第十三話
アラームの音で目を覚まし、手早く服を着替えて中ボスに挑みにきた探索者を斬ってリビングに戻る。
「お疲れ様です」
「ああ、朝飯はどうする? 食いたいものあるか?」
「ツナマヨのサンドイッチが食べたいです! 玉ねぎときゅうりがいっぱいの」
了解と言いながら戸棚を開ける。
ツナ缶ないな……と漁る。DPでツナ缶を買えるけど、あれ、無駄に量が多く出てくるから置く場所に困るんだよな……。
と思うが、ツナが「つなまよつなまよー」と謎の歌を歌うほどご機嫌なところに水を差す気にはならなかったので購入する。
ツナマヨを混ぜながらツナの方を見ると、いつもよりもご機嫌そうに、部屋着から伸びる白い脚をパタパタと動かしていた。
「ご機嫌だな、そんなにツナマヨが好きなのか?」
「んー? あ、好きですけど、今はそれじゃないことで喜んでたんです。いいことが、とっても嬉しいことがあったのです」
いいこと? こんな何もないダンジョンの中で突然いいことなんて起こるだろうか。
ツナは嬉しそうに、けれどどこか恥ずかしそうに自分の頬を触って笑みを浮かべる。
そんな様子を不思議に思いながら、食パンから切った耳を齧る。
それから耳のない食パンにきゅうりを並べて、たっぷりの玉ねぎを混ぜたツナマヨを乗せていく。
少し入れすぎたかとも思ったけれど、リビングにいるツナが目を輝かせているのを見て、そのままパンで挟み、包丁で切って皿に並べる。
「はい、どうぞ」
「わーい、いただきます!」
こぼれ落ちそうになりながらも嬉しそうに食べているツナを見る。
こんなに美味しそうに食べてくれるなら作った甲斐もあるな、と思っていると、ツナは俺の方を見て恥ずかしそうに笑う。
「そんなにじっと見られてると食べにくいです」
「あー、悪い。そういや、ダンジョンの別ルートはいつ作るんだ?」
「あ、さっき作りました。それで、開通させる前に。ヨルに一度試しに探索してもらいたいんです、思わぬ失敗があるかもしれないので」
「あー、了解」
まぁ面倒だけど暇つぶしにはいいかと引き受ける。
ツナはサンドイッチを満足そうに食べ終えて、それから俺が食べているのをじっと見つめる。
「……食べにくい」
「えへへ、お返しです。すぐに出ますか?」
「ああ、そうする。ダンジョンが出来てるならさっさと開通させた方がいいだろうしな」
サンドイッチを食べ終える。中ボスとしての活動ではないので服はそのままで、刀だけ持って新エリアのテストに向かう。
石造りの闘技場の道を模しているのは変わりないが、いつものエリアと差異をつけるためか軽い装飾があり、天井と道幅が少し広い。
おそらくパーティ向けという感じだろう。
道を少し歩くと開けたフロアに出て、背後の道がひとりでに塞がれる。
フロアの真ん中にはゴーレム系統の魔物である中身がないまま動く鎧が鎮座していた。
そのまま近づくと鎧が剣を引き抜くが、即座に斬って無力化する。
「……強さはいつも通りか」
モンスターを倒すとひとりでに先への扉が開くギミックもいつも通り……。今のところほとんど違いがないなと思いながら進んでいくと、ウチのダンジョンでは珍しい横道を見つける。
覗いてみると分かりやすく宝箱がドンと置かれていた。
「あー、雑だけど、まぁアリか。宝箱開けるのってワクワクするしな」
何が入っているのだろうか。定番なところだと換金しやすい宝石や貴金属、探索者的には武器や装備などが出ても面白い、あるいは魔法のアイテムだったりしたら……と考えながら宝箱を開けると、本が入っていた。
エロ本である。正確に言うと、俺が電子で買っていたけどツナに中を好き放題覗かれていることを知ったから、紙媒体で買い直したものだ。
「…………」
エロ本の中に紙が挟まっていた。
『ヨルには私がいるのでこういうものは不要と考えます』
……いるんだよ……! こういうのは、いるんだよ……! 男には。
エロ本を仕方なく処分することに決めて道を進む。結構歩いたが、罠らしきものは見当たらない。
もしかして本当に罠を一個だけしか設置してないとかか? だとしたら、いくらアメが罠を見抜くのが苦手だとしても普通に探索出来てしまうだろう。
そんなことを考えていると前方から「ふにゃー!」という少女の悲鳴が聞こえる。
まだ未開通のはずのエリアなのに何故……と思いながら走ってそこに向かうと、ロープに縛られて宙吊りになった少女……アメの姿がそこにあった。
「ひゃ、ひゃあっ! み、見ないでくださいっ!」
ロープはアメの小さくもある程度の膨らみを感じさせる胸に食い込んで強調させるようになっていた。
ロープにたくし上げられてめくれた服からふとももや腹部が見えて、やけに扇情的な姿になっていた。
「わ、よ、ヨルさん!? な、なんでここに……あぅっ」
もがいたせいでアメを縛っていたロープがずれて、余計に服をめくらせて、上下で揃った可愛らしい水色の下着が覗いてしまっていた。
「落ち着け、ほら、今下ろすから」
「み、見ないでお願いします……」
そんな無茶な……と思いながら宙にぶら下がっているアメの腰を持つ。ぴくっと動いているアメの腰を支えながら吊っているロープを斬り、支えながら床に下ろす。
そのまま見ないようにしながらロープを解こうとすると、手がふにゅっと柔らかいものに触れる。
「ひゃうっ、そ、そこは、その、ダメです」
アメの恥ずかしそうな声を聞いて、遅れて胸を触ってしまったことに気づく。
「いや……これ、見ないことには……絡まってるし」
「う、うう……き、斬ってください。僕の首を。そしたらダンジョンから脱出して縄から抜けられるので」
「いやそれは流石に……。あー、もう、見ないようにするから」
手探りでロープを解こうとするも結構絡まっていてなかなか解けない。意図的ではないが胸やふとももやお尻なども触ってしまいながらもなんとか解いてアメを見る。
アメは顔を羞恥で真っ赤に染めながら、ペコリと俺に頭を下げる。
「あ、ありがとうございます。そ、その……出来れば、見たものや触ったものは忘れていただけますと……」
いや、忘れられそうにない……。あんなに女の子の身体を触ったのなんてツナを除けば初めてだ。
アメの後ろの壁が崩れていて岩のゴーレムが側に倒れている。おそらく、ゴーレムとの戦闘の拍子に壁が壊れて、未開通エリアと繋がってしまい、気になって足を踏み入れたら、未開通エリアに一個だけある罠に見事かかったということだろう。
……いや、理由は分かったけど……アメ、本来なら繋がっていないエリアの壁を越えて罠を踏みにくるんだ。
未開通エリアの、唯一を罠を……的確に踏み抜いたのか……いや、昨日今日作ったまだ未開通のエリアだぞ!?
「……アメ、本当に罠に引っかかりやすいというか……わざとやってる?」
「わざとじゃないですよぅ……。よ、ヨルさんもこのダンジョンに来てたんですね」
「あー、たまたまな」
「……こっちのエリアはなんでしょうか。こんなの見たことないですけど」
ああ、まぁ気がつくよな。
「あー、俺もたまたま見つけたんだけど、大して違いはないな」
「あれ? その刀は、確か幽鬼さんの……」
あ、まずいと思って適当に口を開く。
「あー、これ、さっき拾った」
「拾った……ですか? じゃあヨルさんの武器は……?」
不思議そうにアメが首を傾げ、俺は慌てて拳を握る。
「俺の武器は……この鍛え上げた拳だ」
さ、流石に……無理があるか? と思いながら様子を伺うと、アメは「あっ、なるほどー」と頷く。
……それで誤魔化せるんだ。
「あ、その、ヨルさん。その……せっかくだったら、これから一緒に探索しませんか? そっちの隠し通路、僕も気になりますし、えっと、それにその……」
アメは勇気を振り絞るように、きゅっと俺を上目遣いて見つめる。
「あ、一緒にいれたら、嬉しいので」
「……そうだな、せっかくだし、一緒にいくか」
ここで断るのも妙だし、アメも勇気を出して誘ってくれたみたいだし、別にアメが同行しても問題ないだろう。
別に柔らかい胸の感触にメロメロになったからというわけでなく、合理的な判断として頷いた。
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