発見
夜10時45分。待ち合わせ15分前に到着したその場所にいたのは、神宮さんと、部長。てっきり部長は待ち合わせはギリギリに来るタイプの人間だと思っていたが、奏ではないようだ。
「それはひどいねぇ狩谷君。私は20分前にはつく人種だよ」
もう突っ込まないぞ。
「こんばんは。狩谷さん。」
そんな会話をしていると、2つの人影が見える。
同じクラスの長谷川と内海と三波だ。
「あ、悠里ちゃん!」
「おーちゃんと来たな狩谷。で、この人たち...は?」
言葉が詰まったのは部長のせいだろう。何せ今日は仮面にスーツ、完全に不審者だ。毎度のことながら衣服のチョイスが謎である。
「私は神宮綾音といいます。よ、よろしくお願いします」「私は部長だよ。部長と呼んでねくれたまえ」
「ええ、あ、はい。。
「さんはいらないよ。君と私の仲じゃあないか」
初対面だろあんた。まあいいや。
「あ、。その、
「
長谷川は何とか部長を振りほどいたようで、そのまま私の後ろに隠れる。
「ああ、清水は来れないってよ。風邪が治らなかったんだと。だからこれで全員だ」
清水。清水恭平は今回の企画の立案者だ。昨日雨に降られたらしい。かわいそうなことだ。
「それならば三組にに分かれよう。じゃんけんでいいかい?」
組み分けの結果、神宮さん、部長のチームと、私、長谷川のチーム。内海、三波のチームとなった。
「それでは行こうか。どこから入るんだい?」
「たしか、ここの窓に仕掛けをしてあって...空いた」
「じゃ、いこっか」
「う、うん...」
私たちに宛がわられた七不思議は3つ。どれも本物ではないらしいが、図書室の本が動くという物、木工室の工具が動き出すという物、そして視聴覚室のビデオを回すと何かが飛び出してくるという物だ。
「...」
夜の校舎という物は、思っているより怖い。風で窓がきしむ音、自分が鳴らした足音が反射する音、昼なら特に気にならないものが、妙に気になって仕方がない。
くい、と裾がひかれる。
「えっと、その、手、繋いでいい?」
「え」
楽しむ余裕のある私と違って、彼女はそうではないようだ。
「怖い」と顔に書いてある。思考が読まれている時もこんな感じなのだろうか。そんなに顔に出してはいないはずだが。
「ああ、えっと、その、あっ!」
何かに気づいたように、少しテンションを上げ、
「悠里ちゃん、怖いんじゃないかって。だから、手を繋ごうよ、そしたら怖いのも少しはなくなるよ」
うんうんと言い訳をするようにいう。自分が怖いということを隠しきれていないその言葉を聞いて、
「...うん。実は怖かったんだ。ありがとう」
そう言って彼女の手を握る。前までなら、こんなことはしなかったはずだ。殺したくないから。一度殺して、余裕ができたのか、いやな余裕だが...少しは、成長できているのだろうか。
まずは一番近場にある図書室へ。扉を開けると、やはり夜というだけで雰囲気がガラッと変わっている。
「じ、じゃあ、いこっか」
ギュッと握る力が強くなり、恐る恐る中に進んでいく。
「動く本は...ないね」
「そ、そうだよね。本が動くわけないもんね。うん。ほら、次いこ次」
うーん、何か冗談でも言って怖がらせようと思ったが...これ以上強く握られるとさすがに痛い。やめておこう。
「そういえば、こういう噂って誰が言うのかな。うちの学校、やたらと多いけど」
「うーん流石に夜の校舎に忍び込む人がそう多いとも思わないし...敷地内ぐらいなら私もあるけど」
あ、しまった。
「え、入ったことあるの?ちょっと意外かな。何のために入ったの?」
動物を殺すため。と正直に言うわけにもいかない。
「夜の学校が少し気になってさ。校門乗り越えるぐらいならすぐできるから試しにちょっと」
「そうなんだ。私も、さ。ちょっと怖いけど、夜の学校に少しあこがれてて、それで今回参加して、さっきまでは少し後悔してたんだけど。...今は、悠里ちゃんのことがちょっと知れて、嬉しいかな」
友達なのに、あんまり知らなかったし。と少し恥ずかしそうに言う。
友達。今なら、作れるかもしれない。けど、
「そうなんだ」
やっぱり、ダメだ。万が一にも、殺したくなったらつらいのは自分だ。慎重に、慎重に。話を進めなくては。
そんな話をしていると、もう視聴覚室の前だ。扉に手をかけ、開けようとした瞬間、
「———————ッ」
血の匂いがする。分厚い扉越しにもわかるぐらい、濃い匂いが。
彼女の手を振りほどき、扉を開ける。机が並び、教卓には大きなテレビがあり、そんないつもの視聴覚室の中に明らかな異物がある。
むわっと鼻を突く鉄臭い匂い。
無視できないほどに広がっている血飛沫。
何か刺された跡がある左胸——心臓。
清水、恭平。この企画を持ってきた張本人。風邪をひいて、家で寝ているはずだったその人が、
ああ、疑う余地はない。
完全に、完璧に、一切の希望もなく、
死んでいる。
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