第二十七話
「実際、どうするつもりなんだ?」
「最深部まで行って斬ります」
「なんか既視感があるゴリ押し感……。とりあえず、ヒルコが斥候で俺が戦闘役で進むか。……ダンジョンマスターに目をつけられている以上、ここからは、休憩すらマトモに取れない無理な戦いになる。覚悟はいいな」
「闇と共に生きるものに休息など不要です」
その理屈はよく分からないが。
分かってはいたが、ヒルコの索敵能力の高さはかなり異常だ。
遠くにいる敵や罠を見つけるのはもちろんのこと、肌感覚で冷たい草が多い場所をなんとなく把握出来るのか、草の群生のせいで通れない道に進むこともない。
「後方上空、ドラゴンに捕捉されています」
「……まだ見えないな。近寄ってきたら斬れるが、上から魔法で攻撃され続けたら厳しいな」
「かなり前方に大きな足音があります。おそらく、フロアボスです。階段に駆け込みますか?」
「……ドラゴンが降りてくるのを待つのより、挟撃に遭う方がマシだな、突っ込むぞ」
明らかに見えていないような範囲まで把握している。おそらくそれは……異常にまで優れた聴覚により成せる技だ。
「モンスターを避ける道を先導します」
「いや、いい。まっすぐだ」
「……走竜の群れですよ。トップレベルのパーティでも全滅するレベルの」
「問題ない。俺の後ろに」
しばらくすると人並みの背丈の恐竜のような姿のモンスターが俺達に向かって走ってくる。
けれど鎧袖一触。と、呼ぶに相応しいほど容易く斬り捨てる。
「……へ?」
俺の近くにやってきた順に首が落ちて地面に倒れていく。
「……もしかして、めちゃくちゃ強いですか?」
「よほどのモンスターでもない限りは消耗すらない。とにかく、階段に向かってまっすぐだ」
人間である以上、単に起きているだけでも消耗するので急ぐに越したことはない。
俺とヒルコはダンジョン探索において相性がいいらしい。
複雑な地形も一瞬で把握出来るヒルコと大抵のモンスターは相手にもならない俺で、最短距離で歩き続けることが出来る。
アメと二人での探索は戦力が過剰で斥候不足感が強かったが、今はかなりバランスが取れている。
俺でも認識出来るほど階段の近くまできたところ、巨大なスケルトンが階段を守るように鎮座していた。
白い骨のモンスター……ではあるが、人型ではない。
スカルドラゴンとでも呼ぶのか、ドラゴンの骨がスケルトン化したモンスターだ。
だが……腕の数がおかしい。明らかに本来の数とは違う六本の腕……しかも関節の数が多くて腕が長い。
竜の骨の標本に子供が骨を継ぎ足したかのような奇怪な姿。
「……見たことないモンスターだな」
練武の闘技場ではツナの趣味……というか、アンデッド系モンスターが怖いという理由で積極的に採用されていないが……だとしても珍しく感じる異形だ。
「っ! 結城さん、後ろからもドラゴンが……!」
「よっ……と。……なんて名前のモンスターだろうか。純正のモンスターじゃなくてダンジョンマスターが改造したっぽいよな」
前後から迫る竜を共に斬り刻む。
階段に向かいながらヒルコに言うと、ヒルコは俺と動かなくなったモンスターを交互に見ていた。
「……え、ええ」
「なんでドン引きしてるんだよ。よほどのモンスターでもなければ消耗もないと言っただろ」
「……いや、ドラゴンはよほどのモンスターですよ」
これぐらいならアメさんも普通に出来る。
それに、俺からすれば目で見えない位置にいるモンスターや地形を把握するヒルコの方がよほど人間離れしているように思える。
「そう言えば、練武の闘技場の中ボスは……最強の存在、でしたか」
「……どうかな。強さというのは色々あるからなぁ」
ツナにもアメにも負けっぱなしだし、単に強いだけなら代わりが効くので大した価値はないと思う。
「……なんでこんなに強い人が、私の味方をするんですか」
「気まぐれだ」
「……いい人を気取るなら、復讐をやめろと止めるのが正解ですよ」
「いい人ぶんなってゴブリンに説教されたばっかだしなぁ。…………復讐か」
確かに、止めるのが人として正しいのだと思う。まだ少女と呼べる年齢のヒルコに人を殺させるのなんて、いい人どころか非人道のクズと言って間違いないだろう。
「ゴブリンに説教? ははーん……さては、クール暗殺者である私に惚れましたか?」
「いや……俺、小さい子しか好きになれないらしいから」
「ええ……」
「まぁそれは置いといて。……俺なら復讐を諦めたら死ぬだろうしな、と、思って。復讐という目的があればその間は死なないだろ」
「……死にませんよ」
「それで、復讐を終えたときまでに生きる理由でも探そうと思って。……ここを出たら美味い飯を食うとかどうだ?」
「……あの人がいなくなってから、ほとんど喉を通りません」
……まあ、そんなもんか。
「……ヒルコ。教えろよ、大切な人のこと」
「えっ……忘れた方がいいみたいなこと、言わないんですか?」
「そんなことに口出し出来る仲でもないしな。あと、普通に気になる」
「興味本位……。さっき話したような人です。自分のことを闇の支配者と名乗る人で……その割に、変にお人好しで、あと、寝顔が子供っぽくて……」
階段を降りる足を止める。
「……きっと、私がこんな風に復讐をしようとするところを見たら、闇の支配者なんて設定を放り投げて、抱きしめてくれるんです。「帰ろう」と、下手な笑顔と一緒に」
「……」
「帰る場所も、あの人もいないので、復讐を止める理由はありません」
「まぁ、止めるつもりで聞いたわけじゃないけど」
再び階段を歩く。……広いダンジョン、監視カメラを付けられる場所は限られているだろうから、おそらくはこの階段にもあるだろう。
引き返すなら今だな。……と、思うが、止める理由もない。
……武力ならまだしも、精神的なところに対してフォローは入れられない。
決意と悲壮の滲む横顔を見る。
…………無性に、ツナに会いたくなった。
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