第二十話
「ヨルさん。……アマネ、と、呼んでいただけませんか?」
「えっと、アマネ? これでいいか?」
「んふふー、満足です」
隣に座った身体を傾けて俺の肩に頭を預ける。
小さな身体、温かい体温を感じながらその肩を触る。
「ん……」
酔っているせいか、それともただ魅力的に感じたからか。アメさんの唇に目を奪われる。
彼女も俺の視線に気がついたのか、ねだるようにくいっと服の裾が握られて、導かれるままに唇をつける。
「……えへへ、お酒の匂いがします」
「いやだったか?」
アメさんは答えるようにちゅっとキスを返してくすりと照れた笑みを浮かべる。
それからちゅっちゅと何度も小鳥がついばむようにキスをされて、とろりとした甘い目で見つめられる。
アメさんの細い髪は、撫でてふわりと浮くと、照明の色に透かされて少し明るく見えた。
幼くも端正な顔立ちは照れと情欲によってか赤く染まり、求めるように俺を見つめていた。
「……アマネは、綺麗な顔をしてるな」
「えっ、そ、そんなことはないと思いますけど。他の人に言われたこともないですし」
「いや……確かに幼く見えて可愛いんだけど、顔立ちは美人さんだな、と」
「んんっ、も、もう。変なこと言わないでください」
抗議するようにツンツンと頬をつつかれる。
「……えっと、この前、キヅナちゃんとお風呂に入ってましたよね」
「あ、ああ……まぁ、変なことはしてないからな」
「水着でですよね。お引越ししたら、みんなで入れますね」
……それは流石にまずいような。と思うが、まずいことばかりしているのは今更だ。
「楽しいことをしましょうよ。僕には悩みを解決することは難しいかもしれませんが。でも、人生、悩みが尽きることなんてないんですから、悩みながらでも一緒に楽しいことをしましょ?」
「……アメさんは、いつも正しいな」
「無責任に遊ぼうって言ってるだけですよ?」
「……まぁ、そうだな。朝霧先輩も長期戦を望んでるみたいだし、不義理にならない範囲で距離を取れるようにしたらいいか」
「そうですね。それで、ヨルさんはしたいこととかありますか?」
パジャマ姿のアメさんは俺に甘えるようにぺたりとくっつく。
「したいこと……あ、あー、その、流石に少し気を遣っていたんだけど、ツナの前ではアマネと、アマネの前ではツナとキスとかしないようにしていたんだけど」
「……三人でいるときもしたいということですか?」
「したいというか、流石に嫌かと思って」
アメさんは少し考えて胸の前で腕を組む。
「……ヨルさんの取り合いがすごいことになりそうですけど。ふたりで負けじとアピールをしあうことになりますが、それでいいなら」
「……例えばどうなるんだ?」
彼女は俺の手を取り、キュッと抱きしめる。
「こ、こういう感じですかね」
ふにっと俺の腕に微かに感じる柔らかいものが押し当てられる。
ふにふにと、小さいながらもあるのだとアピールするように当てられる。
……柔らかい。当たっているだけなのに気持ちが良い。
「ど、どうですか?」
「……ありがとうございます」
「お、お礼!? ど、どういたしまして……?」
やっぱり、俺はロリコンではない気がしてきたな。
……女性の胸の膨らみに興奮する。というのは、ロリコンでは起こりえない事象だろう。
アメさんの服の上からだとほとんど分からないが、微かにあるその柔らかな幸福に心を奪われる。
つまり、俺はロリコンではない。
「……でも、アメさん。アマネ。……あまり、そういうことはしない方がいいと思うんだ」
「……さわりますか?」
くっ……反論するのよりも誘惑する方が手っ取り早いと判断してきやがった。
誘惑に負けそうになりアメさんの胸に伸びそうになる手をもうひとつの手で抑えるが、もうひとつの手もアメさんの胸に伸びかけてしまい、単に両手で胸を触ろうとする変態になってしまう。
「よ、よくない。アメさん、そういうのは、よくないと思う」
「……やっぱり、僕、小さくて貧乳なので魅力ない……ですか?」
「いやそんなことはない。……確かにアメさんのは小さいかもしれないけど……貧乳ではないと思うんだ」
俺は天井を見上げながら言う。
「俺は……アメさんの胸を見ていると、とても豊かな心持ちになる。だから、小さいけれども貧乳ではないんだ」
「ゆ、豊かな心持ちに……?」
「ああ」
「ヨルさん、酔うといつも以上にヨルさんになりますね」
いつも以上にヨルさんってなんだ……?
触ってしまいそうな手を引っ込めようとすると、アメさんに手を握られてしまう。
「……僕の両親も認めてくれている仲なんですから、我慢しなくていいんですよ?」
「いや、お父さんには「kill you」って言われてるし……」
「それに、僕はもう結婚出来る年齢です」
「法律変わったから17歳はまだ結婚出来ない……」
アメさんの方を見ないようにするけれど、見なくともいい匂いがするし握られた手が温かいしで心が惹かれてしまう。
「……ちゅーもしてるんですから、そういうこともいいのではないでしょうか?」
「……それは……確かに」
酒のせい……と、するのはよくないだろうが、いつもなら踏みとどまっていただろうのに。
今日は耐えきれずにアメさんへと手が伸びる。
アメさんは誘っていたのに、俺の方が乗り気になると恥ずかしいのか、手を膝の上で握って、目をギュッと閉じて俺の手がそこに触れるのを待ち……パジャマの布に手が触れた瞬間、ピーッとアラームが響く。
「ひゃあっ!?」
「う、うおっ、な、なんだ……! あ、ああ……奥まで侵入してきた探索者がいるのか……」
「ぼ、僕が行ってきましょうか?」
「いや……普通にここまで辿り着くのに二週間はかかるだろうからそんなに焦らなくても……。とりあえず監視カメラを見るか」
……中断してしまった恨みを抱えながらパソコンを操作してアラームが鳴るようにセットしている部屋を見ると、そこにはモンスターの倒された跡だけが残されていた。
「……あれ? いない? 先に進んだか戻ったか……どちらにしても倒すの早いな」
侵入してアラームが鳴ってからまだ数分も経っていない。それなりに強いのだろうと思いながら次のフロアを見るがそこにも倒された後だけが残されていて、次々とカメラを変えて……やっと見つける。
素手でモンスターを捩じ伏せる狂人を。
「……おじいさん?」
それなりの大きさのモンスターを容易にぶん投げて壁に叩きつける男は、壮年をとっくに過ぎて、腕が細くなっている老人だった。
「……朝霧先輩の置いてった資料。どこだっけ」
「えっと、棚の中に」
それを開いてパラパラとめくって見つける。
「……名簿にそれらしき人がいるな」
老いた武術の達人……。
特徴なども合っているし、この強さだ、間違いないだろう。
「……折木ハクシ。ダンジョンマスターか、副官のどちらかだな」
……どうにも厄介そうな奴がやってきた。
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