第62話 62

62


安藤さんは携帯に向かって口汚い言葉を発したのを、俺が見ていると気づいたのか小さく「コホン」と咳払いをして話始めた。


如月きさらぎれいのマネージャーからで、やらかしたから、そっちにも火の粉飛ぶから逃げてねとの事よ」


「え?」


俺は何を言っているのと思った。


「見ていて分かったと思うけど鈴木君の事が世間にバレたから逃げてって意味よ」


「いやいや、対処するんじゃなかったの?」


「私に言われても仕方ないでしょ。とりあえず対策考えないと」


俺は対策と言われて可能性あるの一人だよなと思った。それは安藤さんも同じようで安藤さんが先に口を開いた。


「あまり頼りたくはないけど城島じょうじまさんに頼るしかないわね」


「俺もそう思うけど対価はどうするの?」


「ないわ。だからこれはお願いとして話をするわ。鈴木君もそれでいい?」


俺がコクリと頷くと直ぐに安藤さんは城島じょうじまさんへと連絡をとった。

……

城島じょうじまさんは今日の夕方に会ってくれる事になった。

普段なら早くても明日が普通なのだが。

俺達は城島じょうじまさんを待たせては悪いと思い、早めに店を出ていつもの喫茶店へと向かった。


俺達はかなり早く喫茶店へと到着し城島じょうじまさんを待つ予定だったが、すでに城島じょうじまさんは席に座りコーヒーを飲んでいた。城島じょうじまさんは俺達の姿を見ると明るい声で声を掛けてきた。


「あれ!?お二人さん早いですね」


「お久しぶりです」


俺達は挨拶をしながら席についた。


「それで話と言うのは大体想像がつくけど一応聞くとしよう」


安藤さんが最初に口を開いた。


城島じょうじまさんは如月きさらぎれいの芸能ニュースはご存じですか?」


「ああ、知ってるよ。シグナルスキャン君と抱き合っていたやつでしょ」


城島じょうじまさんが冗談のような言葉を発したので俺が答えた。


「だっ抱き合ってはいませんがその件です」


続いて安藤さんが口を開く。


「その騒動の鎮静化をお願い出来ませんか?」


城島じょうじまさんは腕を組みながら考え、そして口を開く。


「それで対価はどうするのだね?」


「ありません。ですからこれはお願いとしてきました」


城島じょうじまさんはため息をついて答えた。


「本来なら断る所だが、以前東京の痴漢冤罪で迷惑を掛けたから受けよう」


「あっありがとうございます」


俺と安藤さんは頭を下げた。


「ただし!貸しひとつだからね」


「ははは、お手柔らかにお願いしますね」


俺は少し笑顔で答えた。


「しかし、シグナルスキャン君、君、女難じょなんそうが出ていないかい?」


「え!?」


俺は反射的に横の安藤さんを見てしまった。悪気はないが。

しかし安藤さんの反応は早かった。


「どうして私を見てるのよ!」


安藤さんは少し怒りながら俺の太股を手でつねってきた。


「ごっごめん!悪気はないんだ!反射だよ、反射的にね」


「反射はそう思ってるって事よ!」


俺達は城島じょうじまさんの前で漫才のように言い合った。


「仲がよろしいようでなによりだ。それより良かったら除霊師じょれいし紹介するよ。安くしとくからどうだね?」


「えっ遠慮しておきます」


「それは残念」


城島じょうじまさんは嘘か本気か分からない人だ。

そして俺は聞きたい事があったので口を開いた。


「それでどのように対処されるのですか?」


城島じょうじまさんは冷たくなったであろうコーヒーを飲み、そして両腕をテーブルに乗せて語って来た。


「君達は『毒は毒を持って制す』と言う言葉を知っているかい?」


俺達はその言葉を聞いて喫茶店を後にした。

背中に悪寒おかんいだきながら。


*


翌日、場所は一生笑顔スマイリー教の教団内部。

教祖の住む応接室に城島じょうじま笑顔えがお万歳まんさいが対面していた。


「今日、私がここへ来た理由は分かりますね」


そう声を掛けたのは城島じょうじまだ。

笑顔えがお万歳まんさいはすまなそうな顔で答える。


「大体想像はつく」


「それなら結構。どうして写真を防げなかったのかね?」


「報告では内の者も誰も気づけなかったとの事だ」


「そうですか、起こってしまった事は残念ですが、対応を考えないといけませんね」


「対応と言うと?」


「今世間の目はシグナルスキャンに向こうとしています。それの対応です」


「つまり世間の目を他に向け指すと言う事ですか?」


「ご名答。それで何か良い話はありませんか?ちなみに芸能以外ですよ」


「何かと言われても困るが芸能以外だと、政治、金、宗教と言う事ですよね」


「そうです。確信じゃなくても噂でもいいです」


「あるにはあるが…」


「誰の話ですか?」


「野党の衆議院議員、浅原あさはら喜一きいちです。ご存じですか?」


「良く知っていますよ。悪い噂しか聞かない人ですからね。で、彼の噂とは?」


浅原あさはら喜一きいちは裏で宗教団体オクトパスと繋がりがあり、多額の金を得ている噂です」


「まあ、良い線ですがこれは少し賭け・・になるかもしれませんね」


「賭けですか?」


「宗教団体オクトパスの理念は知っていますか?」


「確か日本を幅広い観点から住みやすくするでしたか?」


「流石同じ宗教団体ですね。オクトパスは海の蜘蛛くもと呼ばれています。そして団体は日本中にまるで蜘蛛の糸のように、点々と山を所有しています」


「山ですか?」


「ええ、表向きは植林をして空気を良くして住みやすくですが、裏では不必要の大根を埋めるのに必要な山らしいですよ」


「不必要の大根ですか…」


「山は私有地でして土砂崩れでも起きない限り、大根を掘り起こす事は出来ませんから。まあ、恐らく特殊な薬品と共に不必要な大根を埋めて、良質な土へと変わっていると思いますけどね」


「私の団体はそこには足を踏み入れておらんよ。ちなみにどうして点々と山を所有しているのかね?」


「不必要な大根は遠くに運ぶと腐るので近場に山があった方が埋めやすいのでは?」


二人の間にしばしの沈黙が流れる。

そして城島じょうじまが口を開く。


「それで話を戻しますが浅原あさはら喜一きいちをネタにしましょう」


「しかし噂なので確信ではないですよ」


「構いません。噂と言う事は何かあるのですよ『火のない所に煙は立たぬ』と言うことわざがあるようにね」


「それでどの様にしますか?」


「そうですね。最初はネットニュースで拡散し、その後に雑誌で追い込むやり方が無難じゃないですか?」


「ネットニュースは伝手つてがないですよ」


「それなら最近保釈されていい男が居ますよ」


城島じょうじまは鞄から名刺を取り出し机の上に置いた。


『Worhtless door(価値のないドア)運営

ジャーナリスト

榊原さかきばら

電話番号 000-187-04510-194

mail   sakaibara@katino_nai_hito_dayo 』


笑顔えがお万歳まんさいは名刺を見ながら口を開く。


「何をしたのですか?」


「シグナルスキャンをつけ回していたので、迷惑防止条例違反で逮捕して一時釈放した男ですよ」


「罪に問わずに一時釈放とは何故ですか?」


「簡単ですよ、いつもでも罪に問える状態と言う事です」


「なる程、それでは罪に問わないとでも言って記事を書かせればよい訳ですね」


「ご名答。今彼は東京に居ます。通常なら記事を書かせて金を握らせて逃がすのですが、今回は変装させて名古屋まで連れて来て教団でかくまって下さいね」


「何故ですか?」


「情報を聞き出されて消される可能性が高いので…」


「そこまでですか…」


「用心に越した事はないですからね」


「分かりました。至急手配して実行に移します」


城島じょうじまは無事作戦が終わると良いなと思うのであった。

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