第43話 彼は金髪財閥の御曹司です
その夜、俺は家の近くの公園に向かった。
「大事な話があるから」
小兎にそう伝えて呼び出してある。
待ち合わせ時間は19時。
もちろん、今から告白しようという魂胆だ。
俺の気持ちをちゃんと打ち明けて、今までの、なんというか、なぁなぁで済ませてきた関係をはっきりさせたい。
こんな急に告白を決意できたのはクマのお陰。
さっき、その……あんなことになっちゃったからだ。
そのせいで俺の中に変な気の迷いが生まれてしまうかもしれない。
まあ、この場合の気の迷いっていうのは、クマ大好き! チュッチュッ! みたいな?
……だからその前に、小兎とお互いの気持ちを確認する。
お互い好きあってる同士なんだし、そんなのわざわざ確認するのは照れ臭いけど、まあ、ちゃんと口に出して愛を誓うのは大切よね?
で、俺は小兎が好きだし、小兎も俺が好きだってはっきりさせれば、俺はもうクマのことなんか気にせず、小兎と正しくラブラブ生活を送れるようになるってわけ。
まったく……!
こんなことなら、もっと早く告白しとけばよかった!
そこらへん、ちゃんとしとけば最初からクマなんかに心揺さぶられたりせずに済んだのに……!
あんな……クマとキスしたのが間違いなんだ。
とはいえ、ね?
あれってクマから強引にされたわけだし?
俺、悪くないよねえ?
あの時は、心臓破れるかと思うくらい緊張した。
でもあれは好きとか恋人とかそういうんじゃない。
危険生物に超接近したことによる緊張だった。
誰だって、クマとかサメとかがキスするくらい間近にいたら心臓バクバクになるっしょ?
そういうことよ。
……そうじゃなかったら、俺はおかしい。
クマのことを可愛い女の子としてみてドキドキしているなんて……。
初めて会った時からずっと意識しっぱなしだったなんて……。
それでキスして……小兎ではなくクマを好きになるとか、あまりにも俺、無節操過ぎないか?
筋が通ってないだろ、これ。
俺は小兎に一途なんだと言い続けておいてさあ。
それじゃ俺、キスできる女の子なら誰でも、それこそクマでもいいみたいだし。
あかんでしょ?
俺はそういう人間じゃないんだってこと、声を大にして言いたい……!
俺はクマのことなんかなんとも思ってないって……だから小兎に告白だってできちゃうんだぜ!
俺は公園で小兎を待つ間、ずっとそんなことを考え続けていた。
なんでこんなモヤモヤ考え続けてるのか、よくわかんないが……。
……にしても、小兎、遅いなあ……。
俺が待っているのはマンションに付随するように作られた小さな公園だ。
ブランコがある程度の小規模なもの。
今の時期だと、19時くらいでもまだ空が少し青い。
気持ちのいい夕方。
「猟平~!」
そんな声をかけられた。
なんだ、やっと来たのか。
俺は肩を竦めながら、声の主である小兎の姿を探す。
道の向こうから、元気よく手を振る小兎が駆け寄ってくるのが見えた。
「ごめんごめん! ちょっと先輩と話してて遅れちゃった!」
「お、おう……?」
俺は小兎の横に目線を送り、口ごもる。
一方、小兎は屈託ない。
「で? 大事な話って? お金とかの話? あ! それとも……もしかしてベアちゃん関連の話!? もしかして、なんか進展あった!?」
目をキラキラさせて俺に聞いてくる。
その表情の豊かさに、俺は溜息。
やっぱ、俺の幼馴染はかわいいなあ。
「ベアちゃん……?」
「うちのクラスに転校してきた超きれいな子のこと! 先輩も聞いたことあるでしょ?」
「……へえ、おもしれーじゃん。いいこと聞いたわ。そんなにレベルたけーんならチェックしとかないとな」
「ちょっと先ぱーい? 変なことする気じゃないでしょうね?」
「ばっか、そういうんじゃねえよ!」
「……あの、小兎……?」
かわいい幼馴染とその横に立つ相手。
その2人の会話の合間に、俺は小さく問いかける。
「ええと……そっちの人は……?」
「あ、ごめんね、紹介おくれて。こちら、わたしのテニス部の先輩、金髪チャラ男先輩だよ! チャラ男先輩、こっちがわたしの幼馴染の叉木君です」
「ちーっす、よろしくぅー」
名は体を表す。
金髪チャラ男先輩、マジ金髪チャラ男だった。
胸元の金のアクセチャラチャラ。
「……え……? テニス部の先輩って……あれ……? ……女子テニス部の先輩で……女の人じゃ……?」
「? わたし、そんなこと言ったっけ?」
言ってない。
俺が勝手にそう思い込んでただけ。
「えっと……あの……小兎、先輩と随分親しげなんだな……?」
「あはは、わかる? その、わたし達、ちょっと前から付き合ってて……」
小兎は可愛くはにかみながら、俺に笑顔を向けてきた。
「……付き……あってる……?」
「あ、あの皆には内緒ね? 金髪先輩のおうち、結構厳しいらしくて……」
「ナイショったってよ、結構俺らのことバレバレじゃね?」
「ええー? そんなことないよ~。猟平も気付かなかったでしょ? わたしが先輩と付き合ってるなんて?」
まったく気づかなかった。
そんな素振りも、兆候もまったくなかったじゃないか。
なのに、どうして……!
あまりに唐突な彼氏いました設定、これがマンガやアニメならご都合とかリアリティがないとか大炎上してるだろ!?
「な、なあ、小兎? 先輩と付き合ってるって……マジで言ってる?」
「えへへ……うんっ!」
小兎の顔はそれはそれは嬉しさで弾けそうで、俺の心が先に弾けた。
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