第二十四話
ツナは俺の膝の上で猫のように丸まって甘える。かわいい……と見惚れていると、ツナは俺の首元に手を伸ばして俺に笑いかける。
「んー、でも、アメさんのこと、好きになったらダメですよ?」
「あ、ああ……うん、分かってる。うん」
「もし、アメさんのことを好きになったら…………。んー、私が管理してるアメさんのチャンネルで、私が顔出し配信をして、ヨルの顔写真と本名を映しながら「二股をかけられました」って泣きます」
「社会的に死ぬ……二度と顔を出して街を歩けなくなる」
成人してる男が半分ぐらいの歳の女の子と未成年の少女を相手に二股とか、石を投げられても文句言えない。
「なら、やめてくださいね?」
「はい……。それで、アメさんはどうするんだ」
「……とりあえず、本人の意向もありますし……敵対した時のDPよりも味方につけた時の戦闘力の方が魅力的なので、仲間にすることに異論はありません」
「ああ……よかった」
「でも、寝室は私たちとは別ですからね」
えっ、寝室……? アメがここに泊まるというか、暮らすのが前提なのか……?
いや、まぁ……ここまで連れてきたからには今まで通りというわけにはいかないが……。
「何か問題ありましたか?」
「いや……何もない」
「正直に言うと?」
「俺のことが好きな美少女ふたりときゃっきゃうふふの同棲生活……とてもワクワクする」
「配信します」
「ごめんなさい。それだけは勘弁してください。大丈夫、入れ込みすぎないようにする。……いや、もう入れ込んでるな……ごめんなさい。完全に俺が悪い」
「それはそうとしか言えないです」
俺が頭を下げると俺の膝に乗っていたツナと目が合う。
バツの悪さに目を逸らすと、ツナの小さな手が俺の顔を挟むようにして触り、目を逸らして逃げられないようにする。
「ヨルにはいつもワガママ聞いて貰ってるから。……したいこと、何でもさせてあげますよ?」
「……もしかして、俺、エロいことしたいから負けたと思われてる?」
「違うんですか!?」
ツナの頭を撫でて小さくため息を吐く。
「……単に、アメが強かった。それだけだ」
「……。でも、普段エッチなので信用出来ないです」
「男はみんなエッチなんだよ。むしろ俺は普段から我慢してる方だろ……」
「あ、あれで我慢してるんですか!?」
「ツナに変なことしてないだろ……! というか、アメの前で俺が変態みたいなこと言うなよ」
俺が釘を刺すと、扉がトントンとノックされて、カチャリと開く。
湯上がりで頬が赤ばんだアメが照れくさそうに俺のTシャツの裾を抑えながら小さな歩幅で歩く。
既にシャワーで汚れと共に戦いの熱も落としてきたのか、剣呑な雰囲気はなくなって、ふにゃふにゃとした柔らかい様子だ。
Tシャツ一枚だが、身体の大きさの違いからワンピースのようになっていた。
それでも丈は短く、恥じらうように裾を抑えている姿は、恥じらっているからこそ見つめてしまうものだった。
「す、すみません。お借りしてます」
「あ、い、いや……ズボンは」
「えっと、ベルトもお借りしたんですけど、ベルトの穴を一番細いところにしても腰にひっかからなくて……」
「なら、仕方ないか」
アメは俺の視線を気にするようにしながら、キョロキョロとまわりを見回す。
「ああ、そっちの椅子でも、こっちのソファでも」
「あ、は、はい。失礼します」
アメは一度椅子に座ろうとして、シャツの丈の短さを気にしてソファに座り直す。
座ったことで白いふとももが見えて思わず見惚れてしまうと、ツナがぐにーっと俺の頬をつねる。
「ヨル」
「はい」
「後で怒りますから」
「はい」
いや、仕方ないだろ……! かわいい女の子がTシャツ一枚で隣に座ってるんだぞ!?
ドキドキぐらいするだろ……!
アメは俺が見ていたことに気がついてか、恥ずかしそうに手をパーにしてふとももを隠す。
「そ、その……えっと、ダンジョンの中に、こんなところがあったんですね」
「あー、ああ、ダンジョンは基本的にダンジョンマスターであるツナが好きに作れる。他のダンジョンもだいたいこういう居住空間を作ってるな。狭いアパートみたいな感じなのはツナの趣味だ」
「普通に住みやすさを追求したらそうなるんです」
いや……住みやすさを追求したらもう少し広くなるだろ。寂しいからとわざと狭くしてるのは完全に趣味である。
おほん、とツナは咳をして仕切り直す。
「ここについては、あるいは私達の存在やダンジョンの仕組みについては絶対秘密なので、そこはよろしくです。細かい話は後にしますが、アメさんが住む部屋などはすぐに用意出来ます」
「…………すごいです。どうなってるんでしょうか」
「神様パワーだそうです。人智を超えているので考えても仕方がないです。……それで、仲間になりたいという話でしたよね」
ツナは真剣な表情を浮かべてアメを見る。
アメは年下の少女の雰囲気に押されて背筋を伸ばしながら頷く。
背筋が伸びたおかげでTシャツが引っ張られてふとももの見える範囲が増え……。
「あ、あの、あまり見られると、僕、恥ずかしいので」
「……ヨル、後で怒ります。仲間になることは、歓迎します。今まではあまり人を増やそうとはしてませんでしたが、アメさんが仲間になってくれたらヨルが喜ぶのでやぶさかじゃないです」
「いいんですか?」
「はい。私もヨルも嬉しいです」
アメが俺の方をチラリと見て、俺もツナに合わせて頷く。
「ああ、まぁ、そうだな」
「えへへ、こんなに歓迎されたの、小学校の時におばあちゃんの家に行ったとき以来です」
だとしたら、おばあちゃんちょっと無愛想じゃないか?
「あー、とりあえず、挨拶したいところには挨拶しにいった方がいい。しばらくは会いにくくなるだろうから」
「あ、挨拶……え、えっと……あの……」
アメはもじもじと指先を弄り、それから恥ずかしそうに俺を見る。
「い、一緒に……ですか?」
「そりゃ、まぁそうなるな」
流石に目を離している間に情報が漏れたら困るしな。そう思って頷くと、アメは顔を赤く染めて頷く。
「で、では、その……お父さんに……。あ、えっと、あんまりカッチリしたスーツみたいなのじゃなくて、動きやすい服装でお願いします」
「……挨拶の話だよな?」
「えっ、挨拶の話です」
……何でそんな遠足前みたいなことを。
挨拶ってあれか? 卒業式の日にヤンキーが教師にするみたいなタイプの……アメさん、根が蛮族だからあり得るんだよな……。
「あ、すみません。説明が少なかったです。その……父は、よく「俺より強い男にしか娘を預けない」と言っていたので……多分、挨拶をしたら戦うことになります」
……なんか結婚の挨拶みたいなのをすることになっている気がする。
気のせいか? 気のせいだよな。
「ちなみに……強さは?」
「…………」
「あの、アメさん? 黙るの怖いんだけど。というか、アメさんみたいな化け物を作り上げた親なんだよな、怖いんだけど」
「…………」
「アメさん? おーい、アメさん?」
「…………だ、大丈夫です。でも、万が一があるので、実家の道場じゃなくてこのダンジョンの広場でやりましょう」
「えっ、最悪人死にが出るレベルの戦いが予測されるの?」
「………」
アメさん? あの、アメさん?
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