いことになってそう! 高校や大学で好きなタイプの話のときとか適当に有名な芸能人挙げたりしてそう!」
「うっぐぐぐ……」
「いいんだぜ? 俺たちを斬っても。けどなぁ、無抵抗の相手を斬ったという事実は残るからな。お前の人生に一生残り続けるからな、小さな黒いシミとして」
「くっ……! いや、闘技場で無抵抗の方がおかしいだろう!」
「お前はそう思ってないから問答無用で斬らずに斬るための言い訳をしてるんだろ! やーいやーい、このロリコンカナブン野郎!」
「うぐぐぐ……。肩パッドつけてるくせになんで悪口が達者なんだよ……!」
「あんぽんたん! おっちょこちょいのへなちょこ!」
「お前の方はなんで罵倒の語彙がちょっと可愛いんだよ」
二人に悪口を言われて怯んでいると、解説席にいる女性がアメさんに尋ねる。
「これはいったい……?」
「相手選手の見事な判断ですね。ヨルさんは僕と違って攻撃して来ない人を攻撃するのが苦手なので」
「なるほど……私達は何を見せられているのかと思ってしまいました。飛び入りしたくてウズウズしてる観客達も迷いがちですね」
「まぁ、普通に斬って終わりだと思いますけど」
「ですね。納豆ダンスのときもそんな感じですし」
くっ、確かに無抵抗の相手を斬るのには抵抗があるが仕方ない……!
「やーいカナブンやーい!」とひたすら煽ってくるふたりを痛みがないように斬って、それから気疲れしながら観客席の方を見て「来い」と手招きをする。
前座は終わりだ。
圧倒的な強さを皆が求めるなら、少しぐらいそれに応えよう。
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