第十三話
ツナとの通話を終えて、アメとみなもと昼食を食べながら少し考える。
……夕長の技……か。
正直、その技自体には大して興味がない。
夕長流を元にダンジョン向きに改変した、アメのみぞれ流の方がダンジョンにおいては使い勝手がよい。
そうでなくとも改めて技を身につける意味はあまりない。
けど……まぁ、アメさんを巻き込んだのでその責任はあるしなぁ。
まぁ、後で考えるか。
今はそれよりもダンジョンの攻略だ。
食事を終えて、アメと探索の準備を整えながら話をする。
「実際、どれくらいのショートカットになっているんでしょうか? もしかしたら反対に遠回りになっている可能性も……」
「極夜の草原は広い平地が何層にも積み重なっているような形で、地下深くに最深部がある可能性が非常に高い」
「なんでですか?」
「浅いところに最深部を作ったら、地上から掘って辿り着かれる可能性がある。それに他のダンジョンともぶつかりやすい」
「あえて……みたいな発想で上の方にする可能性はないんです?」
「ありえないわけではないけど、探索者の数が多ければ総当たりで探されるから、普通は「見つからない場所」よりも「辿り着けない場所」にダンジョンコアを配置するのが普通だな」
何にせよ現地で確かめていくしかないか。
「たぶん、ダンジョンの規模的にここよりもいくつか下の階層になると思う。無闇矢鱈に横に広げるにも限界があるだろうし、おおよそ五キロメートル四方程度の広さがあと数層あるという感じだろう」
「……全面あの冷たい草のフロアとかになってたらどうします?」
「それはないと思う。熱を吸ってエネルギーにしてるなら、その熱がなくなればエネルギー不足だろうしな。まだ冷える可能性はあるが、下限もあるはずだ。……と、よし、いくか。まずは端まで歩いて、外周を一周したあとぐるぐると少しずつ内側を回る感じにしよう」
「それはなんでですか?」
「不慣れな俺がマッピングしやすいように」
アメは「なるほど……」と頷く。
二人で先ほどの洞窟に向かうと、既にみなもが道を整えてくれたのか平らで歩きやすくなっていた。
蒸し暑いダンジョンから少しずつ寒いダンジョンに向かい、体の汗が乾いた頃に上着を着込んでまた歩く。
落とし穴の下まで辿り着き、二人で上を見上げる。
「ここ、どうします? 壁をジャンプして登りますか?」
「いや、何度も行き来するだろうし軽くロープと杭で昇りやすくしとこう」
工事とも言えないぐらい簡単に杭で足場を作ってロープを垂らす。それから落とし穴から這い上がる。
軽く土埃を払ってから周りの様子を見て、予定通り探索を開始する。
端の土の壁が見えたところで、その壁に沿って歩いていく。少しずつ歩きながらのマッピングに慣れていくが、手袋をしているせいでどうにも描きにくい。
「……地道ですね」
「地道なのはアメさんが無言でモンスターを斬り捨てていくからだけどな。見たところかなり強いモンスターだし、本来なら「くっ! なんて強さだ! 退却を……いや、退却すら出来ない……!」みたいなノリになるところだから」
「そうした方がいいですか?」
「いや、普通に切って欲しいけど。あ、ここ、罠があるな」
「りょ、了解です」
アメは大きく罠を避けてそれから俺の方をジッと見る。
「どうかしたか?」
「いえ、こっちにきてから、ずっと調子が悪そうだなって」
「……引きこもりだから体力がないんだよ」
「ツナちゃんのことですか?」
「……言い当てないでくれよ。心配だし、寂しいし、割と気が気ではない。けど、地道にやるのが一番早いと分かってるから急ぐことも出来ない」
「……はい」
アメはほんの少し寂しそうな表情をしたあと、パッと顔を上げて笑顔を作る。
「頑張りましょうね!」
「……アメさんからしたら面白くないだろ、一緒にいるのに、別の子のことばかり考えてるの」
「横恋慕をしてるんです。それぐらい覚悟の上です!」
「……アメ、本当に堂々としててかっこいいな」
「えへん、です」
胸を張るアメを見ながら歩いていると、遠くに登り階段を見つける。
「登り……ということは地上側ですか」
「ああ。……アメさんのことも大切に思ってるよ」
「知ってます」
「……悪いな、俺達の話に巻き込んで。……とは、言わないからな。ちゃんと幸せにするから」
「僕、今も幸せですよ」
そう笑うアメと二人で歩いていると、背後にある登り階段から足音が聞こえる。
振り返ると、六人の男女が降りてきているところだった。
「あー、まだダンジョン続くのかよ。広すぎだろ」
「はいはい。文句言わないの」
「あれ……こんな深いところなのに誰かいる?」
「モンスターだろ。……いや、あれは」
……見覚えがある。俺が中ボスをやっていたときに斬ったやつらで、確かパーティ名は……。
「【歩きカラス】……」
俺よりも先にアメが言う。
少し驚いてアメの方を見ると、緊張で身体を硬直させていた。
アメらしくない態度に驚いていると、俺たちに気がついて歩いてきた若い少女がアメの方を見て「やっぱり」と口を開く。
「うわ! 夕長さん、こんなところで会うなんてびっくり! 連絡取れなかったから心配してたんだよ」
「お、お久しぶりです。……春山さん」
知り合いか? と俺が言おうとするが、それを無視するようにアメが囲まれる。
「うわー、久しぶりだなー、はは」
「あ、う……」
「まだ探索者続けてたんだな。よくやるよ」
歩きカラスの奴らは笑っているが、明らかにアメは萎縮していた。
それに笑い方が……なんというか、見下しを感じる。
「……どうも。視界の悪いダンジョンだと誤射の可能性もあるからあまり不用意に寄らない方がいい」
「あ、すんません。えっと、夕長の知り合い?」
「……見れば分かるだろうに、パーティで探索中だ」
「他のは? あれ、もしかしてまたやったのか?」
男の言葉にアメがピクリと震えて俯く。……アメらしくない怯えた様子。
「……その、それは」
「元々二人で探索してる」
「俺は夕長に聞いてるんだけど?」
威圧するような言葉、周りの奴は「やめなよー」という反応をするが、本気で止める様子はなくクスクスと笑っている。
見下されている。……おそらく、アメが下に見られていて、それとパーティを組んでいるからだろう。
アメの元パーティメンバーで、アメを追い出した奴らなのだろうとすぐに察する。
クスクスと笑っている奴等を見て、それから口を開く。
「……お前ら、性格悪いな」
微妙な間が空いて、冷たい空気が流れていく。
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