第二十七話

 アメさんの暴走をどうにかして止められないだろうか。

 いや……あれは暴走ではない、アメさんの通常があれなのだ。


 まぁ、今はどう考えても早すぎるが……。責任はあるのだから、真面目にある程度は考えておかないといけないだろう。


 それが五年後か十年後かは分からないが……月並みなバカップルみたいな意見として、別れることはないだろうから、いずれはそうなる。


 ……今のうちに準備しておかないとな。

 いつまであらゆるインフラが続くか分からないことを考えると、手の中にほしいものはたくさんある。


 医者はもちろんのこと、DPの仕組みが知れ渡ると人類がDPを渡さないように立ち回るかもしれないので、DPや外の世界に頼らなくてもあらゆるものを手に入るようにしたい。


 水道ガス電気も、DPでは作れても整備保守が難しいので専門家が必要で……と考えていくと、確かにツナが目指しているようなダンジョンの中に街がある形はかなり良さそうだ。


 あるいは、地上支配権を買って、ゴッソリと町中をダンジョン化させてしまうか。


 ……そうすると敵対者が増えそうなので、やっぱり内部に人を集めた方がいいか。

 でも、地下で太陽の光を浴びれないのはキツイって人は多そうだよな。


 どうしたものか。


 ……そういや、地上を支配したダンジョンを乗っ取った場合ってどうなるんだろうか。

 場合によっては、敵対してきた魔王級のダンジョンを俺が潰して乗っ取るという手もあるか。


 それは積極的な殺人になるが……ツナを守るためなら構うことはない。


 ……アメさんが寝静まったのを見て、起こさないようにゆっくりとふたりの頬にキスをして、少しだけ窓を開けて外を見る。


 まだ雨が降っていて、雨粒が窓を伝って垂れていく。


 ……アメさんとツナの関係、本当にどうなんだろうな。


 そもそもとして、主に俺のせいで仲良くなりにくい関係で、性格も微妙に合わないように見えるし共通の趣味や話題もない。


 ヒルコは意外にも人に合わせたり出来るタイプだし、案外他人を許容出来るのでヒルコの人間関係に関しては問題なさそうだ。


 気になるのはやはりツナとアメさんである。

 ツナの方が賢いけどアメさんの方がしっかりしているところや、子供っぽくて器の小さいツナと大雑把なところがあるアメさんと、何となく噛み合いが悪いように思える。


 いや、実際どうなのかは分からないが、俺がいるときは二人とも俺と話すことが多くなるので、どうにも二人の関係は分からない。


 …………家に帰ったら、ヒルコとゲームをするときにでも様子を見てみるか。


 布団に戻って目を閉じる。……明日は晴れそうだし、普通に道場を開けられそうだ。




 物音に目を覚ますと、下着姿のツナがモゾモゾと着替えているのが目に入り、ゆっくりとそのまま目を閉じる。


 ……人の家で、他の部屋を使うのは躊躇われるのは分かるけど、俺が起きるかもしれないんだから気にしろよ。


 いや、でもツナってわざと俺に見せることもあるのであまり気にしないのだろうか……と考えて薄く目を開けると、上だけ着ているツナの目がこちらに向き……バッ、と手で下を隠す。


「す、すす、すみません。まだ寝ているものと」

「……いや。お、おはよう」


 隠された方が見たくなるのは何故なのだろうと思いながら閉じて横を向く。


 衣擦れの音がなくなり、気まずさを覚えながら口を開く。


「……アメさんは?」

「朝ごはんのお手伝いをしに行きました。道場も家事も、お手伝いしていて大変そうです」

「そう思うなら手伝って……あー、いや、親子の時間を邪魔するのも野暮か」


 ぽりぽりと頭をかきながらもぞりと身体を起こし、少しぼーっとツナの方を見る。


「昨晩、何の話をしてたんですか? 関ヶ原の戦いに勝つとか何とか」

「……アメさんが将来、関ヶ原の戦いに勝てるぐらいの子供がほしいと」

「えっ、こ、子供ですか。……流石に話をするのも早いかと?」

「ツナが思ったよりも普通の反応で助かった」

「それにしても関ヶ原ですか。……三人ぐらいですか?」

「俺の子供にそこまで過度の期待をかけないでほしい」


 アメさんとの話を知ればもっと怒ったりするかと思ったが……思っていたよりも、気にしていない様子だ。


 まるでいずれそうなるのは当然だとばかりで、少し驚く。


 朝食のあと、少しゆっくりしてから道場に向かって道場を開ける。


 既に顔と名前が一致するようになってきた子供たちと共に汗を流していく。


 ……何というか、マトモだなぁ。と安心しながら怪我だけに気をつけていると、中高生が来るには少し早すぎる時間に竹内くんがやってくる。


 ちゃんと学校に行け、と小言のひとつでも言おうかと思ったが、この前も話したので何回も言うことでもないか。


 しばらく普通に訓練を見ていると、竹内くんがチラチラと俺の顔を気にしてあまり訓練に身が入っていないことに気がつく。


「どうした? 集中してないと怪我のもとだぞ。何か気になることでもあったか?」


 俺が尋ねると、彼は少し迷ったような表情を浮かべてから口を開く。


「……若旦那って、ダンジョンマスターなんです?」

「…………いや、違うぞ」


 そういや、ダンジョンに興味がある若者だしな。

 最近のネットで話題になってるようなダンジョンのことなら把握してるよな。


「あまり、ネットの情報を鵜呑みにするものじゃない」

「いや、でも……」

「俺はダンジョンマスターではない」

「でも、練武の闘技場に俺が行くのめちゃくちゃ嫌がってたし……。状況証拠も揃って……」

「竹内。……ネットのデマに踊らされたらダメだ」


 ダンジョンマスターはツナなので嘘は吐いていない。

 竹内くんは少し悩むような、俺の言葉を疑うような表情の後、言うのが嫌そうな表情で口を開く。


「……じゃあ、とりあえず仲間を募集してる白銀の街ってダンジョンに連絡してみていいですか?」


 表情からも分かりやすいような駆け引きだ。


 既に竹内くんは俺がダンジョン側の存在であるという確信を持っていて、探索者よりも新しく知ったそちらの方に興味が移り始めているように見える。


 なんというか、案外ミーハーだな。

 誤魔化せないのに下手に誤魔化そうとした方がややこしいと判断して口を開く。


「……はあ。やめとけ。あそこは内部めちゃくちゃになってるし、騒動の中心だからかなり危うい」

「じゃあ……」

「俺はトップじゃないから決める権限がない。……今のところ、ほとんど家族みたいな仲で暮らしてる感じなんだけど、流石に女の子が多い中で一緒にってのは……まずうちのボスは了承しないし、ダンジョンの外に住んで頻繁に出入りするのも裏口がバレそうで危ない。新しくダンジョンに居住スペースを作ってもいいけど……なかなか外に出られないような状況でひとりは厳しいだろ」

「そこをなんとか」

「いや……いずれは人を呼んで街にしたいんだけど、現状は受け入れる場所と仕事がなぁ……。剣士の仕事はないぞ?」


 竹内くんを仲間に引き込むには時期が早すぎる。

 経験は不足しているが実力者なので欲しくはあるが、けれどもやってもらうこともない。


 現状、おそらくツナが一番ほしいのはDPの商取引に向けて帳簿をつけられたり金銭の管理や商売が得意な人物で、剣士は既に余っているぐらいだ。


 俺、アメさん、ヒルコと武官が多く、文官がツナだけという状況で武官を足しても……と、ツナは考えるだろう。


 流石に竹内くんに今から文官になってもらうのは申し訳ないしもったいない。

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