第四十六話
口元に手をやって考える。
おそらく……数百年ごとにというのは事実だ。
夢で思い出した友人も事前に察知していたし、アメさんの実家の妖刀の夕薙という証拠もある。
……が、水瀬の「完全に地上との繋がりがない状況だとダンジョン外に排出されずに死ぬ」はおそらく嘘だろう。
理由としては……「それはあまりにも水瀬に都合が良すぎる情報」だからだ。
水瀬がいう通り、基本的にダンジョンはシステムとしては出入り口を塞ぐことが出来ない。
人力で埋めるなり他のダンジョンが手伝うなりする必要がある。
そう他のダンジョンの手があれば検証も実践も出来るのだ。もうひとつの手段である人力やモンスターにさせるのはそこそこ手間がかかるだろう。
つまり、ダンジョン同士で協力しなければ使えない奥の手が出来たということだ。
それはダンジョン国家に所属して他のダンジョンと協力する理由として十分すぎるものだ。
……しかも、この嘘はおそらく相当な時間が経たないと嘘だと露見しない。
人命がかかっている以上は気軽に実験することは出来ないし、実験して確かめたところでそれで責めれば「自分は人を殺そうとしました」と白状することになるので難しい。
それに前提として水瀬はダンジョンマスターではないのだからその不具合を誰かから聞いたことになるが、ダンジョン国家の面接でそんなことを話す奴がいるだろうかという疑問もある。
以上の
・水瀬に都合のいい情報である。
・嘘だとしても露見しにくい性質がある。
・情報の仕入れ先が謎。
の三つを考えると水瀬のデマカセの可能性が高い。
なんというか、そもそも話のノリが裏技共有サイトのバグ技みたいな感じだし、水瀬はそこで小学生のゲームデータを破壊して遊んでそうなタイプだし。
続けて、水瀬が俺に何か言うように促す。
あまり嘘は吐くべきではないが、重要な情報を言うのもな。
少し考えてから円卓を見回しながら口を開く。
「ダンジョン内で人が致命傷を負えばDPをもらえるのは知っていると思うが、その人物が味方になっていた場合はDPが手に入らない。だが、ダンジョン側である俺に好意を抱いている状態でも明確に味方になっていない場合にはDPが手に入っていた。ここはダンジョン国家の運営をする上で重要かもしれない」
簡単なことでお茶を濁すも、周りからの反応は鈍い。
「あれ? 既知情報だったか?」
「いや……それよりもお前の強さの秘密を教えろよ」
ダンジョンマスターのひとりがそう言うが、そこは別に秘密などないしなぁ。
奥の手のロ・グリモワールもアレは俺が使うから強いだけだ。
「そこはまぁ……才能としか。同系統の剣技を教えている夕長流活人剣の道場の場所なら教えられるけど」
「……そうかい」
「そっちは何か有用な情報あるか?」
不正魔導と呼ばれる魔導士を抱えているダンジョンだけあって色々未知の技術を持ってそうだが、まぁ素直に話すとは限らないか。
男は少し考えてから話し始める。
「もう気がついているかもしれないが、DPで売っている品物、魔法道具じゃなくて一般的な道具についてだが、世間に合わせてラインナップが変化しているな。二年前にはなかったような物品がDPのショップで買えるようになっているし、戦争とダンジョンでめちゃくちゃになった国の特産物はしれっと買えなくなってる」
出来たら領域外技能について知りたかったが……。
これはこれで少し面白いというか、結構重要な話だ。つまり、ダンジョンが大暴れして文明を破壊するようなことをしたら、それらをDPで購入することも出来なくなり生活レベルの低下が余儀なくなってしまうということだ。
検証も簡単なので嘘ではないだろう。
他にも全体的に有用なようなそうでもないような情報を言い合う。
情報の精査の手間を考えると真偽を確かめるほどの価値はなさそうだな。
やはり一番重要なのは水瀬の情報だ。おそらく
十中八九デタラメだが……水瀬が嘘のバグ技で子供を泣かせていることは俺しか知らないので、他のダンジョンマスターはマトモに受け取っているだろう。
水瀬の狙いは自分の立場を盤石にすることだとすると、今回の会議でやりたいことは「自分の後ろ楯となるダンジョンを増やす」ことと「ダンジョン国家を盤石なものにする」というところだろうか。
反対にダンジョン国家が失敗に終わった場合でも水瀬は逃げられるので構わないだろうが、まぁそれは面白くないので水瀬はしたがらないだろう。
ダンジョン国家に力がないのに半端に成り立つのが水瀬にとって一番危なくつまらない状況だ。
情報を握っていて狙われる立場だから、完全に身を隠せる自由な立場か、身を守れる力があるかのどちらかである必要があり、今回は後者を選んだのだろう。
俺たちにとっては別に問題のない行動だから気にしなくてもいいか……。
「んじゃあ、次は何するか。意見ある人いる?」
ハンカチ落としと情報交換しかしていないのにもうネタ切れって……。と、呆れていると、二人で着ていた女性が手を挙げる。
「お、なんか意見あるか?」
「……もう帰っていい? 顔合わせって意味ならもう済ませたし、あとはじっくり書面とかでやり取りしたら良くない?」
「あ、あー、そうだな。まぁ基本止める権利はないけど、これを見ても同じことを言えるかな?」
そう言いながら水瀬が紙袋から取り出したのはビンゴゲームのカードだった。
彼女達は帰った。
「……ビンゴは置いとくとして、一番の問題である人集めは見込みあるのか? 本題、そこだろ?」
水瀬はその言葉を聞いて、思い出したように資料を取り出し、ホッチキスで止めた紙の束を配っていく。
「じゃあ、まず一枚めくってもらって」
指示に従って開くと日本や世界の失業率やらがまとめられていた。
これはおそらく失業者が多いからその層を取り込むという話をするのだろうが……嘘だな。
データ自体は出典がしっかりしているのでそれは事実なのだろうが、現在は一気に人を増やしたいわけではなく、これから人を増やすのにあたっての信頼出来る幹部候補のような存在が欲しい時期だ。
今、求められている話は潜在的にどれぐらいこちらに落ちる人間がいるかではなく、信頼出来る人を集めるシステムがあるかの話だ。
若干、芯をずらした話にまたひとりと席を立つ。
その様子を見て気がつく。
「あ、コイツわざわざ人を帰してるな」と。横目で見ると白銀の街のダンジョンマスターの元にもちょっとした荷物がある。
おそらくは水瀬とふたりの間で「最初の自己紹介とか簡単な説明は水瀬がして、本題は白銀の街ダンジョンマスターがする。」ぐらいに決めておいたのだろう。
が、水瀬はわざと他のダンジョンマスターを帰るように促す。
すると、途中で抜けた奴からは「水瀬が仕切っていた」ように見えるだろうし、元々連絡係は水瀬がやっていたので何か用事があるときは水瀬に連絡することになるだろう。
ダンジョン内で人を殺す方法という、いざというときの奥の手を確保するためにもダンジョン国家と繋がりは切りたくないという思いあるだろうから、会議は無駄と判断しても水瀬との縁は切れない。
事実上……この短い間に、白銀の街のダンジョンマスターに気づかれずに、実態としての権力を奪うことに成功している。
それから水瀬のつまらない冗談を聞いているうちに人が減っていく。
白銀の街のダンジョンマスターが話す場になったときにはすでに円卓にいるのは、主催者側の二人を除くと俺とツナの母疑惑の女性と不正魔導という探索者を抱えているダンジョンマスターだけになった。
……一応は水瀬の味方の俺と俺に興味がある女性を除けば、純粋な参加者はひとりだけだ。
…………なんというか。水瀬って本当に邪悪な存在だな。
クソつまんないギャグって、権力を乗っ取れるんだ。
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