第六話

 ……おかしいのは、辻褄が合わないのは朝霧簪ではなくツナの方だ。


 何がどうなっているのかの考察をしようと考える。考えている。めちゃくちゃ考えようとしている。


 が、だが、しかし……。


 アメさんのスカートがめちゃくちゃ短いのが気になって全然頭が働かない。


 普段のアメさんはどちらかというとズボンが多い。今日俺を迎えにきたのもそういう格好だったので、部屋着に着替えたのだろう。

 活動的なのもあるだろうし、少し恥ずかしがりなところもあるのでミニスカートは恥ずかしいのだろう。


 持っているスカートも丈が短いものは多くなかったはずだ。時々俺に見せるために履いているのを覚えているが、それぐらいのものだ。


 アメさんの趣味ではなさそう……おそらく小学生の時にアメさんのお母さんが買ったミニスカートなのだろう。


 アメさんは背が低く体も華奢で小学生に見紛うほどだが、それでも全く成長していないというわけではない。

 ほんの少しは脚も伸びて、身体も大きくなった。


 小学生の頃着ていた女児用の服を着ても「ちょっと小さいかな?」ぐらいで別に違和感もないものだったが……。

 元々、丈の短いミニスカートが余計に短くなっていて、アメさんの綺麗な脚が眩しく映る。


 いや、短いと言ってもこれぐらいなら街を歩けば普通にいるぐらいだし……とは思うが、それは本質ではない。

 それが誰のものかが肝要なのだ。


 アメさんの脚。生脚である。


 その抜群の破壊力は、俺の頭から「ツナは何者なんだ」という疑問を吹き飛ばすのには充分な威力があった。


 そもそも、別にツナが何者でも今は俺の嫁なので割とどうでもいい気がする。


 どういう理由で朝霧簪が子供に付ける予定だった名前を名乗っているのかは分からないが、どんなことだろうと俺の取る行動は決まっているので、知らなくとも全く問題ない。


 ……そのせいで、アメさんのスカートの短さが気になって仕方ない。


 ……どうせ俺はロリコンの変態野郎という謂れのない誹謗を受け続けるのだし、それならもういっそちょっとぐらい見ていてもいいだろう。


 バレない範囲でチラチラとアメさんの方を見ていると、アメさんは恥ずかしそうにもじもじと手をパーにして白いふとももを隠してしまう。


「あ、あの……す、すみません。お見苦しかったですよね」


 見苦しいどころか最高でした。

 と言えるはずもなく無言で首を横に振る。


 …………もしかしてなんだが、年頃の男女で同棲をするのってすごく不健全なのではなかろうか。


 いや、これだとまるで俺が女の子の足をニヤニヤと盗み見て、言い訳をしているように勘違いされてしまいそうだが……。


 事実として、アメさんのスカートが短ければどんな男でもそちらが気になって仕方なくなるだろう。


 それが引き起こされてしまうこの状況こそが良くないものであり、俺はただ男として正常な反応をしてるだけじゃないか。


 俺は、そう思うのだ。


「……ヨル」

「はい。すみません。あまり見ないようにします」


 ツナの声を聞いてアメさんの脚から目を逸らす。

 ……よし、ツナに怒られたことで思考が少し戻ってきた。


 まぁ、一応いくつか確かめておいた方がいいこともあるだろう。

 普通にツナのことをもっと知りたいというのもある。


「……今更なんだけどさ、ツナって今、何歳だっけ?」

「どうしたんですか? 急に」

「いや、流石にツナのことを知らなさすぎると思って。……好きな子のことを知りたいのは、そんなにおかしいことでもないだろ」

「……む、むぅ……。でも、思ったよりも年下だったってなりません?」

「ツナの年齢がいくつでも度の超えたロリコン野郎という非難は免れないだろうから気にしないよ」

「確かに」


 そこに納得はしないでほしかったな。


 ツナは少し迷ってから両手を俺に見せて指を一本だけ折りたたむ。


「9歳、です。……り、離婚には絶対応じないですからね!」


 ……思ったより、思ったよりも幼い。

 頭もいいしもう少し年齢も高いかと思ったが……。


 一桁かぁ。一桁の女の子にベタ惚れしてしまったのか、俺は……。

 もっと前に知っていたら……いや、年齢を知っていても恋は止まらないか。


 たとえ何歳離れていたとしても、逆に何歳歳上だったとしても、ツナと知り合ったら俺は今と同じようにベタ惚れになってしまうだけだろう。


 と、心の中でポエムっていると、ツナが不思議そうな表情で俺を見る。


「それで……ほんとにどうして急に年齢のことなんて……あっ」


 ……「あっ」ってなんだ「あっ」って。

 察したみたいな表情を浮かべるな。


 勉強の手を止めたヒルコも「あっ」と漏らす。最後に不思議そうな表情をしていたアメさんも「あっ」と何かに気がついた表情をする。


 やめろ。連鎖するな。誤解だから。


「え、えっと、その……年齢が小さい方が好きだから……ですか?」


 違うが……? 違う、どう考えても違うことだけは間違いないが、だが本当のことを……朝霧簪との血縁関係がないことを探っていたと言うわけにもいかない。


 他の言い訳も思い浮かばず、ゆっくり、ゆっくりと頷く。


「……そうだが?」


 俺の言葉を聞いたアメさんはストレッチを始めようとしていた動きを止める。


「おお……」


 何が「おお……」なんだよ。感心する要素が一つでもあったか?

 ヒルコがドン引きの目を俺に向けていることに気がつき、眉を顰める。


「……ヒルコ、ヒルコが言いたいことはよく分かる」

「まだ何も言ってないけど」

「けどな、よく……よく考えてみてほしい。……世の中の男女、いちゃつくときに子供っぽい言動をするだろ」


 ヒルコの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。


「人によると思うけど」

「それに奢ってもらおうと甘えるときとか、かわいこぶるときとか、とにかく人に好印象を与えようとするとき、子供の真似をするんだ。人類は」

「主語が大きすぎてラスボスみたいになってる。中ボスなのに」


 ツッコミを受けながらも俺は続ける。


「英語でも整った顔立ちをベビーフェイスとか呼んだり、愛する女性をベイビーとか呼んだり……。多くの文化圏において、そうだろう!? みんな心の奥底では小さい女の子が最高に可愛いと思ってるんだよ! 違うか!?」


 俺の語りを聞いていたアメさんは、小さな手をぱちぱちと鳴らす。


「おお……」


 何が「おお……」なんだよ。


 感心するところじゃないだろ。子供に惚れてしまった男の欺瞞なんて。


 拍手をやめてくれ。悲しくなるのです。

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