第三十二話
「ドラゴンの……ドラゴンの何が悪いって言うんですか……!」
アメさんの反論。
「ドラゴンのエプロンも、小学生のときの服も……! 年頃の女の子としてアウトなんです……! それにドラゴンなんてダサいじゃないですか……?」
アメさんの母がドラゴンのエプロンを否定する。
……いや、ドラゴンはかっこいいだろ。俺もドラゴンだったし、友達もみんなドラゴンだった。
アメさんの母は、ドラゴンがどうだとか、マジックテープの財布は卒業した方がいいとか、小学生のころの子供服は着ない方がいいとか、色々なことをアメさんに言う。
「ヨルくんにお料理を振る舞うとき、子供服を着てドラゴンのエプロンで料理をするんですか……? 冷静に考えてください。ヨルくんもよくないと思いますよね?」
「……いや、まぁ、物持ちいいなぁと」
「ほら、お母さん! ヨルさんは僕の味方です!」
「む、むぐぐ……」
「それにヨルさんはたぶん子供っぽい格好の方が好きですっ!」
「えっ」
……。えっ、唐突に親に俺の性癖をバラした?
アメさんの母と目が合う。
「……そうなんですか?」
「…………あ、アマネさんは、着飾らなくても魅力的な女性だと思っています」
「ああ……なるほどです。あ、帰る前にちょっとマグロも包みますね」
いや、マグロはもういい……。と断りきれずに押し付けられる。塊を。
……まぁ、マグロなら冷凍保存したらいいか。
ああ、ヒルコは喜ぶかもな。
頭の中で何を作ろうかと考える。
……マグロ料理、ああ、ツナにするのもいいかもな。ツナが喜ぶだろうし。
でも、このせっかくの塊を使うのももったいないような。
まぁ、後で考えるか。
とりあえず、帰ろう。ヒルコも少し寂しそうにしていたしな。
「お世話になりました。……アマネさんは、俺が必ずお守りいたします」
「……粗忽者な娘ですが、よろしくお願いします」
俺が深く頭を下げると、それよりもアメさんの母が深く下げる。
「……またいつでも来てくださいね。道場の門下生からも評判が良かったですよ」
「……ありがとうございます。では、また……あー、すぐなんですけど、お盆に伺っても大丈夫ですか?」
「もちろんですけど……ヨルくんの実家には帰らなくても大丈夫なんですか?」
「ああ、まぁ、はい。ありがとうございます」
……嫁の実家ってこんな感じで大丈夫なのだろうか。いや、そもそも結婚してないけど。
悪印象持たれていたら嫌だな……。
玄関で少し寂しそうにしているアメさんと外に出る。……思い返すと、変なやつとよく遭遇する一週間だったな。
帰ったらちょっとゆっくりしてから、竹内くんと水瀬と日時のすり合わせをするか。
あと、一応縁が切れないようにみなもと連絡をとったりもした方がいいかな。
そう計画を立てながら帰路に着く。
車の中で、アメさんがもらったファッション誌を、ツナは齧り付くように見ていた。
「……ヨルはこういうの好きなんですか?」
「えっ、いや……どっちかというと大人しそうな感じの方が……。あー、そういう感じのが着たいなら、帰ってからヒルコに聞いてみたらいいんじゃないか? 今風な感じでオシャレだろ」
「んー、ヨルが好きじゃないならいいです」
「好きな服を着るのが一番だと思うけどな。……まぁ、ツナの体に合うのは子供用のになるだろうけど」
「……むぅ、それはそうなんですけど」
そもそもとしてそこまで服装には興味がないな。ツナが着たらなんでも可愛いだろうし……というか、ツナには興味があっても服にはそこまでだ。
「アメさんはどんな服が着たいとかないのか?」
「んぅ……ファッションは気にしたことなかったです。変な目立ち方をしなかったらいいかなって。……あ、ひとつあります」
「ああじゃあそれ買うか」
俺がそう言うと、アメさんは照れたように笑う。
「う、ウェディングドレスって、言うつもりだったんです」
「……まぁ、それは……今すぐとはいかないけど。そうだな」
そのときは改めて挨拶をしに……いや、結婚自体はもう認められているのでそれも違うのだろうか。
距離感が分からないな……と思いながらダンジョンに帰る。
汗をかいてシャワーを浴びたアメさんは早速実家から持って帰ってきた服を着て、みんなで集まっているリビングにやってくる。
……思ったよりも子供っぽい。
服なんてなんでもいいと考えていたが、服というのは案外印象が変わるものだ。
アメさんの幼く小さな姿は、小学生の女の子が着るような服に包まれたことで幼さが余計に強調される。
……というか、思っていたよりも数倍ぐらい小学生にしか見えない。
大丈夫か、これは。なんというか……何かしらの条例に引っかかりそうな雰囲気がある。
…………かわいい。
いや、かわいいけど、出してはいけないタイプの可愛さではないだろうか。
「どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない。……ランドセルとかも取ってあるのか?」
「んぅ? ……捨ててはなかったと思いますけど。どうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない。なんでもないんだ」
「? 変なヨルさんです」
しばらくするとツナとヒルコもやってきて、ヒルコはアメさんの格好を見たあとドン引きしたような表情を俺に向ける。
いや、違うから。俺がアメさんにコスプレを頼んだわけじゃないんだ。
「……ヨルくんさ。……いや、いいや」
「待ってくれ。違うから。アメさん、物持ちがいいから実家に置いてた服がまだ着れたから部屋着にしてるだけだから」
ヒルコはしらーっとした目を俺に向けたままである。俺への信頼が薄い。一緒に死線を潜った仲なのに。
「それで、何して遊ぶ? さっき考えたんだけど、カラオケルームとかも作れますよね」
「あー、まぁ、今すぐは無理だけど、機材とか買えば作れるな。……でも、歌かぁ」
「ヨルくんは下手そうですよね」
「なんだその偏見は。……昔は普通に友達と行くこともあったしそこそこだと思うぞ」
「ええ……」
「なんでそこで引くんだよ。何やっても引くじゃん」
「いや……なんか歌うのってあれだなって、何の歌歌うんですか?」
「……世代ズレてるから話が膨らまないだろ。絶対に「あー、聞いたこと……あるような?」みたいな反応になるだろ」
そう考えると、俺とヒルコは世代が違うし、アメさんはアメさんだし、ツナも音楽にはあまり興味がないのでカラオケみたいなのは盛り上がらないだろう。
ヒルコも案外寂しがりなのかリビングにいることが多いので、一人だとあまり利用しなさそうだし。
……まぁ金は余っているし、防音とかは考えなくてもいいので作るのもいいか。
「それでとりあえず何をするかか……。普通にゲームするつもりだったけど。あ、遊びながらちょっと食べられるお菓子でも作ろうか?」
俺がそう言うと、ツナがぴょこぴょこと手を挙げる。
「罰ゲーム! 負けた人が罰ゲームをやりましょう」
ツナの提案に、ヒルコは俺に対して「じとー」とした目を向ける。
「ヒルコ、俺が提案したわけでも、乗っかったわけでもないのに俺をじとーって見るのはやめてくれ」
「じとー」
「やめてくれ。……罰ゲームなぁ、罰ゲームとかで盛り上がるタイプじゃないからな……」
アメさんはお人好しで、俺は結構年上、ヒルコは少し冷めてる、と……人が罰ゲームをやっても盛り上がらないタイプが揃っている。
「まぁ、普通にゲームしよう」
「むぅ……まぁ、ヒルコさんもいるので仕方ないですね」
どんな罰ゲームをする予定だったんだ……?
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