第17話 17

17


お姉さんが強引に午前中のイベントを閉めて俺とお姉さんは舞台よりバックヤードへと移動すると、部屋から何やら少し言い合う声が聞こえて来た。

その声は俺も先ほど聞いていたので覚えている、七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけの二人の声だ。

俺はスタッフも大変だなと思い自分のスタンバイ部屋に戻ろうとした時にお姉さんから声を掛けられた。


「シグナルスキャンさん占いの事なんですけど」


お姉さんこと、清水しみず若菜わかなさんは先ほどの舞台と違い顔から明るさが消え、どちらかと言うとただならぬ雰囲気をかもし出しながら近づいて来た。たが、俺は気づいていない振りをして返事をする。


「なんでしょうか」


「実は先ほどの占いなのですがなかった事に出来ますよね」


「なかった事とはどう言う意味ですか?」


「私が病気であるという言う事です」


「なかったの意味は分かりませんが、占いで病気かもしれないと出ただけですが、一度病院へ行って検査をされた方がいいと思いますよ。僕の占いではレベル2の青色→黄色なのでそうだとしても、相当初期だと思われますので」


「まあ占いですもんね。ありがとうございます」


お姉さんはそれだけ言うと自分の控室の方へ歩いて行った。

俺はお姉さんと離れた後ポケットよりスマホを取り出し病気の意味を調べた。

そして、俺はその病気がどうやって引き起こされたのか見なかった事にしてスマホをポケットの中にしまった。

お姉さんのプライバシーに関わるからだ。

ただ、一言だけ言えば特殊な行為で起こる可能性があるとだけ心に留める事にした。


気持ちを切り替えてスタンバイ室に戻ると、すでに安藤さんが戻っていて昼食の準備をしていてくれた。


「あっお疲れさま。ご飯準備で来てるから手を洗ってから座ってね」


俺は礼を言い仮面を外し上着のコートを脱いでから手を洗い、口のうがいをしてから椅子に座った。

正面には安藤さんがお茶を準備しながら座っていた。

俺はその光景をみながら、なんかいいなと思った。


それから俺達はイベントの内容には触れずに、今後の方針なんかを話し合いながら昼食を食べた。

そして14時になり2回目のイベントが行われたが、そこには七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけの二人の姿はなく、別の芸人の二人がいた。

それは予定通りだったのか俺には分からないが、午後のイベントは何事もなくスムーズにイベントは終了した。


イベント終了後スタンバイ室で佐藤さんと向き合っていた。


「イベントお疲れさまです。シグナルスキャンさんにはいろいろご迷惑を掛け大変だった事をお詫びします」


佐藤さんはそう言うと頭を下げた。


「佐藤さん頭を上げて下さい。大変だなんて思いませんでしたよ。俺いや私としても初めてで逆に迷惑を掛けたのではないかと心配していましたので」


俺はそう、何事もなかったように笑顔で答える。


「そう言って頂けると私としては一安心です。それでは改めまして今日のイベント出演料である5万円と受領書になりますので、受領書にサインと印鑑を頂けますか」


俺は受領書にサインし安藤さんが準備してくれた印鑑で捺印し佐藤さんへ手渡した。


「はい、確かに受け取りました。今日はどうもありがとうございました。又、イベント等があればお声を掛けさせて頂くかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました」


俺達は佐藤さんに見送られてイベント会場を後にしたのだった。

その後俺はショッピングモールのトイレで着替えて安藤さんと共に電車に乗り、安藤さんが住む駅で降りて喫茶店で話をする事にした。


「今日はどうだった?」


俺はホットコーヒーを飲みながら安藤さんに聞いて見た。


「ん~少し緊張したけど、裏方だからそれほどかなって感じ」


安藤さんはアイスカフェラテをかきまわせながら答える。


「そう、なら良かった」


俺はその後他愛ない話をした所で考えていた計画を話す事にした。


「安藤さん相談があるのだけどいいかな?」


「いいよ」


「安藤さんも知っての通り最近俺の稼ぎがかなりいいよね。たぶんこのまま行けば親の扶養からは外れる事になると思う。正直扶養から外れる事は親に相談してあるから問題はないんだけど、俺が危惧きぐしているのは安藤さんに収入が入っていない事なんだ」


「そっそれは…」


俺は手で安藤さんの返答を阻止して話を続ける。


「正直安藤さんがホームページとか作ってくれてさらに俺のお手伝いをしてくれてとても感謝しているんだ。それは安藤さんが俺にお礼をしたい気持ちで行ってくれているのはとても分かるんだ。でも、ちょっとキツイ言い方なんだけどホームページを作ってくれて、それは仕事ではなくお礼と言われると俺はどう接すればいいか正直分からないんだ」


俺は安藤さんに遠回しに責任がないと伝えた。

安藤さんも分かっているようで少し困惑をしている。

そして俺は最後の詰めに入る。


「そこでだ。安藤さんも俺と同じように個人事業主になって正式に仕事として受けてくれないかな?」


「私が個人事業主に?」


「そう。事業形態は業務補佐とかそんな感じで。あっ当面俺の鈴木屋からの仕事のみになるけどね」


安藤さんは少しうつむきながら考えている様だ。

そして俺はダメ押しの言葉をつむぐ。


「安藤さんも俺と同じ『社長』になってよ」


この言葉が決めてとなって安藤さんの個人事業主になる事が決定した。

そして会社の屋号やごう(会社の名前)は、『安藤屋』にした。

俺の会社の名前の時に適当でいいと言われたので、俺は安藤さんが決める時に安藤屋でと言った時の安藤さんの納得の言ってない顔は俺の目に焼き付いてしまった。


俺はこれで安藤さんではなく、安藤屋への仕事依頼が出来るので自宅に帰るなり契約書の作成等をネットで調べたのであった。

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