見てはいけない

「...?」

なんて?

内海君が?アレを、作った?

そんな、そんなわけない。

だって二人は仲が良くて、よく休日に遊びに行ってて、お互いの家にも出入りしたことがあって、この行事ももともと二人がやろうとしていたことに私たちもお邪魔させてもらった形で、だから、だから、

ありえない。

そんなこと、あっていいはずがない。

「悠里ちゃ、」

駆けだした。私のことなんか見えていないかのように。

...置いて、かれた?

やだ、やめて、いっしょじゃなきゃやだ。

いやだ、いや、

「うぐぅ!?」

痛い。その信号が、私に冷静さを取り戻させた。何が起きた?いや分かる。足がもつれて転んだだけだ。

大丈夫。私のことを見捨てたわけじゃない。ただあの部長とかいうやつを助けに行っただけ、

いや、それは、まずい。部長とやらの言葉が正しいなら、悠里ちゃんも危ない。

はやく、追わないと。



私は、足は速い方ではない。むしろ遅い。それで困ったことはあまりなかったから今まで気にしてなかったけど、その判断を下した自分を呪いたくなる。

風のように走る悠里ちゃんと、速い方の駆け足でそれを追う神宮さん。与えられた情報の衝撃を何とか飲み込んで、追わなきゃ。と正常な判断を下した時にはもう悠里ちゃんは見えなくなっていたし、神宮さんも後ろ髪が廊下の端に見えるだけで、今にも見失いそうだ。

「あっ...」

曲がり角を曲がった時、かろうじて追えていた神宮さんが見えなくなって、途端に不安が私を蝕む。

怖いよ。置いていかないで、一人にしないで、と。

それでも、足を止めて蹲りたくなる体に鞭打って走り続ける。もう体力が切れた私の走りはひどく遅かったけど、それでも。

早く会いたい。一人は怖いよ。だから、一緒に、二人で、


階段を上り切って、気が付くのは、濃厚な匂い。血だ。止まりそうになる足を無理やり動かして、進む。大丈夫、大丈夫。根拠もなく想い、願いながら進んで、


「...ぇ」


口から空気が漏れる。そこには、何かが足りない人が二人倒れていて、傍にはボールが二つ。

それを成したであろう緋色の、少女、だろうか。

が何かに気付いたかのように、肩を震わせ、やめてよ

ゆっくりと、ダメ、振り向こうと、イヤだ。

走ってきた体は酸素を求めているのに、喉に何かが張り付いているかのように空気が入らない。

逃げないと、と思ってはいるのに、足が固められたように動かない。

せめて目を瞑ろうとしても、私の命令なんか聞いてくれなくて。

見たくない。と思っていても、つい視線が吸い寄せられてしまう。


頭巾の中にあったのは、


酷くゆがんだ、


少女の、


か————————————














「おっと...これは面倒な、いやむしろ好都合。かな」





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