発覚

かつてないほどの清々しい朝だ。

頭にずっとかかっていたもやのようなものが全くない。

ああ、殺人って素晴らしい...

「いや、殺してない殺してない」

いや、死んでないだけで実は殺していたりするのだろうか。漫画とかで不死身のキャラが「一回死んじまったぜ」とかよく言っている。あれは致命傷を一回にカウントしているのだろうが、そもそも彼女の不死身はどういう原理なのだろうか。蘇ったのか?いやでも本人はそうじゃないって言ってたし...よく分からない。

「よし...ご飯食べよ」

考えても分からないなら、考えるだけ無駄だ。




「久しぶり!一週間も休んでどうしたの?心配してたんだよ。連絡もつかないし」

「ごめんごめん。スマホ壊れちゃってさぁ」

嘘である。

「熱がなかなか下がらなくってさ。スマホもないしでガチで暇だった。暇すぎて死ぬかと思った」

これも嘘。時間の流れは遅かったが。

「テスト近いのに大変だね。勉強見てあげようか?」

「あ、ガチで暇すぎて予習に手出してたから大丈夫。多分。ホントにヤバかったらお願い」

これも、嘘。嘘ばっかりだ。でも、彼女達との距離は適度に離しておかないといけない。クラスで話はするけど、放課後になんかしたり、遊びに誘ったりはしない知り合い以上友達未満の関係。もう、友達を殺したいなんて思いたくないから。

友達を殺したくなるのは、結構つらいから。



移動教室。その帰り。

「あ」

神宮綾音がいた。

「どうかしたの?」

「ああいや、昨日更新来た漫画まだ読んでない」

同じ学校だったのか。まあ自殺するために学校に行くなら普通は自分の高校だろう。母校という線もあったか。年はあまり離れた感じはしなかったから、昨日のうちに分かっとくべきだったかもしれない。それに上履きの色が同じだから私と同じく一年生だ。

声をかけるべきか一瞬迷って、やめた。向こうも友人と話しているし、どうやって知り合ったとか面倒なことになりかねない。

向こうもそう思ったのか、ちらりとこちらを見た後に、瞬きをして視線をそらした。

「ねえ知ってる綾音。実は校舎裏の———————」

すれ違う瞬間、ポケットに何か入れられた。

振り返りたくなる衝動を抑えつつ、隣からの会話に適当な相槌を打つ。

「そうなんだ...」

「そうなの!ホントにカッコよくて、それで———————」



開きっぱなしだった検索エンジンには「放課後に校舎裏に来てください」と打ち込まれていた。

「不用心すぎだろ...」

あの僅かな時間にホーム画面の設定を変えてとかができないにしても、もう少し用心するべきではないだろうか。これじゃあSNSのアカウントとか、写真とかが見られたい放題だ。見ないけど。それに放課後までスマホが使えないのは結構きついのではないか。まったく、彼女が来たら文句を言わなければ。と、そんなこんなを考えていると、足音が聞こえてきた。やっとか。と思ったが足音は一つではない。

一人、二人、三人...六人。

私のことなんか気にもせずに、わいわいがやがやと歩いていく。

彼らが足を止めたのは、結構奥の方だ。

「あーホントだド派手に折れてる」「えーマジ?ヤバくない?」「やべえやべえ」

どこを見てるんだあいつら。なんでもいいけど騒がしいのは勘弁してほしい。

「昨日私が落ちたところですね」

「ああ確かにあの辺だったような気があぁああ!?」

「...どうしたんですか?そんなに驚いて」

「足音もなく急に心を読んだように声かけられたら誰だって驚くから!」

マジでびっくりした。エスパーかコイツ。

「心は読めませんよ」

まただ。

「読んでるじゃん」

「いえいえ。狩谷さんは分かりやすいので」

「...まあいいや。それで?あいつらは何してんの?」

「まあ、その...私、昨日落ちたじゃないですか。それで、そのまあ当然なんですが、木の枝が派手に折られたと少し騒ぎになってしまいまして」

それで気になった生徒が見に来たと。

「まあ別にいいんじゃない?バレるわけでもないし」

「まあそうなんですけど、もう少しうまくできたらこんなことにはならなかったので少し責任を感じているといいますか...」

うまく落ちられていたらそれはそれで私がすごく驚いたことには違いあるまい。最悪下敷きになっていたかもしれない。そういう意味では感謝だ。

「えっと、それで、何の用?」

このままじゃいつまでたっても話が終わりそうにないので強引にでも話を進める。

そもそもここに来たのは彼女に呼ばれたからだ。

「ああ、そうでした。あなたと、お友達になりたいと思ったんでした。」

お友達...河原での殴り合いから始まる友情はよくあるけども、殺し殺されから始まる友情は聞いたことがない。死んだ奴とは友情を育みようがない。いやでも要素だけ抜き出せば河原での殴り合いと似たようなもんだ。実際に殺したことからは目を背けないといけないが。まあ現実は小説より奇なりとはよく言うし。

「それで、お話をしようと思ったのですが...ここは少し騒がしいので場所を変えましょう」

少し...だいぶ言葉を濁したな。あれはもう授業中なら隣のクラスから文句が出るほどの騒がしさだ。たった六人で...増えてるわ。

「それは良いけど、どこに行くの?」

「私、お友達ができたら行きたいところがあったんです」

「行きたいところって?」

目を輝かせながら、彼女は言う。


「カラオケ。です」







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