第二十八話
帯に短し襷に長し、とでも言うか、若さというか幼さを感じるがそれを差し引いても優秀であるが、微妙に役割がない。
俺の周りだけ強さがインフレしているが、冷静に考えて純粋な剣の腕だけで日本トップ層の近接職と同じ程度というのは破格だ。
使い道はなくとも確保はしたい、と、思いはするが、それは俺たち側の都合である。
「竹内は、活躍したいとか自分の能力を発揮したいってところあるだろ。現状のウチだとあんまりそういうの出来ないぞ」
「……まぁそれもあるんですけど、親父殿には返しきれないぐらいの恩があるから若旦那やお嬢がそういう感じなら協力したいのは大きいですね」
「恩?」
「はい。なんで……まぁ、普通に探索者をするとしても若旦那の邪魔にならないところでしたいですね」
アメパパへの恩は俺ではなく本人に返すべきだと思うが……。
……前にアメさんで試したが、アメさんが仲間になってからはアメさんがダンジョン内で倒れてもDPが手に入らなかった。
おそらくは、それが出来たら無限にリスクなくDPを得られるから神側が対策しているのだと思うが……。
今の竹内くんは「ダンジョンの味方」判定なのか、それとも「普通の探索者」判定なのか。
もしも味方判定だとしたら、竹内くんに練武の闘技場の探索をされたら丸損ということになる。
かと言って、他のところの探索されると相対的にはうちのダンジョンにとっては不利益だ。
まぁ多少のものなのでまったく構わないが……それは彼本人の思いとは違うだろう。
「……難しいな。あっ、そういや、クソみたいな悪ふざけばっかりするおっさんへの耐性ってある?」
「そんなピンポイントな耐性はないです。……何かあるんですか?」
「あー、正確には俺のところの仲間ではないんだけど、ふざけまくった結果台風の中心に立った地獄のようなおっさんがいてな」
「もしかして俺をそこにぶつけようとしてます?」
勘がいいな……。
「まぁ、悪人ではないんだ。ただ最悪なだけで……。それの手伝いとセーブする役……まぁ、命の危険もあるからオススメは一切しないけど、逆に言うと騒動の中心で他にはない活躍の場ではある。……まぁオススメはしないというか、やめといた方がいいとは思うけど」
竹内くんは俺の話を聞いてあっけからんと「じゃあ、それやります」と答える。
「えっ……いや、やめといた方がいいぞ」
「具体的な話を聞いてから決めたいですけど、前向きに検討したいですね。今の時期に騒動の中心ってことは、ダンジョン国家に潜入したとかでしょう。トップに挑むチャンス、ここで引くのは夕長流にはあり得ませんよ」
「夕長流は活人剣なんだから引いていいと思うぞ? ……まぁ、ダンジョン側にせよ、探索者にせよ、もし戦うことになれば紛れもなくトップ層だろうけど。……マジでやるのか? いや、俺が言い出したんだけど」
竹内くんは頷く。
ズレているけど真面目なのは分かるし……あの水瀬を一人にしておくのよりもこちらとしてもありがたいが……。
「とりあえず、会ってみるか? いつ投げ出しても文句は言わないから」
「はい。就職面接ってやつですね」
「いや……竹内は落とす側だからあんまり気にしなくていいぞ。……けど、まぁ、ちょっと実力というか場慣れはした方がいいか。今度、交通費は出すから練武の闘技場に顔を出してくれ」
「今じゃダメなんですか?」
「ああ、ここだと斬ったら死ぬだろ」
一瞬だけ固まり、それから好戦的な笑みを浮かべる。
「ありがとうございます」
「あー、技術の習熟のためじゃなくて、単に痛みに慣れるってだけだからあまり期待するなよ」
「はい。分かってます」
まぁ……本人もやる気みたいだし、水瀬を押し付けよう。
最悪、俺が出張れば大抵のことはどうにでもなるし、それに水瀬も性格がアレなだけで立ち回りが上手く頭がキレる。
逃げ場の確保は問題ないだろう。
けれども、多少は心配は残る。
一番いいのは、他にも人を集めて人数を増やすことだろうか。……とは言ってもあんまり候補がいないな。
現実的なのは、東北の方まで伸ばした道にところどころ居住スペースを作って、そこにアーマーゴーレム辺りを配備しておくとかだろうか。
何かあったときに逃げ込み、アーマーゴーレムに時間を稼がせるという感じか。
「……まぁ、それはそうとして。じゃあ、剣道じゃない技を教えるか。当てていい部位が決まっている剣道の癖をなくしていくところからになるな。……もったいない」
周りの様子を見つつ、いくつかの剣道ではしないような歩法や剣の振り方を教えていく。
「……竹刀の振り方と違って刀は引かないとダメって聞きますけど」
「ああ、まぁ昔ながらの日本刀なら普通に叩きつけたら折れる……けど、探索者用の奴は石の塊に叩きつけられる程度には丈夫に作っているものだし、そこそこいい剣を渡すから折れることはないと思うぞ」
「引き斬らないとダメというのは……」
「別に最悪刃が付いてなくても鉄の棒で殴れば死ぬもんなんだから気にしないでいい。というか、それなら西洋剣とかでもいいしな。とにかく、今の動きを下敷きにして考えた方がいい」
竹内くんはコクリと頷き素振りに戻り、俺は別の門下生の様子を見にいく。
竹内くんの進路に関しては、アメさんの親父が帰ってきた後に伝えといた方がいいか。
そんな感じで道場で過ごしている間に、少し日付が経過してアメさんの親父さんが帰ってくる日になった。
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