殺人鬼

体育館、いない。科学室、いない。物理室、いない。

どこにもいない。行き違いになったのだろうか?それならいい。でも、メッセージにも反応がない。既読すらつかない。ここまで探してもどこにもいない。考えたくはないが、もう死んでしまったのかもしれない。

どうしたものか。もうあの二人を無視して逃げてしまおうか。でも神宮さんはともかく、真理愛は納得しないだろう。私と違って、彼女は彼らと友達だ。無事なら問題ないが、帰ってこなかったら彼女は自分を責めるだろう。彼女は脆い、というよりだ。自分のせいで死んでしまったと考えてしまったら、もしかしたら立ち直れなくなるかもしれない。そうなると面倒だ。誰かに話してしまえば私たちまで被害が及ぶ。みんなで帰って今日は何もなかったとするのが一番いい。でも、でも、でも。

考えがまとまらない。次はどうすれば、どう...


ピロロロロ


着信。誰だ?もしかしたらどっちかの連絡かもしれない。と思うが着信が来たのは神宮さんだ。彼らは彼女の連絡先を知らない。なら...


「ちょっと待ってください、部長からです。...はい、もしもし?...部長?」


受けてから数秒。怪訝な顔をしていたかと思えば慌ててスマホを操作しだした。

どうやらスピーカーモードにしているらしい。そんなに聞いてほしい内容なのだろうか。

音量を上げて、だんだんと内容が分かってくる。それは私たちに向けた通話というより、誰かと話している音を拾っているようだった。

「————————————だろう?」


...え?——————いま、なんて。

















「二度も言わせないでくれよ内海孝一君。殺された、なんて言うなよ。君が殺したんだろう?」

通話はちゃんとつながっただろうか。なくてもまあ何とかするが。

「な...何を言ってるんだよ部長さん!今はそんなこと言ってる場合じゃないって!なんかヤバいやつに襲われて、殺され「それ以上近づくなといっただろう」

およそ5メートル。それが私たちの距離。それ以上は近づけさせない。

「それにね、得体のしれないバケモノに追われて逃げてきたにしてはいやに。逃げてきたならこんな3階には来ないだろう」

彼は危険だ。少なくとも、神宮綾音より。

「それは、無我夢中で走ってて—————————」

「まあ、そんなことは

バッサリと切り捨てる。そう。どうだっていい。彼の言い訳も、こんなことをした理由も。

「君はこう言った。三波君が実は中に赤い服を着てきていた。上を脱いでそれを見せてきた瞬間にナニかに襲われた」

まあ理由の方はおおよその見当はついている。

「それが本当なら、君らを襲ったのは緋ずきんさんになるが...

彼らの死体、それには

「私は、彼らの死体を見た。本当に緋ずきんさんに殺されたのなら、あの死体たちは———

「——————は?」

「本物ならば、あんなに傷はつかないよ。君みたいなニセモノと違って、ね」

彼はおそらく気の長い方ではない。子供っぽく、幼稚で、プライドだけは無駄に高い。だから、

「—————す」

ほうら、食いついた。

ああ、ニヤケが抑えられない。

「あれをやったやつは、ほんっとうにセンスがないねぇ!」

「ブッッッッ殺してやるよこのクソアマがぁ!!」


人を煽るのは、やはり最高に楽しいものだ。




彼は隠し持っていたナイフを滑らかに取り出し、私に向かって駆ける。そこにためらいなんてものはなく、5メートルなんて走れば一秒もかからない。彼はナイフを振りかぶり、そして、


「殺してやるよぉぉぉ!」


肉を抉る音が、響いた。


それは、私のモノではなく、


「ぐぅ———!?」


素晴らしい速度でやってきた彼女は、彼の左腕にナイフを突き刺した。


「やあ、来てくれると思ったよ」



「狩谷悠里君」









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