第16話 16

16


 製薬会社のイベント


七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけとお姉さんの壮絶なやり取りで、イベント会場の気温がもうすぐ夏だと言うのにどんどんと冷えて行く。

俺はヤバイイベントに参加してしまったと思ったが、安藤さんは俺の横で腕を組みながらその様子を見ていて、ボソリと「やっぱり下調べはしっかりしないと地雷を踏むのね」と呟いていた。

俺はその言葉に突っ込む事なくイベント舞台に視線を向けると、反対側のテントで佐藤さんが司会のお姉さんに次へ行けと合図をしていたが、お姉さんは奮闘していた。


「それではここで病気に関するコントをします」


予定にないのか七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけのコンビはコントを開始した。


「コント病気。なあなあ俺太ってるやん?どうしたらお前見たいに細くなれる?」


「そんなん簡単じゃん、食べなきゃいいだろ?」


「それが出来たらお前に聞かないんだけど」


「確かにそれは一理あるな、食べないか食べれない方法を探せばいいのか?」


「じゃあ、こうゆうのはどうかな?」


「どんなの?」


「富士の樹海の奥地にお前を置いてくるってのはどうだ?」


「それ、いい案だけど、ヤバくない?もし、帰って来れなかったら俺死んじゃうよ?」


「死は確かに本末転倒だよな。それじゃあ風邪をひくのはどうかな?」


「なんで風邪?」


「お前、前風邪ひいた時に1キロせたって言ってたじゃん。だから、回復したら風邪引くを繰り返せば痩せるでしょ」


「おっお前天才だな。よし、早速俺風邪引く努力するわ」


「努力ってどうするんだよ」


「俺、あの時、焼肉の食べ放題に行ったんだ。どうもそこで風邪を貰ったらしいから、風邪を貰いに焼肉食べに行ってくるわ」


「お前は痩せる気がないだろ」


「てへぺろ、バレちったか。やっぱり病気は怖いよね。七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけでした~じゃんじゃん」


イベント会場はあまりのまらなさ静まりかえりしん・・としていたが、ここがチャンスとお姉さんが割り込む。


「それでは病気に関してもう一人ゲストをお呼びしたいと思います」


お姉さんはコントをなかった事にしてイベントを進める。

そのお姉さんの横顔を七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけの二人の男は、なにわれ無視しとんねんと言いたいばかりににらめ付けていたが、お姉さんはスルーしていた。


「最近ひそかに話題になっているのですが、このショッピングモールでも行っている占い師をお呼びしたいと思います。占いと言ってもなんとも珍しい病気を占うと言うものです。早速およびしたいと思います。シグナルスキャンさんどうぞ!」


俺は力強いお姉さんの言葉で登壇する。

舞台から会場を見るとお客さんの数は50人以上はいる様だ。

そして、スタッフのが後ろから俺が占い結果を書くセットを、背の高い台車に乗せて持って来てくれる。


「こんにちは初めまして」


「初めましてシグナルスキャンです。よろしくお願いします」


すると少ないが拍手が起こった。


「シグナルスキャンさんの見た目で少しビックリされた方もいると思いますが、どのような意味で仮面をつけてらっしゃるのですか?」


「はい、実はまだ学生をしていまして身バレ防止ってとこですね」


「学生と言うと大学生さんなんですか?」


「そうです」


「それで今回病気を占って貰うのですが、実はシグナルスキャンの占いの当たる確率を出してもらったんです。私も数値を見てビックリしたんですが、なんと!的中率98パーセントです。みなさん信じられますか?」


お~と言う声が会場から起こる。

この98パーセントは俺が決めた数字だ。

流石に100パーセントはまずいと思いこの数値にした。


「それでは時間も少し押していますので早速占って貰おうと思うのですが、七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけのお二人でどちらが先に占いますか?」


「はぁい、はぁい、はぁい、はぁ~~~い!僕から占って欲しいです。僕一応胃がんを克服しているので、どんな感じかなぁ~って思って~あとぉ~占いなんて当たるも八卦はっけ当たらぬも八卦はっけって言うじゃないですか。それでぇ~」


太った男が手を挙げながら返事をして、グダグダと喋ろうとした所でお姉さんが横から入る。


「はい、お話の途中ですがシグナルスキャンさんお願いします」


お姉さんの強引な割り込みで太った男は『何、わりこんどんねん』と言わんばかりの目線をお姉さんに送るが、お姉さんはスルーする。

俺はそんな二人のやり取りを無視して太った男の前に出て右手を出し声を出す。


「それでは行きます。シグナルスキャン!」


俺はいつもより大きな声で力強い言葉を唱えて、そしてその結果を用紙に記入する。


「はい、終わりました」


俺は占い結果を伏せた状態で太った男に渡す。


「さあ、それでは占い結果の公表を御願いします」


お姉さんが告げる。

太った男は俺の占い結果の紙を見て顔色が変わる。

少し動揺したが男は占い結果の紙を観客に見せながら答える。


「体、食道がん、レベル3、黄色注意」


お姉さん及び太った男…いや、会場中が静まりかえるが、お姉さんがいち早く復帰する。


「占いです。これはあくまでも占いなので、そこまで気にする事はないんじゃないですか?」


お姉さんが必死にフォローを入れるが太った男は激怒する。


「ふっふざけんじゃねぇーよ!何が食道がんだよ!俺をおとしいれようとしてるんだろ!」


それからわけわからず叫んだ為スタッフによる強制退場となり、お姉さんが会場をなんとかしようと叫ぶ。


「それでは少しアクシデントがありましたが、もう一回の占いは私が受けたいと思います。シグナルスキャンさんおねがいします」


俺は少し引きつっていたが占いを開始し、同様に占い結果の紙を伏せてお姉さんに渡す。


「さあ、私の占い結果はどうでしょうか見てみたいと思います」


お姉さんは自分が見えるように結果を見て顔を赤くさせるが、俺にはそれがなんの病気かはわからなかった。ただ、その病気の位置が肛門付近だったのだけは確認した。


『体、直腸脱ちょくちょうだつ、レベル2、青色→黄色』

しかしお姉さんは強かった。


「はい、結果なのですが乙女の秘密って事で終わりたいと思います。今日は○○製薬株式会社の新薬発表イベントにお越し頂きありがとうございました。午後14時からもイベントがありますので良かったら見に来て下さい。司会進行は私、清水しみず若菜わかなが勤めさせて頂きました。ありがとうございました」


お姉さんと俺は会場に手を振りながら強引にイベントを閉めたのだった。

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