第三十三話

 ツナが新しく購入したパーティゲームは、元々大人も子供も楽しめるようにというコンセプトのおかげか運の要素が強く、頭のいいツナの一人勝ちでも反射神経のいい俺の一人勝ちでもないいい塩梅だ。


 結構楽しめるな……と思いながら、自分のターンが来るまでに離席して飲み物などを用意する。


「む、むう、なんだか知らないうちにヒルコさんが勝ってますね。おかしい、最適解を選んでいたはずなのに」

「これが闇の力だよ。ダークパワーでサイコロの目を操った」


 闇の力すごい。


「ヨルくん、アメちゃんの実家どうだったの? 怒られた?」

「ヒルコからの信頼があまりにも低い。普通に歓迎されたよ。あー、アメさんのお母さんとは初めてあったけどすごく似てたな。見た目は母親似で性格は親父さん似って感じだな」


 ヒルコは「へー」言いながらアメさんの方をチラリと見て、俺の耳元でこそりと話す。


「親父さん、ぶりっ子なの?」

「2m近い巨漢がぶりっ子だったら逆に怖いだろ。というか、別にアメさんもぶりっ子ではないだろ……」


 俺の言葉を聞いたアメさんは膝の上にゲームのコントローラーを置いて、少し照れを隠すような笑みを浮かべる。


「えっと、ヨルさんに「かわいい」って思ってもらいたいから、ちょっとしてるかもです。ぶりっ子」


 かわいい。

 ……けど、嘘だろ。

 だってアメさん普通に俺を斬ろうとするし噛み付くしぶん投げるじゃん……。どう考えてもぶりっ子のそれではない。


「親父さんは……そうだな。真面目で意思が強く利他的な人って感じだな」

「あー、なるほどです」

「ふたりともいい人だよ。なんか、ここでアメさんが製造されたのだという説得力があった。まぁ……ヒルコを連れていく機会はないと思うけどな。話がややこしくなりそうだし。……ヒルコ、妨害系のアイテム俺にばっか撃ってない? 気のせい? あ、またやりやがった」


 ヒルコは悪戯な笑みを俺に向ける。

 こいつ……。


「あー、そういや、アメさんの誕生日をスルーしていたから、近いうちに何かしたいな」

「えっいいですよ。そんな……えへへ」


 嬉しそうだな……。


「何か欲しいものとかあるか? とりあえずクレープ焼く機械とかは買おうか。あとは何か……アクセサリーみたいなのは、ちょっと年齢的に早いか」


 ……アメさん、物欲があまりなさそうだからなぁ。何がほしいとかは少なそうだ。


「別にプレゼントはいりませんよ? クレープの機械も自分で買えますし」

「……いや、せっかくなら何か……ちょっと考えておく」

「もう、僕の誕生日なんていいですよ。それよりも、みなさんはいつなんですか?」


 アメさんの目がツナの方に向く。


「私は毎月第三火曜日ですよ」

「どういうシステムだ。十二倍の速度で歳を取ろうとしてる? ツナはまぁ知ってるけど、ヒルコは?」

「世界が生まれる……それよりも前の、闇の中から」

「お母さんの話ではなく誕生日の話な?」

「……12月25日」

「クリスマスピッタリか……。世界が生まれる前も今の暦って成り立ってたんだ」

「揚げ足取りはやめてください」

「今のはヒルコが勝手にI字バランスをやろうとしてずっこけただけだろ……。こけてたよ、俺が触れるまでもなく」


 アメさんがボソリと「触れることもせずに相手を投げる技……」と口にするが、そうではなく純粋にヒルコがひとりですべっただけである。


「そういや、俺の技を親父さん相手に使ってたけど、あれは使い方としては微妙だな」

「そうなんですか?」

「ああ、あれは全身が見えるぐらい距離がある方が効果的で、効果は弱くなるけど隙をつくならもっと近い方がいい。アメさんが使った距離は、大きく体勢を崩させるには近いし、隙を突いて狙うには遠い。あと、慣れやすい技だから連発も向いてないな」


 アメさんは俺の言葉を聞き、少し考えてから口を開く。

 それは、俺は考えてもいないことだった。


「……みぞれ流の技の編纂を一緒にしませんか? 僕とヨルさんは真似し合って共通する技をいくつも持っていますが、ちゃんと流派として成立してはいないです」

「俺と一緒にか? ……アメさんの作ったものに口出しをするのはな……いいのか?」

「はい。元々、みぞれ流という名前は、ヨルさんのあだ名の幽鬼と僕のアメを合わせて、雨と雪の合いの子という意味で付けたので。実質ふたりの子供ですね」


 無邪気にアメさんは笑う。

 ……知らないうちに子持ちになってたのか。


 ゲームの画面を見て表情をアメさんの方から隠しながら頷く。


「剣術の編纂か。……基本は夕長流活人剣で、それをダンジョン向けに改変した感じになるよな」

「はい。草案として、人に教える際に「ダンジョンの外でも教えられるし使える」と「習得はダンジョン内だけど使用はダンジョン外でも」と「どちらもダンジョン内でなければ危ない」の三つの深度に分けようと思っています」


 ……危険な技だから人に教えるなら、ハッキリ教え方を定めておこうという考え方か。

 ツナに膝の上に寝っ転がられながらアメさんの方を見る。


「俺達の技術の習熟よりも広めることを中心に考えているのか?」

「はい。……ダンジョン内はどうしても白兵戦になり、補給の難しさなどやモンスターに効果が薄いことから、銃器よりも刃物が優先されることが多いです。これからのダンジョンのことを考えると、強い人がそれなりの数いることが肝要かと」

「……どうかな。微妙なところだ。……けど、選択肢は多いに越したことはないし、協力はしたい。目標は「雪の色斬り」の習得として、技を順に覚えていけば習得出来るようにしたいな。俺とかアメさんみたいに見たら覚えられる人間の方が少ないだろうし」


 アメさんと話していると、ツナは俺の膝を叩いて俺のターンだと知らせる。


「まずは技の書き出しと、それの体系化ってところだな。現状、かなりぐちゃぐちゃだし」

「はい。……あの、ヨルさん、妨害を受けすぎて酷いことになってますけど大丈夫ですか?」

「…………半分イジメだと思う。ヒルコ、特にヒルコ」


 俺が責めたような目で見ると楽しそうに笑う。こ、こいつ……。


 ゲームでボコボコにされたあと、俺が昼食の準備をしている間にアメさんが紙に技を書き出していく。


 ……とりあえず、本当にそのやり方でみぞれ流を覚えられるかの実験はヒルコにしてもらうか。


 ゲームでボコボコにされた恨みからではなく、一人旅をする予定なら武力はあった方がいいからだ。

 ゲームの恨みではなく。


 あとは……才能がある人なら覚えられるかも試したいし、竹内くんにも頼むか。

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