関係
なぜ人を殺したいのか。それはもう十年から考えている。何度も、何度も、そしていつだって結論は変わらない。
「分からない」
それしか、言えない。
「ねえ、私って、どうして人を殺したいのかな」
一度出してしまった言葉は止まらない。
「だって、おかしいじゃん。愛してくれた親だって、良くしてくれた先生だって、仲の良かった友達だって関係なく殺したくなっちゃう!」
この少女に吐き出したくてたまらない。
「何かがあったわけじゃないのに、何かが無かったわけじゃないのに。」
ずっと考えて、否定して。
「考えても考えても答えが出ない」
それでも否定しきれずに、
「...さっきは分からないって言ったけど、ホントはね、ずっと思ってるんだ。」
心の奥底ではそうなんじゃないかっていつも思っていることを。
「自分が!なんの理由もなく人を殺したがるイカレサイコパスなんじゃないかって!」
「ごめんなさい」
彼女は私の言葉を聞いた後、長い間考え込んでからその言葉を発した。
「私には、分からない。としか言えません」
そりゃあそうだ。会って一日も立たない人が何年も考えて出なかった答えがそう簡単に出るわけがない。
「...ごめん。こんなこと言っちゃって」
こんなこと言われたって困るだろう。私だって困る。
「私、もう帰るね...ごめんなさい」
本当に悪いことをした。聞くだけじゃなくて答えまで求められるのは彼女だって考えていなかっただろう。どうせ友達もいなければ金のかかる趣味もないのだからここの代金ぐらいは払うべきだ。そう思いながらドアノブに手をかけた瞬間、
「ま、待ってください!」
声をかけられた。
「?...なに?」
いまさら何を話すというのだろうか。こんな変な奴に。
「えっと、その、」
そういえば焦っている彼女を見るのは初めてかもしれない。なんとなく目を離せずに立ち止まっていると、何かを思いついたようで口を開いた。
「好きなことは、何ですか?」
「...は?」
いきなり何を言い出すんだコイツ。
「私、ちゃんと答えましたよ。分からないって。だから今度は私が質問する番です」
...いわれてみると、確かにそうなるのかもしれない。ルールに従うのなら、答えなければならない。
「ゲーム、かな。アクションとか、そっちの方の」
...ここで終えてもよかったはずだ。ドアノブを回して、外に出る。それでも別によかったはずだ。でも、
「...好きな曲は?」
「はい?」
きょとんとした顔で、聞き返してくる。
「せっかくカラオケに来たんだからさ、歌ってよ」
少し曇っていた顔がみるみるうちに明るくなっていく。これで良かったのだろうかとか、迷惑ではないかとか、そんなことは、
「—————はい!」
この笑顔の前には、どうでもいいもののように感じた。
色々な歌を歌った。いろいろな話をした。
彼女はゲームとかよりも読書が好き。特にジャンルで読む読まないはないが、切ない物語が好き。ミステリーとかも犯人が分からないときにアレコレ考えるのが好きだそうだ。ヒントを与えられても答え合わせまで分からない私とはえらい違いだ。
好きな曲は流行りのものや少し前のドラマの主題歌。ドラマは刑事ドラマや医療系が好き。
私の方も、アレコレ聞かれた。やっているゲームのこと、好きな食べ物やなんやら。
ここまでくると交互の質問はすでになく、思うがままに話をしていた。
最近のドラマ、先生の愚痴、最近あった面白い話、etc...
友達。私たちは、客観的にみるとそうなったのかもしれない。でも、
「殺したがりと、死にたがり。私たち、いい組み合わせですね」
私たちは、友達ではない。仲間か、共犯者か、それは分からないけれど。
友達は殺したくないだろう。友達に殺されたくはないだろう。
だから、私たちは友達ではない。
この名もなき関係はいつまで続くか分からないが、そんなに悪いようなものでもない気がした。
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