【悲報】現代ダンジョンの最強の中ボスな俺、知らない間にダンジョン配信者達から『あまりに強すぎて笑う』とバズりまくってしまう。

第十六話

　初手、竜が口に炎を溜めたのが見え、俺は一瞬で竜の下まで潜り込む。

　火炎の吐息が吐き出されるよりも早く、竜のアギトの真下から蹴り上げる。

「──偽典・ランス」

　強烈な蹴り上げにより竜の頭が跳ね上げられ、火炎の吐息は大きく狙いを外す。

「みぞれ流【雪の色斬り】」

　俺が跳ね上げた瞬間にアメの刀が浅く竜の脚を斬り裂く。

「ッ、硬……」

　硬鉄程度なら容易に斬り裂く剣技だが、竜の鱗の硬度はそれを超えるらしい。

　自傷ダメージにより行動不能に陥っているアメを狙うように竜が瞳を動かす。

　それに対抗するように水瀬が竜の前に出て、メイスを大きく振り被る。

「領域外技能（グリッチスキル）・【偶然の一致（ランダム・フルスイング）】！！」

　そして盛大に空振る。……いや、そりゃそうだよ。そんなん狙って出来るような技じゃねえよ。

　戦いの最中にふざけるなよ。

　行動不能のアメの前に出て、横薙ぎに払われた巨大な尾を上へと蹴り上げる。

　素手だとマトモなダメージにはならない。

　通常のスキルは全員治癒型なので攻撃の手段として使えるのは水瀬とアメの領域外技能ぐらいだ。

「あ、よ、ヨルさん」

「……平気か？」

　打ち上げた尾が振り下ろされるが、アメを掴んでその場を離れる。

　砕けた石畳からアメを庇いつつ、スッと息を吸う。

「……回復は終わったな、崩すから合わせてくれ」

「は、はい」

　低い姿勢で多くの破片を潜り抜け、その奥で火炎を溜めている竜に肉薄する。

　顎の蹴り上げ、から、下に潜り込む。

　あらゆる武術を素手向きに改変する。当然、それはアメの技もだ。

　みぞれ流・雪の色斬り。全身の筋肉の無理な駆動により最高速を超える技により、竜の膝を打って大きく崩す。

　打った拳がぐちゃぐちゃに粉砕されながらも竜を崩すことに成功し、その一瞬のうちにアメが竜の首を狙う。

　だが竜はそれを察して翼を動かしてアメを弾こうとし、アメはその翼を斬り裂いて直進する。

「──みぞれ流【雨の穿ち】」

　アメは走る体勢のまま、腕と脚を振り上げて指先で刀の柄を引っかける。その姿は野球の投球動作に似ていた。

　あらゆる生物の動きは骨組みによって大きく制限されている。筋力がいくらあっても人間にチーターの速さが出せないように、骨の形によって得意不得意が生まれる。

　チーターの脚の速さが特別なように、人間にも特別が存在する。

　それは原始の時代、人間があらゆる生き物を滅亡に追い込むほど強力で他の追随を許さない武器。

　投擲。

　人間のアスリートの短距離走・40km、人間のボクサーのストレート・40km、チーターの短距離走・100km。

　人間の投擲・160km。

　他を圧倒する、人間の骨格そのものに与えられた特別な武器。

　アメのその技は隙だらけなまでの圧倒的な大振りと武器を失うという二つの致命的な弱点と引き換えに、人類の限界値とも言える高速と高威力を手に入れていた。

　至近距離から投げられたその刀は硬い竜の鱗を砕き、竜の首に深々と突き刺さる。

　……だが。

「っ！　まだ動く……！」

「いや、充分だ」

　雪の色斬りは筋肉が断裂するが、二度までなら連発出来る。竜の膝を折っていた俺はそれと同時にアメの動き出しよりも前に走って跳ねていた。

　アメが突き刺した刀を空中で思い切り蹴り、深く広く竜の首をえぐる。

　刀を蹴った勢いのまま受け身も取れず地面にぶつかりゴロゴロと転がる。

　手足が動かせないため勢いが弱まっても止まることが出来ず、地面に激突してやっと止まる。

　遅れて竜がばたりと倒れて、アメもその近くで倒れた。

　三者が全員倒れたあと、思いっきり空振って地面に倒れていた水瀬が立ち上がる。

「……あれ？　なんか全員倒れてる……も、もしや俺の真の力が目覚めて、目に映る全てを敵と判断し、悉くを殲滅してしまったのか……？　俺の中の闇が……！」

「そんなわけあるか」

　立ち上がろうとしたが、やはり筋肉がダメになっているせいで立ち上がれない。

「いや、でも、ほら、なんか勝手に体がヨルの方に襲いかかろうとしてるのを必死で抑えてるし」

「アーマーゴーレムを着てるからだ」

「くっ、鎮まれ、俺の中の闇」

「中じゃなくて外側の問題だからな。中の闇にはむしろもう少し頑張って抑えていてほしい」

「俺のこと闇扱いしてない？」

「水瀬は闇だろ」

　本職ではない治癒魔法なのでもう少し治すのに時間がかかるか。

　……やっぱり素手で戦うのは無理があるな。まぁ、今回の竜はアメが真っ二つに出来ないほど相当高位のものなので普通の竜とは比べ物にならないが。

　それに、俺もアメもほとんど自傷ダメージしかなかったのでもっと上手いやり方をすればこんなことにはならなかっただろうが。

　先に回復したアメがパタパタと俺の方に来て、心配そうに俺の頭を持ち上げる。

「へ、平気ですか？」

「あー、攻撃は喰らってない。動きすぎて筋肉がおかしくなっただけだ」

　アメは正座して、俺の頭を脚に乗せる。

　柔らかい膝枕の感触と心配そうに俺の顔を覗き込むアメの表情に照れ臭さを覚えるが仕方なくそのまま乗せられる。

「痛くないですか？」

「……似たような動きアメさんもしてたろ。平気だ」

　当然、全身があり得ないほどの痛みを放つが、何度もやっていれば痛みにも慣れる。

　アメは心配そうにしながらも、俺の方を見てポツリと呟く。

「……刀と素手の違いはありますが、けれども、似ている」

　似てる？

「あの人と私で作った技に」

　アメは真剣な表情で俺を見る。……正体がバレたか、そう思っていると、アメは恥ずかしそうに顔を抑える。

「偶然似たような技を編み出すって、なんだか運命を感じますね」

「そうか……？」

　どうやら俺が幽鬼だとは思っていないらしい。

　まぁ……鈍くて助かった。

　多少回復した体をアメのふとももから離して立ち上がる。

「よし、ありがとう」

「あ、いえ。……それにしても強いドラゴンでしたね。硬くて斬れないものがあるなんて……」

「罠もあるし、アメとは相性が良くなさそうだな。このルートは」

　それとなく新エリアをオススメしないと言うとアメはコクリと頷く。

「そうですね。僕らダンジョンファイターズだからいけましたけど、一人だと勝てなかったです」

　俺はアメの言葉に頷く。

　まぁ俺は一人なら刀を使えるので一撃で真っ二つに出来たが。

　そう思っていると、水瀬は奥の方を覗いてから俺たちの方にやってくる。

「ここが最深部らしい。なんか派手な宝箱があったから開けようぜ」

　と言いながら水瀬は鎧の中にあるゴーレムの核を砕き、水瀬が纏っていた鎧が消えていく。

「……もう宝箱開けなくてよくないか？　どうせエロ本しか入ってないしさ」

「いや……これだけの竜が守っていた宝だぞ。もっといいものが入ってるに決まってるだろ」

　いや……プレオープン期間なんで絶対大したもん入ってねえよ……と思いながら三人で宝箱の方に向かい、アメが無駄に豪華な宝箱を開ける。

「こ、これは……」

　そこに入っていたのは一枚の紙切れだった。

『これまでの大冒険が一番の宝物だ！』

　はっ倒すぞ。せいぜい3時間程度だし、大冒険というにはずっと景色が変わり映えしなかった。

　ひたすらモンスターを倒しては歩くってだけだぞ。

　俺が内心そう突っ込んでいると、水瀬は深く頷き、アメは感銘を受けたような表情をしていた。

「確かに、一番の宝物は、僕らダンジョンファイターズでの冒険の思い出なのかもしれませんね」

「ああ、我らダンジョンファイターズは永遠に不滅だ」

「いやもう解散でいいだろ。ほら、出口あるからさっさと出るぞ」

　俺がダンジョンの最悪の出口に二人を押すと、水瀬は「あっちょっと待った」と言って宝箱を拾い上げる。

「これ、割といい値段で売れそうだから持って帰ろう」

「……ちゃっかりしてるな」

　こうして、ダンジョンファイターズの冒険は終えた。

　派手な宝箱と俺のエロ本と大冒険の思い出……そして微妙な不快感を報酬に、地上へと帰還を果たすのだった。