第三十五話
久しぶりに熟睡出来たな。
……ツナの体温が心地よく、すーすーという寝息が眠りを誘う。
一緒にいれるということが、こんなにも安心するとは思っていなかった。
短い時間だけどいい目覚めだ……と思っていると、扉が開いてヒルコがコチラを見る。
「うわぁ……小さい女の子を両手に侍らせてます」
「……いや、アメさんはまだ……ギリセーフな年齢だし」
「いくつなんです?」
「16歳だったはず」
「あ、小学生か中学生ぐらいだと思ってました。それはそれとして……セーフだと思います?」
「……合法ではない。合法ロリではない……けど、違法性はあるけど警察にはギリギリ見逃してもらえそうなラインのロリだと思う」
「……まぁ、いや、どうなんでしょうか。家族が相談したら対処はされそう」
「父親とは会ったことあるからセーフ……いや、アウトではあるけど逮捕されたり起訴されることはない」
俺の勝ちだ……! も勝ち誇っていると、ヒルコの目はツナの方に向かう。
「そっちの子は」
「ツナは……逆に、逆にセーフだろ。年齢的に、逆に一緒に寝るのとかは健全だ」
「…………確かに」
よし。ふにゃふにゃとした顔で寝ているツナを見てからヒルコの方に目を向ける。
「財布、返す」
「ああ、足りた?」
「うん。……働いて返す」
「いや、適当でいいよ、適当で。一応、もう身内なわけだし、金銭的な価値があるものなんていくらでも余ってる状況なんだから」
体を起こすと、俺の動きに反応してアメさんが目を覚ます。
「……あ、おはようございます。……あ、ヒルコさんもおはようございます」
「今、夜ですけどね」
寝起きでふにゃふにゃしているアメさんを連れて、起きる気配のないツナを抱えてリビングに向かう。
席が三つしかないのでツナを膝に抱えたまま座り、特に話す議題も決まっていないがなんとなく三人で向かい合う。
……年長者だし、このダンジョンの先住民なわけだから俺から切り出すべきか。
「あー、まず、第一としてヒルコは少なくともしばらくはこのダンジョンにいるわけで、旅行の途中も疲れたら帰ってくるだろうし、ある程度しっかりと生活環境を整えた方がいいと思っている」
「……ご迷惑をおかけします」
「いや、俺から来るように誘ったわけだし気にする必要はない。でも、問題として……まぁ、年頃の異性なわけだから、狭い生活スペースだとヒルコもしんどいだろうと思う」
ヒルコは疲れもあるのか、案外素直にコクリと頷く。
「ツナは基本狭い方が好きだから今までは居住スペースは狭くしていた。アメさんもまぁ、俺と一緒の部屋で過ごすのに抵抗なかったしな。けど、まぁ広げようとは思う。ツナは俺が説得するとして」
アメさんの方を見ると、よく分かっていなさそうな雰囲気だけど分かってる風を取り繕って頷いていた。
「それで……まぁダンジョンだから改築は簡単だけど、どんな風にしたい?」
「どんな風に……とは」
「例えば、マンションの別室みたいな感じにするとか、多少広いシェアハウスぐらいにするのか、みなもの温泉旅館みたいにするとか」
「……その子がダンジョンマスターなんですよね、寝てる間に決めていいの?」
「大丈夫。絶対、自分では案を出さないから。それに……まぁ、しばらくはご機嫌だろうから」
ヒルコは不思議そうな表情を浮かべる。
ツナとの結婚式の話は隠しておく方がいいか。
……いや、いつかはバレることか。ツナは隠さないだろうし。
ふにゃふにゃと寝てるツナの体を支えながら、アメさんが淹れてくれたお茶に口を付ける。
「ツナに、落ち着いたら結婚式をしたいと言われているから、それの用意で。……まぁ、籍はなくなってるし、人も呼べないしで、ごっこ遊びのようなものだけどな」
「え、ええ……いや、まぁ……闇の暗殺者なので何も言うことはないですが」
「闇の暗殺者って発言権失うんだ。……いや、まぁ、言いたいことは分かるけど。そのドン引きした目をやめてくれ」
ヒルコは何も言わないが「うわぁ、ガチのロリコンだ。いや、でも、私に興味ないのはありがたいし……」という意思を表情で伝えてくる。
俺はコップを机に置き、コップの底に少しだけ残ったお茶を見ながら口を開く。
「ツナには、特別な才能がある。……もちろん、神に選ばれたやつはそれぞれが段違いの才能があるが……ツナはその中でも、明らかに若く飛び抜けていた」
「……?」
「才能というものはなんだと思う。技量が高いことか、それで金を稼いだり世間に認められていることか。……俺は、才能というのはそんな生き方ではなく、死に方のことだと思っている」
ヒルコは不思議そうに俺の話を聞く。
「実際にどうかは別として「この人はこうして死ぬのだろう。」と、思わせる説得力。死に様を想像させるほどの強い納得感こそが、才能というものだと思っている」
「……同意はしませんが、その定義の才能を持っていると」
「ああ。……何もかもを上手くやって、全てを成功させて……その上で、ひとりぼっちで、部屋の隅で丸まっている姿を、幻視してしまう。……だから、俺はその才能を折りたい。ツナは一人の方が上手くやれるから、俺は隣にいてあげたいと思っている。それに都合がいいのが。結婚という制度だった」
「…………僕、てっきりヨルさんの趣味かと思ってました」
「それもある」
「あるんだ」
ぽりぽりと頭を掻く。
「まぁ、そんなことでツナはしばらく間違いなく最高に機嫌がいいだろうから、そんなに気にしなくていい。ツナもすぐに慣れるだろうし」
「ん、んん……良いんですか?」
「ツナがそもそも居住エリアを広げたがらないのは、俺と距離が開くのを嫌がってるだけだし問題ないよ」
ヒルコは納得したのか、少し考える表情を浮かべてから頷く。
「じゃあ……ワガママを言うけど、たくさんものが置ける自室と、物置がほしいですね」
「物置? ああ、旅行のお土産を置きたいとかか。トイレとか風呂とかは別で用意するか?」
「……本当にいいんですか?」
「じゃあそれもいるとして……もうマンションの別室みたいな感じにする方がいいか。いや、食事やらを別に用意するのも面倒だからからこっちのリビングには来やすいようにはした方がいいか」
あとは家具や家電……は、今聞く必要もないか。
「まぁ、細かいところは後からいくらでも変えられるから適当に追々決めていくとして……やっていけそうか?」
「……居候のニートをするのは、少し」
「居心地が悪いか。なら、家事手伝ってもらっていいか? 洗濯とか出来る?」
「あ、はい。もちろん。闇の暗殺者なので」
闇の暗殺者って洗濯とくいなんだ。
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