第44話 俺は泣いて帰った

 おかしいな。

 俺、小兎に告白するためにここへ来たのに。

 その小兎の隣には、もう金髪チャラ男先輩がいる。

 俺じゃなくて。

 黒々と日焼けした派手めな男。

 なんかDVとか得意そう。

 オラついた言葉で人を脅しつけてきそうなタイプだ。

 なんでこんなヤバそうな人と小兎が……。


「こ、小兎……? もしかしてお前……」

「うん? なあに?」


 金髪チャラ男先輩に無理やり付き合わされているんじゃ……?

 そう聞こうとした。

 が、小兎の屈託ない笑顔に、その言葉は飲み込む。

 小兎が暴力とかで縛り付けられて付き合っているなら、こんな顔で笑えないんじゃないか?

 ……じゃあ、なんか洗脳されてる……?

 催眠術とか?

 変なお薬を飲まされてるとか?

 もしかしてエチエチ……?


 ……そうだとしたら、俺が小兎を救わねば……!


「……あー、ぜ、全然気づかなかったなあ! 小兎が、せ、先輩と付き合ってるだなんて……」

「へへ……わたしがこんな格好いい人の彼女だなんて、信じられないでしょ?」

「おいおーい、恥ずかしいから止めろや、小兎」

「えー? でも、ほんとのことだし」


 目の前でイチャイチャしだしやがった……!

 こいつが格好いい?

 それは、あれか?

 真っ黒に日焼けして、見た目逞しく、男らしいからか?

 ……ちなみに俺は肌真っ白だ。

 男のくせに肌が白いとか見た目生っちょろいとか、そういうのがダメなのか?


 ……そ、そんなの見た目じゃん……!

 人を見た目で判断するなんてよくないよ!

 男なら、日焼けして逞しいのが正しいっていう考え方……俺は嫌だ。

 そうじゃない男はバカにされても問題ないってこと?

 たまに、「この人、男のくせに肌白くてびっくりした」とかいう女の人いるんだけどさ。

 これって、「こいつ日の光にも当たらないで家の中に引きこもってやんのwww」っていう悪意を感じるんだよな……。

 そういう風に、見た目で人を馬鹿にする人は無邪気なんだと思う。

 自分の発言が責められたりするはずがない、もしくは責められることがあるかもしれない、なんて考えたこともない無邪気な人。

 昔はこんなの普通だった、と女の人のお尻を触るおじさんと同じくらい無邪気。

 自分のしたこと、言ったことが誰かを傷つけるかも……という考えにはまったく至らないんだろう。

 それどころか別に傷ついても問題ない、だってそれが正しいんだから、と。

 そんな素朴な価値観のままここまで来てしまった……って感じか。

 ……小兎がそんな考え方に染まっているなら、俺がそれをアップデートしてやらねばという使命感……!


「あ、あのさ、小兎! その……金髪チャラ男先輩って、普段なにやってるの?」


 どうせいろんな女の子と遊び歩いてるんだろ……?

 見た目がかっこいいからって、先輩がいつもしていることを思い出させてやれば、きっと小兎も疑問を抱くはず。

 そうして、目を覚ますはず……!


 小兎は目を丸くした。


「え!? 知らないの、猟平? 金髪チャラ男先輩、うちの生徒会長だよ?」

「……え?」

「ははっ、まあ、俺とか結局裏方だし? 普通の生徒は知らなくて当然だよなあー?」


 金髪チャラ男先輩、俺に親し気に話しかけてくるやん……!

 気安い……!

 距離感つかめない系のフレンドリーさ?

 と、小兎がむきになった。


「でも、先輩って有名でしょ? 去年の文化祭、それまで長らく中止されていた後夜祭のキャンプファイヤー、復活させたの金髪チャラ男先輩なんだよ?」

「おいおい、俺だけでやったわけじゃねーよ」

「でも、先生とか学校周辺に住んでる人達とか粘り強く説得して許可を取り付けたのって、先輩がいたからこそでしょ? あんな火を使うの、普通は危ないって許してくれないのに」

「あーいうのは学校の皆がボランティアで地域清掃してくれてたりして、周りの人達との信頼関係が出来上がってたからこその話なんだよ。俺1人が、キャンプファイヤーやりてえ、って喚いててもなんにも進まなかっただろうさ」

「それに、世界に名だたる金髪財閥の御曹司で、成績も優秀だし。みんなの憧れなんだよ、金髪チャラ男先輩。猟平、ほんとに知らなかったの?」

「そ、そんなすごい人がなんでそんなヤンキーみたいな格好……」


 俺の言葉に、金髪チャラ男先輩、鼻の頭を掻いた。


「いや、人間見た目じゃないっしょ」


はい、見た目で判断してたのは俺です。

金髪チャラ男先輩を見た目で金髪チャラ男だと決めつけてました。


「は、はは……そっすね……」


 俺はいま猛烈に恥ずかしい。

 こんな人が小兎の彼氏だなんて……。

 俺なんか今まで小兎に告白もせず、ただ付き合えたらいいなと思ってダラダラしてただけ。

 こんなの敵うわけないじゃん……!

 なのに、小兎のこと好き好き言って、小兎も俺のこと好きだと勘違いしてて……。


 ……あ?

 待てよ?

 俺はアホだから気付かなったが……他の皆はこのこと知ってたのか?

 小前田とか他のクラスの連中、小兎と金髪チャラ男先輩が付き合ってるって……知ってた?

 ……思い返してみると、なんかそんな節が……。


 じゃ、じゃあ、もうとっくに彼氏がいる小兎に対して、好き好き言ってた俺の醜態、ずっと見られてた!?

 こいつ、アホやな……みたいな憐みの目で!?

 え?

 つまり、俺は悲しきピエロ……?

 共感性羞恥の塊……?

 ……あああああ!

 ああ、もう俺ヤクザになるわ!

 人の心を捨て獣と化す!

 止めんな!


 そうして野獣と化した俺。

 クマとお似合いだな、とか思った。

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