第三十九話
ツナのふにふにと柔らかそうなわきに、ゆっくりと体温計を入れていく。
顔を赤く染めているツナはこそばゆそうに身をよじり、そのせいでボタンを開けたパジャマが肩からずり落ちてしまう。
ツナはまだ女の子らしさのない身体つきなのに、少し肌が見えているだけで緊張してしまう俺は本当にどうかしているのだろう。
「あ、ぴぴぴって鳴りました」
「自分で見ろよ……。あー、熱あるな、やっぱり」
ツナの腋から体温計を抜いて見てみると、昨日の俺ほどではないが熱が出ていた。
声も少し鼻声で、風邪なのは間違いなさそうだ。
「……ヨルさん、私も風邪を引いたらいっぱいちゅー出来ると思っていたんですけど……あんまりその元気が出ないです。ごめんなさい」
「いや、謝らなくていいけど……。とりあえず、アメさんの様子見てきた方がいいか。この分ならアメさんも風邪引いてるかもだしな」
「……その場合、このベッドで三人ですか。狭くないです?」
「三人ならヒルコに返してやれよ。……あー、とりあえず、何か飲み物持ってくるから待っててくれ」
ツナの体は汗ばんでいて赤くなっている。
たくさん汗をかいているようだし水分はちゃんと取った方がいいだろう。
あー、あと、ヒルコは多分まだ寝てるだろうし……。
まぁ、俺とツナの分だったら俺が作っても、感染は気にしなくて大丈夫か。
とりあえず飲み物を持っていきながら、昨日飲んだ薬の説明を読む。
食後に……ツナの体重だと一錠。昨日ヒルコが置いていった薬を飲む用のゼリーがあったのでツナもちゃんと飲めるだろう。
病院にも行きたいが……俺が一日でかなり回復していることを思うとただの風邪だろうし……保険証がない子供を連れて病院にいくのはリスクが高い。
普通に通報されかねない。
まぁ、もう少し熱が出てしまったら連れていくか。
「学校の生徒が熱を出したから今は保険証がない」とか言えばなんとか誤魔化せる気がする。
とりあえずツナに飲み物を飲ませてからいつもの寝室に向かうと、アメさんがお腹を出して寝ていたので毛布をかけておく。
とりあえずアメさんは平気そうだ。
まぁ、なんかアメさんってあんまり風邪とか引かなさそうだもんな。
キッチンで手早く雑炊を作り、ツナの元に持っていく。
症状は大したことなさそうだが、あまり慣れていないのもあってか辛そうに見える。
「う、うう……ニンジン……」
「ツナはニンジンの匂いが苦手なんだから、今は匂いも分からないし食べれるだろ? 細かくしてるし」
「……気持ちの、気持ちの問題なんです。風邪のときは優しくしてほしいんです」
「ほら、あーん」
俺が匙を持って少しの量だけすくってツナの口元に運ぶと、ツナは少しの間だけ不思議そうな表情をして、それからパクりと食べる。
「熱くないか?」
「少し、熱いです」
ふーふーと軽く冷ましてからツナの口元に持っていき、ツナに食べさせていく。
食欲はあまりないように見えるので少しずつだ。
「これ食べ終わったら、りんごでもすりおろそうか?」
「ん……美味しいですか?」
「あー、食べやすいから、風邪の時にはいいかなと。食べたことないか?」
「たぶん」
まぁ風邪の時に何を食べるのとかは家庭によるか。
……ツナと出会った当初は妙に反応がトゲトゲしかったし、ちょっと痩せていたことも思うとあまり世話を焼かれていなかった可能性もあるか。
「……ツナは昔、風邪引いたらどうしてもらってたか覚えてるか?」
「んぅ? ……あんまり覚えがないです」
いつも通りの答え。
ツナはここにくる以前のことをあまり話したがらない。
それは本当に覚えていないのか、それとも忘れたいと思っているのか。
俺がそう思っていると、ツナは首を横に振る。
「ヨルが思ってるみたいな、虐待みたいなのはないです。……ただ、いつもほんの少し寂しかったような気がします。きっと、それは、ヨルに会えなかったからです」
俺と出会う前なんだから、時系列がおかしい。とは口にする気は起きずにツナの頭を撫でる。
ツナの髪は絹糸のように細く艶やかだ。
ツナに食べさせ終わり、食器をシンクに置いてからりんごをすりおろしてツナの元に戻る。
食べさせてもらうことに味を占めたようにツナは小さな口を開け、雛鳥みたいだと思いながらりんごを食べさせていく。
それからゼリーで薬を飲ませて、お腹が膨れて眠くなったツナの手を握り、添い寝をしてツナが眠るまで待つ。
寝静まったツナの顔を見てから、色々と物を片付けて……まだ自分が朝食を摂っていないことに気がつき、適当に残り物のおかずとご飯を腹に入れる。
……ツナが風邪を引いていると思ったら、なんか理由は分からないが治った気がする。
体温計を使って計ってみたら普通に熱があったので治ったのは気のせいだった。
単にツナが心配で自分の体調に鈍感になっただけのようだ。
もう一日は大人しくしておこう。
いつもよりも熱いツナの体を抱きしめ、目を閉じる。
自分が体調を崩しているはずなのに、どうしてもツナの方が気になってしまう。
心配のしすぎだ。一日寝るだけでマシになると分かっているのに……。
ツナの身を捩る動きで目が覚める。
目の前にいたツナは、熱で汗ばんで赤くなった顔でジッと心配そうに俺の顔を見つめていた。
「……ヨル、辛くはありませんか?」
と、自分も風邪を引いているのに、心配そうにツナが言う。
少し、笑ってしまいそうになった。
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