第61話 61

61


俺は雑誌を見て叫んだ。


「どう言う事か説明してもらえるのでしょうね」


安藤さんの目が怖いが俺はあの日の事を安藤さんに語った。


田口たぐちさんじゃなくて如月きさらぎれいさんが店の前に来て、占いのお礼だと言ってプロマイド写真貰って、一緒に駅まで歩いている時に如月きさらぎさんがつまづいて転びそうになったから、俺は彼女の手を掴んで転ばないようにして上げたんだ。これだけだよ」


安藤さんは大きなため息をついた後話し出した。


「だから最近ニヤニヤとしていたのか…」


安藤さんがボソリと呟いたが俺は聞きとる事が出来なかった。


そして、目つきが少し尖り口を開いた。


「いろいろツッコミ所満載だけど、今は今後の事を考えるのが最優先だと思うわ」


「今後の事?」


「そう…」


安藤さんが話そうとした瞬間に安藤さんの携帯が鳴り響き、安藤さんは携帯に出た。


「はい、安藤です」


「お世話になっております。如月きさらぎれいのマネージャーです」


「あっお世話になっております」


「率直に話すわね、週刊誌はもう見たかしら?」


「はい、見ました」


「それなら話は早いわ。今日このあとれいはイベントに出演予定になっていて、その後に囲みの記者会見を開く事が決まったわ。恐らくはネット配信もされると思うから、あなた達も関係者だから見といてね」


「はい、見ます」


「一応そこでれいから誤解を解くように説明させて終わらせる予定よ。それじゃあ」


「はい、失礼します」


安藤さんは携帯から耳を話すと俺に声を掛けて来た。


「今、如月きさらぎれいのマネージャーから電話があって、今日如月きさらぎれいが記者会見を開くから見といてだって。ネット配信もあるらしいよ」


「それでこの騒動は終わるの?」


「終わると良いわね。でも、それはそれよ。最悪のパターンを想定して作戦立てるわよ」


その後、俺と安藤さんはいろんなパターンを想定したが決める事は3つだけだった。


1. ショッピングモールの営業はほとぼりが冷めるまで中止。

2.1階の一般用病気占いの開業も延期。これもほとぼりが冷めるまで。

3. 個別の病気占いは継続して行う。現在これしかお金を稼ぐ手段がないため。

以上の事が俺と安藤さんで決められた。


そして俺達は如月きさらぎれいの記者会見が始まるのを待つのであった。


*


私は、如月きさらぎれい・本名田口たぐち弘子ひろこ

朝事務所で今日の予定の段取りをしている時に、事務所スタッフが部屋に飛び込ん出来た。

そして私達の前に週刊誌を広げた。

そこには

『女優 如月きさらぎ れい・名古屋で密会か!?

 ○月○日16時45分頃、若い男性と歩く如月きさらぎれいの姿を発見した。如月きさらぎれいは男性と仲良く話しながら歩いていたが、駅が近くなると突然男性へと抱き着いた。別れが惜しいのかは分からないが、人目が近い事から直ぐに男性から離れて変装用の帽子とマスクをして、一人で足早に駅へと向かった』

雑誌の下には大きく如月きさらぎれいと健一があたかも抱き合ってるような写真が掲載されていた。シグナルスキャンの目には黒い線が入れてあった。


「何よこれ!説明しなさい弘子ひろこ!」


叫んだのは私のマネージャー。怖い顔をさらに目くじらをたてて。


「私が転んだ拍子にシグナルスキャンさんが支えてくれただけ。やましい事なんてしてない」


私の誠意ある言葉が通じたのかマネージャーはいつもの顔に戻った。


「直ぐに社長を呼んで来るから待っていなさい」


マネージャーは部屋から出て行き直ぐに社長を連れて戻って来た。

社長は週刊誌を手に取り食い入るように読んでから口を開いた。


「カメラマンがワザと抱き合う様に見える角度で撮影してあるな。こりゃかなり場慣れしている奴だな」


「社長関心している場合じゃありません!」


社長の感想に檄を飛ばしたのはマネージャーだ。


「おっすまんすまん。それで今日のれいの予定は?」


「今日はイベントに参加する予定です。その後ドラマの打ち合わせとカメラテストが入っています」


社長はしばし考えて口を開く。


「イベントの後で記者会見を開こう」


「本気ですか社長」


「ああ、本気だ。いつかはれいも囲み取材を受ける時が来る。それが今ってだけだ。今から聞かれる質問の予想と回答を準備してくれ」


「わかりました」


れいはどうしたら記者たちに誤解だと認識させれるか考えてくれ」


「はい、わかりました。ご迷惑かけてすみません」


私は頭を下げた。


「そう気にするな。長い芸能活動をすれば一度や二度は遭遇するものだ。なっマネージャー」


社長はマネージャーへと話を振る。


「まあ、確かにそうですね。私も前の子の時は3か月連続で写真撮られて頭おかしくなりそうでしたからね」


「ああ、サラちゃんはガードゼロだったからな。でも今は立派に頑張ってる。人は成長するさ。よし話はここまで、直ぐに準備に取り掛かれ!」


社長の号令で皆準備に掛かった。


そして私はイベント終了後に記者たちに囲まれた。カメラ付きで。


-


「ただいまより如月きさらぎれいの記者会見を始めます。まず最初にれいさんより言葉があります」


「みなさん如月きさらぎれいです。今回の写真について話します。あれは私が石につまづいて転びそうになった時に支えて貰っただけの写真になります。支えた人は一般人なので詳しくは言えませんが、私のアドバイザーです。以上です」


カメラマンからの激しいフラッシュがたかれて、如月きさらぎれいの周りだけが外に居るかのような明るさになる。


「それではここからは記者達の質問タイムとさせて頂きます」


如月きさらぎさん、どうしてあんな何もない所を歩いていたんですか?」


「彼が駅まで歩こうと言ったからです」


「ふ~ん、彼ねぇ。で、彼とはどう言う関係ですか?」


「先ほども言いましたが私のアドバイザーです」


「何のアドバイザーですか?」


「体です」


「体ですか?どのようにアドバイスを貰えるのですか?」


如月きさらぎれいは究極に質疑応答が下手だった。

横から社長とマネージャーも見ていたが二人共に頭を抱えていた。当初途中で止めようかと思ったが、ここで止めれば記者達に追いかけ回され営業が上手く行かなくなるので続行させたのだ。


「すっ睡眠は大事だと」


れいは初めてと言う事もあり、完璧にてんぱっており自分でも何を言っているか分からなかった。


「そうですか、マネージャー同伴なしで彼に会いに行った訳ですね」


「おっお礼をしに行っただけなので、マネージャーは駅で待機してもらっていました」


「何のお礼ですか?」


「アドバイスのお礼」


「彼の職業は?」


「まだ、学生です」


れいは健一との雑談で健一が学生だと聞いた。


「学生さんが体のアドバイスをくれるのですか?」


れいは記者達に追い込まれてんぱってしまった。

そしてとんでもない発言をしてしまう。


「病気を占ってもらったから…」


ここで社長が脇からストップを掛け、スタッフが飛び出し会見を中断させる。


「申し訳ありません。次のスケジュールがありますので、会見はここまでとさせて頂きます」


「ちょっとまだ話聞いてませんよー」

れいさん、彼とはお付き合いしているのですかー」

「いつからのお知り合いですかー」


記者達からの罵声に近い言葉の嵐と激しいカメラのフラッシュの中を、スタッフ達はれいを引っ張っていくのであった。


*


会見をネット配信で見ていた俺と安藤さんは口が開いたまま塞がらなかった。

どうしてあのような会見になったのか意味不明であったからだ。

そして二人で顔を見合せて声を掛けようとした時に安藤さんの携帯が鳴り響いた。

安藤さんは我に返り携帯に出た。


「はい、もしもし安藤です」


如月きさらぎれいのマネージャーです。ごめん、やらかした!そっちにも火の粉飛ぶから逃げてね、じゃっ」


それだけ言うと電話は切られた。


「ふざけんな、ババァー!」


安藤さんは携帯に向かって口汚い言葉を発した。

安藤さんが安藤さんじゃなくなって行くと、俺は安藤さんを悲しい目で見つめるのだった。

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