第二話

 ゲームのしすぎで目が疲れた……。

 一旦休憩して、昼食の準備を始めると、ツナは難しい顔をして俺の方を見ていた。


「どうした? お菓子の食べすぎでご飯が食べられないとか言うなよ?」

「……いえ、しばらく貯めていたDPの使い道に関して、相談がありまして」

「DPの使い道? いつもツナが決めてるのに相談って珍しいな」

「……流石に、額が額ですので」


 額って……うちのダンジョン【練武の闘技場】の収入があって用意出来ないものなんてないだろう。


 DPで出せる最強のモンスターでも百体とか出せるぞ?


 そう思っていると、ツナは地図を取り出して、日本地図にツーと横断するような線を引く。


 どうしたのだろうと思っていると、ツナは信じられないことを口にする。


「現在のウチのダンジョンがここなんですけど、ここまで道を伸ばそうと思ってます」

「……ツナ、それ日本地図だぞ。市の地図じゃなくて」

「正確には日本海をぐるっと大回りって感じですね。めちゃくちゃ深くを通るつもりですけど、陸だと他のダンジョンと繋がってしまう可能性があるので」


 いや、なんでそこまでして……と考えて、その行き先に見覚えがあることに気がつく。


「極夜の草原……にはそこまでする価値はないし、ヒルコのダンジョンか」

「はい。ヒルコさんのところのダンジョンは完全な生態系が完成しているので、手に入れたらそのまま使えます。めちゃくちゃ細かく分かれてぱっと見別のダンジョンのようにも見えるのもカモフラージュとしてよく出来ていますし、是非とも手に入れたいです」

「……素直にヒルコのためと言えばいいのに。それで、そんなにDPがかかるのか?」


 ヒルコは話が気になるのか、ゲームをする手を止めてこちらに目を向ける。


「だいたいの試算では5000アメぐらいですね」

「5000アメ!? めちゃくちゃな……いや、まぁ日本を横断と考えたらそんなもんなのか……」


 アメさん5000人分って……とんでもない額だぞ。


「あの、なんで僕の名前が単位に……?」

「アメさんが一番貢献してくれていたからです」

「ええ、そ、そんなことないですよ。結局、僕がいない間にふたりでダンジョンを攻略してましたし」


 ああ……アメさん、勘違いしてる……。まぁ訂正する必要もないので適当に頷きながら話を続ける。


「どれぐらいで取り戻せる予定なんだ?」

「ヒルコさんにいただいた資料によりますと、だいたい丸々一年で取り返せます。ただ、モンスターと普通の現地の生き物の生態系を調整するなんて人間離れした技能や知識は私にはないので、手に入れても改造などは出来ないのでそのまま放置することになるので、少しずつ探索者が慣れてきて収入が悪くなるので……おおよそ一年半はかかると思います」


 ……DPをほとんど失うリスクの割に、それを取り返せるまでの時間が長いな。

 しかもダンジョンを広げることによるリスクは先ほどの判断材料に入れていない。


 日本海側に大回りするということは、北から外国のダンジョンが伸びてきたら俺たちが争うことになりかねないし……。


 だが、取り戻した後も勝手にDPを稼いでくれるのは魅力的だし、何よりも……。


「広範囲の道を持てること自体にかなりの利益があるか」

「はい。もしも練武の闘技場を攻略されたときの逃げ場や、前の極夜の草原のときみたいに他のダンジョンに向かう際には非常に役立ちます。……長期的に見るとプラスではあります、が、けど……同時に、秘密裏にではありますが、日本最大規模のダンジョンになります」

「……そこだよなぁ。てっぺんって、リターンも大きいけどリスクも大きい」

「範囲を広げれば他のダンジョンとかち合う可能性は上がりますし、おそらく揉め事にはなりませんが、知り合いが増えることにもリスクがあります」


 ヒルコのいい人が裏切られて殺されたときのようなリスクが増えてしまう。


「加えて、おそらくですが近々ダンジョンマスターの存在が世に広まると思います。そもそも陰謀論ぐらいの立ち位置で収められるほど情報を隠せていたこと自体が奇跡みたいなものです」

「……無限にリスクが上がるな」

「はい。勝手には出来ません。なので、ヨルには相談を」


 少し考えて地図を見る。……ヒルコのダンジョンが潰れてからまだ日は浅い。おそらく、現状手付かずだろうが、日が経てば他のダンジョンが潰れたことに気がついて手を伸ばすことだろう。


 取ろうと思うのならば今のうちしかない。


 それに……と、ヒルコの方を見る。


「ヒルコには必要だ」

「……私に? ……思い出の場所なんてものでもないですよ」

「いや、ダンジョンの方じゃなくて、道の方がな。旅行って言ってもこれから世界がどういう情勢になるかは分からない以上、帰れる手段や隠れられる場所は残しておく必要があるだろ」

「…………私のために、そんなにする必要はないです」

「まぁアメさんが実家に帰るときとかも使うし、これからどうしても規模は大きくなっていくから、悪い機会じゃない。……というわけでツナ」

「はい。今日中に全部やっておきます。ソラさんに頼まれた他のダンジョンマスターの保護の件もありますし、手早くやっちゃいます」


 ああ……ヒルコが忍び込んだことでビビったダンジョンマスターか。結果的にマッチポンプみたいになってしまったが……まぁそこはいいか。


「ダンジョンの規模が大きくなるってことは人員も追加でほしくなるな」

「んん……それはそうなんですけど、信頼出来る人でないと」

「……せっかく北の方まで伸ばすんだったらみなもを誘うか?」

「んー、声をかけるだけかけるのはありだと思います。……組合の方は古くからの付き合いではありますが、関わりはあまり多くないので声をかけてかけるのも微妙ですね。こちらが信頼しきれないのもありますが、それ以上に実態として「練武の闘技場の傘下に降れ」みたいな意味合いになるので」


 まぁ規模の差はあるしな……。


 ……みなものところはおばあちゃんを除くとみなも一人でのダンジョン経営だし、ソラさんから頼まれてるダンジョンマスターもおそらくダンジョンマスターと副官の二人だけだろう。


 合わせて七人程度……となると、やはりどう考えても規模の割に人数が少なすぎる。


「流石に一般の方から募集するわけにもいかないしなぁ」


 と、俺がこぼすとアメさんはぴょこぴょこと手を挙げる。


「どうした?」

「僕のお父さんとお母さんはどうですか? 強いですよ」

「あー、いや、どうだろうか。道場の仕事があるのと……事務仕事というか、ダンジョン経営出来るタイプじゃないだろ。本人たちが望むならいくらでも仲間になってほしいけど」

「むう……確かに僕の父母は人を斬ることしかできないです」

「まぁ……アメさんがこっちにいる以上実質的に味方ではあるけど」

「人員に関しては今後の課題ですね」


 ツナの言葉に頷く。

 信頼出来て有能な人間となると流石にハードルが高い。そもそもダンジョンの事情を知っている人物すら少ないので、現段階では仲間を増やす方法がかなり限られている。

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