スイッチ
「テメェ...!」
彼は深々と刺さったナイフを物ともせずに、ナイフを振り回す。
回収...は無理そうだ。ナイフを諦め、彼から距離をとる。
本当は、首か心臓でも狙いたかったが、部長が刺されそうになってて、焦ってしまった。あと、思っていたよりもずっと彼は痛みに強い。喧嘩慣れもしていないし、大けがの経験もないから、もっと痛がると思っていた。転がりまわって叫び散らしてくれれば一番楽だったのだが。
とりあえず今は、部長を守らねばならない。彼のナイフは私のモノよりも少し大きい。刺されたら無事では済まない...って
いない。
「後は頼んだよ~狩谷君~」
すでにはるか遠くだ。この一瞬の間に...油断も隙もない。
だがまあいい。好都合だ。これで何も気にせずに戦える。何にも気遣うことなく
殺せる。
ああ、
世界から色が消えていく。
それと対象に、彼だけに色鮮やかになっていく。
「————————————!」
彼の口から飛び出る音は、意味を亡くしていき、虫のなく声も、風で木々が揺れる音も、遠く、遠くに消えていく。
武器は無い。だが、別に問題はない。彼は二つも持っている。
なら————————————
奪えばいいだけだ。その命と同じように。
駆けだす。
ポケットからソレを取り出して、そのまま投げつける。
なんてことはない。ただのスマホだ。だが、今は夜。光は月明りのみ。それに、私のスマホは黒い。少しだけ光を反射するソレは、彼の目にはナイフかのように見えてしまう。
さっきナイフに刺されたばかりだ。恐怖が残っているのか、少し過剰に体を反らす。それは、明確な隙。
「————————————ッ!!」
左腕に刺さっていたナイフを、引き抜く。痛みに硬直した彼を尻目に、距離をとる。
おかえり。
「——————————ェ!!」
怒りに任せた突撃。そこには彼が自信を持っていた『美しさ』なんてものはなかった。どこにでもいる、ただの殺人犯だ。
避けて、避けて、たまに切る。それでも怯まずかかってくるが、私にはかすりもしない。動きが雑だ。
動きが鈍ってきた。そろそろ彼も限界だ。大ぶりの一撃を躱し、生まれた隙に、心臓に一突きを、
『————————————!』
体が、何かに、押された。
...まずい。少し押された程度。少し体制を崩しただけ...だが、今はそれが致命的だ。
時間がやけにゆっくりと流れる...少し落ち着いた。相手の狙いは心臓。大きいとは言っても所詮はナイフだ。腕でも差し込めばそこで止まる。相手も左腕を負傷している。これでトントン。それどころか刺したらそこで動きが止まる。その隙を突いて、殺————————————
ぐい。と、体が引かれた。
「...え?」
神宮綾音。死にたがりの不死者。
私を押しのけ、私の代わりに刺されたのは、彼女だった。
別に死にはしない。
彼女は不死者だから。
でも、
だから、
許さない。
彼女を殺していいのは、私だけだ。
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