結城寄①

 同じクラスの結城ヨルは変な人からよくモテる。


「モテる」という語彙にはすでに複数人から好かれていることを指しているのに、それに「ヨク」がついていることから、どの程度のものかを察してほしい。


 今もぼーっとクラスの端にいる彼を眺めていると、何故か教室で逆さ吊りにされている松本くんと、窓の外にいるヒーローのコスプレをした学校関係者ではなさそうな不審者と談笑していた。


 ……そして、多分その中で一番おかしいのが彼……結城ヨルである。


 普段、目立たないようにしているのか特別おかしなことはないけれど、私は知っていた。


 まず、みんなはあまり気がついていないが、身体能力がおかしい。


 中学生のころ、修学旅行で海に行ったとき海で溺れていたおじさんを着衣水泳で助けていたし、何なら結構な歩数、海の上を走っていた。


 中学校で一番頭のいい先輩……朝霧先輩がよく「宇宙人に攫われる」と、妙なことを口走っていた。


 結城ヨルはの先輩と仲が良く、高校で一緒ではない今も度々会っているらしい。


 で、その先輩は結城ヨルと仲良くなってから宇宙人がどうとかは言わなくなった。


 ……異常な身体能力を持っているけど運動部に入らず目立たないようにしている。

 宇宙人と騒いでいた先輩が彼と関わり始めてから落ち着いた。


 これを元に推察するに……結城ヨルは宇宙人である。


 おそらく、賢い先輩が落ち着いたのは本物の宇宙人である結城ヨルと接触し、何かしらの取り引きを行ったことで宇宙に連れていかれなくなったとかそういう感じの理由だ。


 ……と、結城ヨル=宇宙人を前提として、彼に誕生日プレゼントを贈ろうと思っている。

 彼に好意云々はないけれど、クラスメイトの義理以上に助けられているので何かしらのお返しがしたいのだ。


 というわけで、お弁当を突きながら彼の方を見ていたのだ。


「おー、どしたのどしたの、熱視線なんて送っちゃってー」

「送ってないよ」

「好きなのか、好きなのかー?」


 私の視線の先に気がついたらしい、一緒にお弁当を食べていた友達が茶化すように言う。


「まさかあんな変わり者を好きになるなんてねぇ」

「好きじゃないよ」

「でも歳上すぎない?」

「いや、同学年だよ」

「それに窓にしがみついてる人は……」

「おじさんの方じゃないよ。なんで不審者おじさんの方だと思ったの? 場合によっては訴訟するよ。拳で」

「じゃあ松本くん?」

「結城くんだよ!」


 と、言ってから気がつく。

 友達がニヤニヤとしたいやらしい笑みで私を見ていた。


「ほー、そうかそうか」

「……いや、違うからね。たぶん考えていることと全然」

「はいはい。私は応援するよ。幼馴染の恋を」

「だから違うって! そういうのじゃないから!」

「えー、じゃあ仮に結城に告白されたらどうするの?」

「……それは付き合うけど。……違うからね!? 好きだからじゃなくて恩があるから断れないという話だから!」


 ニマニマとした笑みで私を見る。

 完全に……完全に誤解を受けている。


 私は息を吐いて箸を置く。


「あのね……もう一度言うけど、大恩があるの。だから、何かを求められたときに断ることは出来ないの」

「求められたら……ねえ?」

「しばくよ。……実はね、結城くんには私と妹と弟と父と母と祖父母と叔父と叔母と従兄弟三人の命を救われていてね」

「一族郎党ダース単位で救われてるじゃん。えっ、何があったらそうなるの?」

「コンビニにみんなでお菓子を買いに行っていたそのときだよ」

「代表して二、三人で行きなよ。流石に全員でコンビニに向かったらちょっと迷惑だよ」

「いや、でもお会計は別々だから」

「なんでそこはドライなんだよ。全員で行くぐらい仲良しならお財布一緒でいいでしょ」


 全く……静かに話を聞いてほしい。


「で、みんな片手にコンビニのスムージーを持って帰ってたんだけど」

「異様な集団だよ。目的が分からないよ」

「スムージーを飲むことだけど」

「それはそうだけど」

「ともかく、みんなで帰ってたときに居眠り運転のトラックが突っ込んできてね」

「ええ!? だ、大丈夫なの?」


 友達は驚いた表情で私を見る。


「そこにたまたま居合わせた結城くんが助けてくれたんだよ」

「いやいやいやいや、登場人物多すぎて助けきれないでしょ。10人以上引っ張ったの?」

「トラックの方を……こう……」


 私は身振りでトラックを持ち上げて見せると、私の友達は「ええ……」という表情を浮かべる。


「……いや、うん……無理でしょ」

「いやほんとなんだって。結城くん、突っ込んできたトラックをこう、優しい感じでひょいって持ち上げてトスンって車道に戻したの!」

「……そ、そっかぁ」

「信じてないでしょ!? 本当だからね! トラック持ち上げてたから!」

「……それで、家族親戚一同の命を救われた……と。話の盛り方が雑っ!」

「盛ってないから! 信じられないのも分かるんだけど持ち上げてたから! たぶん、あの人、人間じゃなくて宇宙人なんだよ!」


 信じてもらえない……。何一つとして嘘を吐いていないのに「好きなのを隠すために嘘を吐いてる」と思われてる。


 本当に突っ込んできたトラックを壊さないように優しい手つきで持ち上げてたのに……。


「……で、まぁそのトラックみたいにころりといってしまったんだね」

「みんなドン引きしたけど」

「みんなドン引きしたんだ」

「おじいちゃんはテンション上がってた」

「おじいちゃんはテンション上がってたんだ」


「とにかく、そういう一族レベルの恩があるからね。好きとかじゃなくて。……今度の誕生日に何か贈りたいんだけど、無礼があったらいけないからどうしようと思ってね」

「クラスメイトの誕生日プレゼントなんて基本どれだけ無礼を重ねられるかのチキンレースみたいなものなのに」

「それで、結城くんの好きなものとか知らない?」

「うーん。どうかなぁ。案外謎の人だからね」


 そうなのである。実態がよく掴めないのだ。

 割と色んな人と交流があるが、めちゃくちゃ仲のいい親友みたいな人は見つからないので、そういう人に聞くことも難しい。


 むむぅ……少し、尾行してみようか。

 誕生日プレゼントのこともあるし、そうでなくとも少し好奇心が湧く。


 もしかしたらUFOとか見れるかもしれないし。


 こうして、私はクラスメイトの宇宙人である結城ヨルくんの後をつけてみることにしたのだった。

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