第四十話
結婚……してもよかったのだろうか、と思うの以上にツナが俺の伴侶であるということへの喜びの方が強く出てしまっている。
ツナが俺の……いつも冷静ぶったりしてるのに、表情が勝手に崩れてしまいそうになる。
紙一枚、それも自分たちで持ってるだけの効力も何もないもの。
そう分かっているのに浮かれてしまいそうになる。
「うへへへ」
それはツナもそうなのか俺の方を見てふにゃふにゃとした笑みを浮かべては真剣そうな表情に変わる。
「ヨル、幸せにしてみせますからね」
「それは俺の方のセリフなんじゃ……。あ、その、そういえばまだちゃんとプロポーズしてなかったな。……もっとちゃんと雰囲気を作って、いろいろ考えてするつもりだったんだけど」
ゆっくりと息を吸う。帰ってくる答えは分かりきっているのに妙に気恥ずかしく緊張する。
乾いた喉に唾を飲み込み、それからもう一度ツナを見る。
……朝霧キヅナ、小さくて暖かくて、俺に初めて愛をくれた人だ。
よくない、と、思っている。
彼女を俺に縛り付けることは。
俺はロクでなしで、ダメなやつだ。だからツナと一緒になるべきではなくて……。小さな手を握る。
格好つける、つもりだった。けれども不安が勝ってみっともない顔でツナの方を見る。
「好きだ。一生、俺のそばにいてほしい。……俺よりも先に死ぬことだけは、やめてほしい」
ツナは泣き方とプロポーズが混じったような俺の言葉を聞いて、愛おしそうに俺の頭をギュッと胸に押し付けるように抱きしめる。
「……やめるときも、すこやかなるときも、よろこびのときも、かなしみのときも、とめるときも、まずしきときも……これをあいし、いつくしみ、うやまい、ていせつをちかうことをちかいます。……しがふたりをわかつまで。……分かっても、永遠にいつまでも」
ツナは俺を見つめて、ゆっくりと唇を動かす。
「愛してます」
「……俺にプロポーズさせてくれよ。愛してる」
「うへへ、知ってます。……ヨルは心配してますけど、ちゃんと恋とか愛とか分かってます。心配なのは分かります、難しくて繊細でいろいろなものが絡んで壊れそうなものだから……幼いから分からないと思うのも分かります」
ツナの手が俺の背中に回されて、そのまま優しくさする。
「愛してます」
「……うん」
「だから、怯えたみたいに私に触らなくても大丈夫です」
ツナの背中に手を回す。
パジャマの奥に感じる湯上がりの暖かい温度と、柔らかい肌といい匂い。
「……キス、してもいいか?」
ツナは返事をせずに目を閉じる。
唇を付けると小さくて柔らかい感触が伝わってくる。愛を確かめるように、何度も啄むようなキスを繰り返して、それから見つめ合う。
ぽーっと幸せそうなとろけた表情。
可愛い、可愛いと頭の中がツナのことに支配されてしまうのを感じるが、それが少し心地よい。
細い腰に手をやって、もう一度口を付ける。
もう今更引き返すことは出来ないのだからと、我慢することを放棄して抱きしめる。
小さくて軽い身体をソファに押し倒して、頬や首筋にもキスをしていく。
こそばゆそうな嬉しそうなツナの手を握りながら覆い被さるように抱きしめ……。
「結城くん、私のスマホ知りません……? あ、ごめん」
リビングに入ってきたヒルコはツナを押し倒している俺を見て扉を閉じる。
ツナの上からスッと退いて扉を開ける。
「……変なことをしていたわけではない」
「えっ、あ……うん。……じゃあ何をしてたんです……?」
「スマホ、机の上にあった」
「それで何をしてたんです……?」
「……明日の朝飯何がいい?」
「いや、別に変なことをしていても構いませんけども」
「ヒルコは旅に出るつもりなんだし、体は鍛えといた方がいいと思うから、アメさんから色々習ったらどうだ?」
「この人、全力で誤魔化す気だ……」
ヒルコにスマホを渡しながら誤魔化していると、ツナはちょんちょんと俺の服の裾を引く。
「……寝室、いきますか? 二人きりになりたいです」
「いや行くけど。行くけども。……このタイミングで行ったらあらぬことを疑われるから。……あのなヒルコ、俺はツナにキスしかしてない。だからセーフなんだ」
「……セーフの要素ありますか?」
…………法律的にはセーフだろ、キスは、たぶん。
俺は自分の潔白を主張しながらツナと共に寝室に入り、再びふたりきりになったのでツナのほそっこい体を抱きしめる。
「えへへ、急に積極的です」
「……それは、その……まぁ、流石に結婚までしたならこれぐらいなら許されると思って」
「どんなことでも許しますよ?」
ツナは嬉しそうに俺の首に手を回す。
どんなことでもという言葉を聞き、ツナの小さくて細い体を見て思わず浮かんだ不埒な考えを首を振って気分を誤魔化す。
俺のそんな様子を見て、ツナは不思議そうに首を傾げる。
「何かしたいことあるんですか?」
「いや、ないです。全然」
「よく分からないけどしても大丈夫ですよ?」
……いいのだろうか。いつもなら誘惑を振り切って我慢するところだが、ツナは俺の妻なわけで……そんな彼女と同意のもとスキンシップを行うことに倫理的な問題などあるだろうか。
否、ない。
ツナとしたいこと、触りたいところなどは無限にある。
細い脚に手を伸ばし、柔らかいパジャマ腰に撫でるとツナはこそばゆそうに身を捩った。
えっち、と言いたげな目を向けられるが、火を付けたのはツナの方である。
ペタペタとツナの脚を触ると、ツナは嫌がるどころか嬉しそうな表情で俺を受け入れる。
気分が盛り上がり、理性がどろどろに溶けてツナの体に夢中になる。
幼い女の子だとは分かりつつも、こんな可愛くて優しい女の子が自分の伴侶であることが嬉しくて仕方ない。
もはや隠すことも意味がなくなったために強く抱きしめながらキスをしていると、ツナが少し残念そうに口を開く。
「あ、そろそろアメさんが来る頃かもしれません。……また明日にしますか? その、私はこのまま続けても大丈夫ですけど」
「……今、中断されると生殺しなんどけど……いや、でもアメさんの前でこれ以上触るわけにも……」
まだ変なところは触っていないが、けれども流石にこんな触れ合いをしているところをアメさんに見られたら気まずいどころの話ではない。
「……でも、これからたぶん一生アメさんも一緒にいることになると思うので、隣にいるからって我慢していては全然スキンシップの機会がなくなってしまいます」
「いくらでもあるだろ。……あー、アメさんといえば、アメさんが父親に里帰りをさせてやりたいらしくて」
「あの人の……あれ、出身どこでしょうか?」
「英語圏なのは間違いない。筋肉ランドとかじゃないか」
「初めて聞く国ですけど、筋肉ランドって英語圏なんですね。公用語、肉体言語とかじゃないんですね」
まぁ出身地はあまり重要ではない。
「それで、仕事の道場を休むわけにもいかないから代わりをやれないかという話で」
「わ、私がですか?」
「俺がな。まぁすぐって話ではないけど、いつかそういうことをしたいと思ってる」
俺がそう言うと、ツナは少し考えてから頷く。
「すぐの方がいいですよ。ダンジョンの影響で国境閉鎖される可能性もありますし」
「いいのか?」
「はい。新婚旅行とでも思いましょう」
あ、ツナも一緒にくる想定なのか。……ヒルコに留守番を任せても大丈夫だろうか。
まぁ、探索者にはダンジョンの四分の一も到達されてないので滅多なことは起こらないだろうが。
行くとしても、新婚旅行で修羅の道場はちょっと嫌だな……。アメさんとアメさんの父親の道場……しゃれこうべとか置いてありそうだし……。
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