第十四話
アメに言った手前、武器を握ることが出来ず拳を握ってモンスターに挑む。
あまりに当然のことながら、武器で斬ったり叩き潰したりは出来ても、拳で岩やら鉄を貫くことは出来ない。
故に、何故かアメは納得していたが、ゴーレム中心のここのモンスターに拳はほとんど通用しない。
獣系のモンスターなら割とどうにでもなるだろうが。
鉄鎧のゴーレムから振り下ろされた剣を躱しつつ前に出て鎧の隙間を握り込む。
フルプレートアーマーが動いているというのはハッタリが効いているが、中身がない分案外軽く、大きく見えても40kg程度しかない。
掴んだまま体重をかけるのと同時に脚を払う。
単純な重さの違いにより、筋力や技量やらとは無関係に身体を浮かび上がらせ、そのまま空中でひっくり返して、俺の体重も加えながら脳天から叩き落とす。
その威力により首の金具がねじ切れ、兜がどこかに飛んでいく。
起きあがろうともがいている鎧の中に外れた首から手を突っ込み、空洞の鎧の中にある核を引っこ抜く。
鉄鎧のゴーレムが動きを止めたのを見て離れると、アメは「おー」と感心したように俺を見る。
「本当に素手で戦ってるんですね……。初めて見ました」
ああ、俺も初めて見た。
「これいるか? そこそこの値段で買い取ってもらえるけど」
「えっ、い、いえ。申し訳ないので」
「あんまり遠慮するなよ、俺には」
「ヨルさんには?」
「……あー、口が滑った。まあ、ほら、仲良いと思ってる奴に距離を置かれると寂しいだろ」
俺がそう言うと、アメは恥ずかしそうにしながらもペコリと頭を下げる。
「そ、その、それは受け取れませんけど。でも、その……僕も、ヨルさんとは仲良くしたいです」
「お、おう。……俺が言えたことじゃないけど、真正面から言われると恥ずかしいな」
「ヨルさんが言えたことじゃないです。本当に、いっつも恥ずかしい思いをさせられてるんですから」
頬を染めたアメはそう言うが、怒ったような様子はなくじゃれあいのような楽しそうな表情だ。
「悪い悪い」
「んっ……いいです。……今日、会えてよかったです。……ヨルさん以外の人に、あんなところを見られたら……」
「……俺ならいいのか?」
「い、いえそういうわけでは……その、いえ、その、なんと言いますか……」
アメは先ほどの悶着を思い出してか、顔を羞恥で真っ赤にしながら俺の方を見つめる。
「よ、ヨルさんなら……その、よかったです」
「それはいったいどういう……」
言葉の真意をアメに尋ねようとしたとき、背後からガシャガシャと足音が響いてくる。
なんだと思って振り返ると先程倒した鉄鎧とは別の鉄鎧がこちらに向かってきていた。
アメは赤らめていた顔をサッと戦う前の凛々しいものに戻し、俺も軽く膝を曲げて腰を落とす。
待ち構えているモンスター以外にも徘徊型のもいるのか、と、考えていると、鉄鎧は人間臭い動きで首を横に振る。
「おっとっと、待った待った。俺も人間だから、アーマーゴーレムじゃないぞ」
そう言いながら鉄株を外すと、壮年の男の顔が出てくる。
「ああ……失礼。探索者か」
「いやいや、いいんだ。フルプレートは珍しいから仕方ない」
「いえ、でも……」
「それに、さっき倒したゴーレムの鎧を着てる俺も悪い」
さっき倒したゴーレムの鎧を着てるならおっさんが悪いよ。というかさっき倒したゴーレムの鎧を着てるの? なんで?
「……え、えっと、そうなんですか。あれ? ゴーレムって倒したら勝手に消えませんか?」
「核を取らなかったら残るんだ」
「それ、倒したわけじゃない生きてるまま着てるだけだ。というか動くだろ」
「筋トレになっていいよな」
何もよくないが。
「……よく考えるとさっきの俺たち、生きてるままのアーマーゴーレム相手に構えたってことだよな。謝る意味なかった気がする」
「でも、中におっさんがいたんだからちゃんと謝った方がいいと思うぞ?」
「むしろアーマーゴーレムの中におっさんがいたからこそ武器を構えて正解だと思うんだ」
なんかヤバいおっさんと関わってしまったな……。アメを連れて逃げようとも思ったが、後ろから来たということはおっさんもこの先の探索が目当てだろう。
「君たちは……二人で探索しているのかい?」
「あ、はい。さっきそこで会いまして。せっかくならということで」
「へえ、私とこの鎧と同じだね」
同じにしないでほしい。
なんとなく同行する感じの雰囲気になってしまい、仕方なく三人で道を進む。
……鎧に抵抗されているせいか、めっちゃガチャガチャ音が鳴ってる……。
どうしよう、速やかに離れたい。
そう考えているうちに次のフロアに着き、おっさんが前に出る。
大丈夫か……? と思うが、本人はやる気満々だし、新エリアのテストなので一般の探索者に前に出てもらえるのはありがたい。
……いや、ゴーレム着てるおっさんって言うほど一般の探索者か……?
おっさんはメイスと盾を取り出してアーマーゴーレムと対峙する。明らかに鎧のせいで動きが鈍くなっているが、鎧のおかげで剣で叩かれても衝撃だけでダメージにはなっていない。
しかも、治癒魔法のスキルが使える職業なのか、攻撃が直撃しても白い光に包まれてすぐに持ち直している。
全身鎧を着込んだ治癒系統の魔法使いは実のところ、堅実な選択肢として時々みるものだ見るものだ。
動きは鈍重になるが、ちょっとした攻撃は当然効かず、ダメージを負ってもすぐに回復出来る。
パーティ内で最も倒れてはならない回復役の選択肢として最も堅実なものだろう。……まぁ、着てる鎧がゴーレムなのはおかしいが。
多分長試合になるだろうな、と考えていたが突然それは終わりを告げる。
フッ、と、男の微かな笑い声が聞こえる。
先程まで鎧に抵抗されながらの動きだったものが、突然「一致」した。
鎧と中の人間の動きが重なり、本来ならばあり得ないような速度でメイスが振るわれる。
──
一撃。アーマーゴーレムが受け止めた盾ごと本来なら硬いはずの鎧が一撃でひしゃげて、勢い余って床まで破壊する。
「ッ……すごいですね」
「ああ、認めたくはないがすごい威力だ。認めたくないけど」
二つの力が合わさることによるあり得ない威力……いや、合わさるといっても鎧がもがいていたらおっさんが勝手に合わせただけという感じだが。
ガラパゴス化の極みのような技を見て戦慄していると、アメが腕を胸の前にして「よし、次は僕の番ですね。負けてられません」と張り切る。
いいのか? アメはあれがライバルみたいなノリで本当にいいのか?
魔石を回収したおっさんはガチャガチャと音を立てながら俺たちの方に来て笑みを浮かべる。
「仲良さそうだな。もしかしてカップルか? 若いねー」
「い、いえ、まだ、その……違います」
「あ、そうなのか。ほら、頑張れよ坊主」
「何をだよ……」
三人で歩き、次のフロアでは二体のアーマーゴーレムが出たので俺とアメがふたりで一体ずつ一瞬で片付ける。
「おお、二人ともなかなかやるな。まるで俺の若い頃のようだ」
「微妙に褒め言葉になってないんだよな……。ゴーレム着てるし、ガチャガチャいってるし」
「あ、ゴーレム着てるのってやっぱり珍しいんですね。僕が知らないだけかと」
天然発言をするアメに、おっさんは首を横に振る。
「ああ、ここら辺では珍しいかもね」
「地球では珍しいだろ」
「まぁ、都会の流行だよね。原宿とかいくと時々いるよ」
「へー、そうなんですか。やっぱり都会ってすごいです」
「アメさん、騙されるな。そのおっさんは適当なことを言ってる」
「原宿のナウなヤングはみんなゴーレム着てるよ」
「ど、どっちを信じれば……」
迷う要素ないだろ。
そんな妙な空気だが、一人一人、普通にソロでダンジョンに潜れる実力があるので特に苦労もなく進んでいく。
「隠し通路だけど順調だな。案外、この三人いいチームじゃないか? バランスも取れてる」
「おじさんは何の職業なんですか?」
「俺は治癒魔法使いだよ」
「あ、僕と同じです。ヨルさんは」
「祈祷師。攻撃魔法と治癒魔法とあと幻覚魔法みたいなのが、バランスよくあんまり使えない。まぁ回復役としてなら」
「なるほど、いいパーティ構成だな」
「回復役しかいないんだよなぁ……」
まぁ、全員前に出て回復しながら戦えるとなるとそれはそれでバランスが取れていると言えなくもないが。
「よし、じゃあいくぞ! 我らダンジョンファイターズ!」
「おー」
「えっ、そのクソダサい名前のパーティに俺も入ってるの……?」
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