第十一話
「俺をさ、倒す方法って何があると思う?」
朝霧簪の言葉を思い出して口を開く。
言ってからめちゃくちゃ傲慢な質問であることに気がついたが、三人は特にそうは思わなかったらしい。
「ヨルさんを……ですか? ん、んー……ヨルさんってめちゃくちゃスロースターターなので、初撃が一番可能性があると思います。僕やお父さんぐらいのひとが何人か集まって不意打ちして、ヨルさんが素手ならいける可能性はゼロではないです」
……まぁ、正攻法だと現実的ではないのは分かった。
「普通に人質とかは?」
ヒルコは人質を抱えて銃を押し付けるような身振りをしてみせる。
「いや、指を動かすのより俺が斬る方が早い」
「じゃあ、一面を爆弾でぼかーん?」
「あー、まぁ……規模によっては効くか」
「規模によっては効かないんだ」
まぁ、俺を倒せるレベルの爆弾、街ごとぶっ壊すようなものだからなかなか難しそうだな。
ダンジョンにはもちろん持ち込むのは難しいだろうし、現実的ではない。
ツナは俺の方を見て指を立てる。
「普通に毒ガスとかですね。あとは飲食物に仕込むとか。でも、ヒルコさんが近くにいたら難しいでしょうね。街ひとつ巻き込めるレベルなら別ですが」
三人の意見をまとめると……街を壊滅させるレベルのものならなんとかってところか。
まぁ俺もだいたい同意見である。
朝霧簪は俺に通じる手段を持っていると思っているようだが……。
あの執着を考えると、俺を手に入れたがっているからそんな大規模破壊兵器ということはないだろう。
あと、不正魔道達の倒され方もそれではないのでどうにも違いそうだ。
考えられるのは……未知の領域外技能か。結局のところ、何も分からないのと変わらない……か。
どうしたものか……執着はされているが敵対はしていないし、適度に距離を置くか……いや、それも怒られそうな気がするな。
モテないので女性の振り方が分からない。……竹内くんならそこらへん詳しそうだし、今度聞こうかな。
などと考えているとアメさんは俺の方を見て小さく口を動かす。
「あの、お願いがあるんですけどいいですか?」
「お願い?」
「僕も中ボスをやってみていいですか? その、対人経験を積んでみようかと思いまして。偽物だってバレないようにしますから」
「バレないようには無理だろ」
同じ格好をしても身長差が30センチはあるのだから、同じ格好をしようとも秒でバレるだろう。
「偽物とバレないというか……もはやアメさんの体格の剣士が中ボスをやってたらアメさんって一瞬でバレそうなんだよな」
アメさんはしばらく表に出ていないが、やたらと強くてかわいい女の子ということで動画投稿を辞めてからもファンが増え続けている。
なんか濃いタイプのネットユーザーにネタにされがちなのは俺だが、ライト層の多くにはアメさんの方がなんやかんやと人気な気がする。
まぁ、俺みたいなのが強いのよりもアメさんみたいなかわいい女の子が強い方が夢があるし、普通の人からしたら俺とアメさんの実力は同じぐらいに見えるだろうしな。
アメさんが「じゃあダメですか」としょんぼりしていると、ツナが「してもいいですよ」と言う。
「えっ、いいのか? アメさんってバレるだろ」
「もうアメさんがダンジョン側であることはバレバレです。ヨルがロリコンなのと同じぐらいにはバレバレです」
「……勘が鋭い人間なら密かに気がついている……と、言ったところか」
「サンマの塩焼きの原材料がサンマであるのと同じぐらいに隠された事実です。まぁでも、大々的に発表するのは体面が悪いので、全員にバレているのは前提としても一応覆面はしてくださいね。あと、声を出すのはダメですよ」
……俺がロリコンの気があるの、そんなにバレてないだろ。せいぜい、五人とかそれぐらいしか気づいてないだろ。たぶん。
「やったぁ! じゃあ、斬ってきていいんですね! わぁ、嬉しいなぁ、嬉しいです!」
ニコニコ笑顔を浮かべるアメさんを見て、若干引きそうになりながらツナの方を見る。
「服とかはどうする? 俺と同じ格好は良くないだろ」
「んー、普段着は流石に不味いですし、ヨルの格好に似せた感じの衣装でも見繕いますか。武器とかはどうしますか?」
「えっと、最近は力もついてきたから予備の武器も持ちたいですね。脇差か……もしくは手裏剣あたりでしょうか。あ、銃もいいかもです。バーンって」
ああ、アメさん的には銃火器を使う選択肢もあるのか。
案外そこのところが柔軟というか……アメさんは何となくサムライガールみたいな扱いを受けているけど、別に武士の家庭でもなければ刀にこだわりがあるわけでもない。
かと言って、最強を目指しているかというとそうでもなく、むしろ俺に負けると嬉しそうにしている。
性格は穏やかだが、斬り合いそのものを好むバトルジャンキーだ。
「んー、習得は難しいと思いますけど、不正魔導さんが使っていた領域外技能の再現は出来たので教えられますよ」
「ふせーまどーさん?」
「ああ、アメさんは知らないか。まぁ、すごい魔法みたいな」
「僕、普通の魔法すら使いこなせてないですよ」
……そうだね。本来色々出来るものなのに回復魔法しか使ってないもんね。
「んー、まぁ、とりあえず、特殊な効果がなくて丈夫で軽いだけの服ならそんなに高くもないので、無駄にしてもいいのでDPで購入しちゃいますね」
ツナはそう言いながら端末を弄る。
出てきたのは俺の姿に合わせたような和装で、顔を隠すための狐の面も一緒だ。
「わー、なんだかオシャレです」
……いや、オシャレというかコスプレっぽい。
まぁ、アメさんが気に入ったならいいか。
なんか材質的に洗濯機で洗えなさそうだけど、まぁ、うん。別にいいか。
と、考えていると、コンビニ受け取りにしていた昨日注文していたクレープのセットが届いた。
よし、だいぶ遅れてしまったが、アメさんの誕生日会でもするとしよう。
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